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『したがるオスと嫌がるメス』宮竹貴久

身も蓋もないタイトルだ。『オスとメスの性的対立』くらいの穏当なタイトルの方が、売れたのではないだろうか。
実験結果をつい人間と結びつけてしまう。ヒエラルキー下位の者が上位の者にしかける裏をかく行動は人間社会でも目にするとか、男と女はタイトルどおりの傾向があるとか、女性にマメな奴はよく動き回り女性にちょっかいを出すなどと思いながら、自分のことはさておいて読む。それが本書の楽しみ方のひとつだ。

したがるオスと嫌がるメスの生物学 昆虫学者が明かす「愛」の限界 (集英社新書)
宮竹貴久
集英社新書
2018年2月

生物の行動の基本は優秀な子孫をできるだけ多く残すことであるが、生殖に対する戦略がオスとメスではまったく異なる。オスは精子をばらまくことに専念するが、メスはできるだけ優秀なオスの遺伝子を受精するためにあれこれ戦略を立てる。したがるオスと嫌がるメスのせめぎ合い、つまり「性的対立」が生ずる。
子孫にDNAを残すかどうかを最終的に決めるのはメスである。つまり「性的対立」における最終勝利者はメスなのだ。

射精にさいし毒を放ったり、ペニスにトゲを持ったり、あるいはヴァギナを塞いだりと、「性的対立」がエスカレートした種が存在するという。
昆虫の生殖について、著者が試みたいくつかの実験の悪戦苦闘ぶりが書かれていてる。

「クヌストモドキ」という米を好む3mm程度の甲虫の性行動を研究するために、刺激によって動かなくなる虫と刺激を与えても動き続ける虫にグループ分けした。
よく動く個体は捕食者に襲われやすいが、交尾には有利だった。逆にあまり動かない個体は敵に見つかりにくかったが、交尾には不利だった。虫の世界でも「アクティヴとマメさ」がモテるコツだが、それは人間の場合も同じかもしれないという。
ではよく動くメスの場合はどうか。動かないメスと交尾の回数は変わらなかった。メスではたとえ出会いが増えても残せる子供が増えるわけではないからだろうという。

著者は、1990年に沖縄県で、野菜や果実を食べてしまうミバエの幼虫の根絶をテーマに研究を始めた。「不妊虫放飼法」という害虫根絶法は、不妊化された大量のオスをヘリコプターでばらまき、メスと交尾させ卵を産ませるが、卵は幼虫に育たないという方法である。
ここで不妊化したオスと野生のメスが交尾することを確認しなくてはならない。メスが野生のオスとの交尾をする前に、不妊ミバエのオスと交尾させなければならないのだ。ここで体内時計が問題になった。
オスとメスの発情に時間のズレが生じれば、交尾は完結しない。時間がマッチするオスとメス同士の群れを形成することになる。飼育された大量のオスは野生のメスとは発情の時間のズレはなかった。

本研究から、発情する時間のズレでその種が2群に別れれば、ふたつのグループは別々の進化を遂げ、やがて別の種に分化する。交尾のタイミングが鍵となって種分化が起こりうる仕組みを世界に先駆けて発見したのだった。→人気ブログランキング

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