オスカー・ワォの短く凄まじい人生 ジュノ・ディアス
悲惨な運命もたらす呪いをドミニカではフクという。オスカーを中心に、フクに取りつかれたカブレラ家三代を描く。骨太のストーリーに、ポップでナードな比喩がこぼれ落ちんばかりふんだんに使われる。ぶっ飛んでいる傑作だ。
オスカーは、アニメ、ゲーム、SFをこよなく愛するオタクであり、なににも増して女性に大いに興味があるが、まったくモテない。高校2年生になると、オタク気質にますます磨きがかかり、体重は110キロになった。
姉のロラは忠告する。変わらなければ、童貞のまま死ぬことになるわよと。ドミニカ人は性的にイケイケなのだ。
その後のオスカーの生活は、ロラの忠告通り女性っ気の乏しいものだった。オスカーは、女性に対しちょっとのことでのぼせ上がってしまい、ものの見事にふられ、絶望のどん底に落ちるのだった。
![]() ジュノ ディアス/都甲幸治・久保尚美 訳 新潮社 2011年 |
祖父アベラードはかなりの地位の医者であり、一族はドミニカの名家だった。
ドミニカ人はトルヒーヨの20年にも渡る極悪非道の恐怖政治に苦しめられた。ドミニカは悪霊に取りつかれていた。
美しい娘がいれば献上させ妾にし、拒めば父親は投獄され拷問される。
カブレラ家にはとびっきり美しい娘がふたりいた。アベラードはトルヒーヨから招待されたパーティに、妻と娘を連れていかなかったことで、投獄された。そのとき妻は妊娠していた。
妻は自殺し二人の娘も死に、残ったのは妻が産んだばかりのあまりにも色の黒いペリシアだった。そのペリシアがオスカーとロラの母親である。
ペリシアは年頃になると、禁じられた恋(相手はトルヒーヨの娘と結婚しているギャング)に落ち、祖国を追われニューヨークに移り住んだ。そして妊娠した。
大学を卒業しアメリカからドミニカにやってきたオスカーの目標は、SFの超大作を書くこと。そんなオスカーが元娼婦に恋をした。今度ばかりは脈がありそうなので、はねつけられても構うことなく猪突猛進する。それが命取りになった。
スティーヴン・キングは『書くことについて』のなかで、本書を紹介している。
オスカーの愛読書としてキングの小説が何回も出てくるので、キングは気を良くしたのかもしれない。→人気ブログランキング
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