百年泥 石井遊佳
自らの混沌とした生き様を、マジックリアリズムの手法を用いて描いた作品。
南インドのチェンナイに来て3ヶ月半たったある日、目覚めると1階の門扉が隠れるくらいの洪水だった。アダイヤール川が氾濫し、100年に1度の大洪水に見舞われたのだ。電気・水道がとまり、インターネットが不通になった。
主人公が受け持つ日本語のクラスは当然休講になる。
![]() 石井 遊佳 新潮社 2018年 |
男に騙されて多重債務者になり、ヤミ金の借金を元夫に返済してもらった代わりに、チェンナイにある会社の日本語講師の職を斡旋してもらった。5年かけて元夫からの借金を返すことになった。
つい最近、大阪とチェンナイは友好都市の提携を結び、大阪市にあるすべての招き猫とチェンナイ市のガネーシャ像を交換したという。
日本語クラスの生徒は、名のあるIT企業の新入社員4名。一流大学を卒業したばかりの若い男たちだ。
生徒たちとやりとりは、初めはもちろんスムースに行かなかった。そのうちに無駄口の多い生徒が、質問によって授業の道筋をつけてくれているのではないかと思い始めた。
洪水の3日後に街に出ると、川の底に溜まっていた100年分の泥が道の端にず高く積まれていた。街は大洪水の後を見物しようとする群衆でごった返している。翼で飛翔する通勤者が現れたりする。
その百年泥から、大阪万博のコインペンダントや人魚のミイラや人間など、さまざまなものが現れてくる。
架空の話と現実の話が混じり合い、場所や時制が切れ目なく変わり、苦悩の過去やなんとかやり過ごせそうな現在が饒舌に語られる。筆さばきが見事だ。
第158回芥川賞受賞作(2018年1月)。→人気ブログランキング
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