ピラミッド ヘニング・マンケル
北欧警察小説の金字塔・クルト・ヴァランダー警部シリーズのスピンオフの短篇版。ヴァランダーが警察官になったばかりからベテラン警部になるまで、つまりシリーズ第1作の『殺人者の顔』の手前までが描かれている。読者からの「若い頃のヴァランダーを描いてほしい」という要望に著者が応えたという。
ピラミッド ヘニング・マンケル/柳沢由実子 創元社推理文庫 2018年 |
スウェーデン南部の中核都市にあるマルメ署で警察官なりたての血気盛んな頃を描いた「ナイフの一突き」、マルメ署から小さな町のイースタ署に移る30歳頃を描いた「裂け目」。その後の3編「海辺の男」「写真家の死」「ピラミッド」と進むにつれ、中堅どころからベテラン警部として署での重要な立場を占めるようになっていく。
最初の「ナイフの一突き」は、ヴァランダーが警察官になったばかりの頃の話である。
ヴァランダーは同じ若者として後ろめたさを感じながら、ベトナム戦争反対のデモ隊の警備にあたる。
アパートの隣人が自殺する前にダイアモンドの原石を飲み込んでいた。隣人が自殺した後に何者かが原石を探しに忍び込み、そのあとアパートに火をつけたのだ。
ヴァランダーは自分の推理が当たっているかを確かめるために単独で行動した。上司から秘密裏の捜査は許されないと叱責され、捜査のイロハを教えられる。
恋人のモナと結婚しリンダが生まれる。リンダはふたりを繋ぎとめる絆となるが、それはリンダが幼い頃までのこと。警察官という職業柄、夫婦はすれ違いが宿命だった。ついには別居し、リンダは高校を中退してモナについて行き、ヴァランダーはひとりになってしまう。ヴァランダー家の変遷を書くことで、時間の経過を表す手法をとっている。
本書のタイトルにもなっている最後の「ピラミッド」では、父親がエジプトに一人旅に出て事件を起こし警察に捕まる。身元を引き取りにヴァランダーはエジプトに行く羽目になる。
本作では、シリーズに引き継がれる、ヴァランダーの元妻への未練、若い女性新任検察官への片思い、父親との確執などが描かれている。→人気ブログランキング
→『ピラミッド』
→『霜の降りる前に』
→『北京からきた男』
→『ファイアーウォール』
→『リガの犬たち』
→『背後の足音』
→ ヘニング・マンケルを追悼する/2016年4月
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