書店主フィクリーの物語 ガブリエル・セヴィン
1ページに1冊くらいの割合で本について触れられている。主人公のセリフだったり、比喩に使われたり、本書の中の書店での売れ筋の本だったり、怪獣のことだったり、子供用の本だったり、ともかく本が多く登場する。書店員が選ぶ本屋大賞を受賞するにふさわしい本だ。
書店主フィクリーのものがたり ガブリエル ゼヴィン/小尾芙佐 訳 ハヤカワepi文庫 2017年 |
島に1軒しかない本屋の店主A・J フィクリーは偏屈な男やもめである。1年半前に妻を交通事故で亡くした。
そんなA・Jに、稀覯本が盗まれる事件と、マヤという2歳の赤ん坊が書店に置き去りにされる事件が起こった。翌日海岸に黒人女性の死体が打ち上げられ、IDカードからマヤの母親と判明した。自殺と断定された。
稀覯本の盗難は警察に届け、手続き上困難なこともあったが、マヤはA・Jが育てることになった。
マヤは人懐っこくって利発。マヤを見に島の人が本屋を訪れ、訪れる口実に本を買う。マヤのおかげで店は繁盛し、さらに、A・Jは本の営業で店をしばしば訪れていたアメリアと結婚にこぎつけた。警察署長のように、それまであまり本を読まなかった人が、本を読むようになった。
やがて、マヤの母親が自殺した理由や父親の正体が明らかになる。
それとは関係なく、マヤはすくすくと育っていく。郡の短編小説コンテストで、20の高校から40の作品が集まり、マヤの作品は上位3編に選ばれた。
母親の望みどおり本好きの少女に育ったのだ。
電子書籍の普及による本屋存続の危機という出版界が抱える問題にも、さりげなく触れている。
クリスマスにA・Jの母親がアリゾナから遊びに来て、3人にプレゼントを渡す。電子図書リーダーだった。A・Jはたちどころに不機嫌になる。アメリアは、母親に感謝の言葉をかけ、A・Jの立腹をなだめ、ふたりの間をとりなそうとする。
物語はハッピーエンドでは終わらない。
やがて、A・Jの持病である、気を失う回数が多くなって、言葉を間違うようになった。島の医者は本土の専門医に、A・Jを紹介した。A・Jの手術にはかなりの金がかかるのだった。
悲しい出来事もユーモアを交えて淡々と描いていて、落ち着いたストーリーになっている。→人気ブログランキング
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