『人類の未来 AI、経済、民主主義』 吉成真由美(インタビューアー)
対談に登場するのは、ノーム・チョムスキー、レイ・カーツワイル、マーティン・ウルフ、ビャルケ・インゲルス、フリーマン・ダイソンという顔ぶれ。世界をグローバルな観点から見つめ直すための必読の書。なお吉成真由美の夫はノーベル賞受賞者の利根川進。
NHK出版新書 2017年4月
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【第1章 トランプ政権と民主主義のゆくえ】ノーム・チョムスキー(アメリカの哲学者、言語学者、1928年)
トランプ政権に対しての評価はただ一言、予測不能だということ。
アメリカは国内由来の理由によって後退している。鉄道網が前時代のものである。金融セクターは伸びているが、経済にとって貢献してるか疑問、おそらくほぼ有害となっているだろうという。
健康保険は非効率的で、他の先進国に比べてコストが一人当り2倍になっている。この無駄を是正することでアメリカの赤字は解決すると指摘する。
ちなみに、シンギュラリティは空想、単なるファンタジー。〈われわれは他の生物のことを考える場合は、非常に理性的だけれども、人間のこととなると突如として非理性的になる傾向がある。〉と批判する。
今や「人新世(Anthropocene)」の時代、すなわち人間が地球環境に影響を及ぼす時代。人類が地球を滅ぼす力を備えた時代である。
【第2章 シンギュラリティは本当に近いのか?】レイ・カールワイツ(アメリカの発明家、未来学者、グーグルAI部門の責任者、1948年)
シンギュラリティ(技術的特異点)とは、人工知能が人間の知性を超える時点をさす。
カーツワイルが最も強調するのは、「指数関数的な成長の力」である。つまり想像をはるかに超えるスピードで、情報テクノロジーの分野は進歩するということ。
カーツワイルの予測は、2030年頃には、スマートフォン程度のコンピュータ・デバイスは、血球サイズになり、血液中に入り、免疫システムを補助するようになる。医療用のナノロボットがすべての病気と老化を治療する。これらは基本的にはワクチンと同じ働きをする。などの大胆な予測をしている。
インタビューアーは、「細胞一つ、ミトコンドリア一つ光合成も再現されていない」と突っ込む。
人間はポストヒューマンと呼ばれる存在になる。では、具体的にどのようになるのか。『オリジン』(ダン・ブラウン著)に登場する未来学者カーシュは、カーツワイルと進化生物学者のドーキンスが一緒になったような人物である。カーシュの演説に具体的なポストヒューマン像が語られている。
〈「われわれは混合種になろうとしているーバイオロジーとテクノロジーの融合です。いま体外にあるツールースマートフォン、補聴器、読書用眼鏡、たいがいの医薬品ーと同じものが、50年後には体内に組み込まれ、われわれはもはやホモサピエンスとは呼べない存在になっているでしょう」〉
【第3章 グローバリゼーションと世界経済のゆくえ】マーティン・ウルフ(英国の経済ジャーナリスト、1946年)
中国はこれから5年後政治システムがどうなっているかわからない。
自由にトレードできる確信が持てなければ、交換不能通貨ということになる。これでは世界通貨としてのスタートラインにすら立てない。
ユーロはこれから5年後存続しているかわからない。米ドルは少なくとも存続している。米ドルが世界通貨としてしばらく使われるだろう。
日本の借金体質はいつまで続くのかという問いに対して、国民が負債を負う意欲がある限り続けられる。20年くらいは続くだろう。
国は破産することがあるかについては、定義によるが、破産を免れるためには領土を売却すればいいとする。
日本企業は巨大な余剰資金貯蓄庫であ。過剰債務の返済が終わったあとも、慢性的に内部留保を続けている。その割合はGDPの8〜10%という。日本の政府の課題はいかにしてこの余剰金を取り出すかということ。その手段として、内部留保を吸い上げる、法人税をあげる。
EUの通貨統合は間違いだった。通貨統合したのならもっと政治的に連携を深めるべきだ。お金と移民という問題がヨーロッパの結束を脆くし、繁栄を妨げヨーロッパ全体を弱くすることになった。
ユーロ圏では、政治的な統合なしに通貨の統合を行ったことが、民主主義を蝕む結果になっているように見える。金が民主的なチェック&バランスの規制を受けないからである。権力は欧州トロイカの執行部に集中しているのに、かれらは選挙で選ばれていないため、その決定に責任をとる必要もない。
【第4章 都市とライフスタイルのゆくえ】ビャルケ・インゲルス(デンマークの建築家、1974年)
「コペンハーゲン・ハーバー・バス」の発想は、港を海水浴できるところ変える
ゴミからエネルギーを生み出すテクノロジーはとてもクリーンなものとなってきてる。
建築は人間を感動させ、意識を変える。
制約こそクリエティビティの基である。
【第5章 気候変動モデルの懐疑論】フリーマン・ダイソン(数学者、理論物理学者、宇宙物理学者、1923年、アインシュタインの後継者と呼ばれる)
気候問題にあまりにも多くの時間と労力が使われすぎた。大気中の炭素削減のために巨額の金を使うべきではない。
気候科学は宗教の様相を呈してきている。気候変動を信じない者は、いかなる研究もできないようになってきている。(アイヴァー・ジェーバー)
科学的コミュニティのコンセンサスは変わる。1930年代、優生学が科学コミュニティのコンセンサスだった。気候変動に関しても同じ種類の疑問が持たれている。
宗教と科学については、人びとは事実を確認するより、物語を信じる傾向がある。
その他教育、いじめ、神童、について語る。→人気ブログランキング
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