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2018年7月

『白墨人形』 C.J.チューダー

30年前の少年時代のノスタルジックな思い出のなかに、解決したはずの殺人事件が蘇る。
1986年と2016年の今を、行きつ戻りつ交互に書かれて物語は進んでいく。
現代ホラーの帝王スティーヴン・キングが本書を強力に推薦している。主人公たちが年上の不良に襲われるところは、キングの『スタンド・バイ・ミー』と同じ設定だ。

白墨人形
白墨人形
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C・J・チューダー/中谷友紀子
文藝春秋
2018年5月 ✳︎✳︎✳︎✳︎

12歳の夏、エディにはいつも行動をともにしている4人の仲間がいた。
その仲間とは、太り気味のファット・ギャヴ、歯列矯正中のメタル・ミッキー、ミッキーには不良の兄がいる。シングルマザーの息子ホッポ、牧師の娘である赤毛のニッキー。エディはニッキーに淡い恋心を抱いていた。
エディたちはチョークで棒人形の絵を書いて秘密のやり取りをしていた。

みんなで、移動遊園地に出かけたときに事故が起こった。「ワルツァー」の座席が外れて少女の顔に当たり、顔半分がえぐり取られ足は切断された。
その時、迅速に対応したのは、新任のハローラン先生だった。ハローラン先生は白墨のように真っ白なアルビノだった。

ファット・ギャヴの誕生パーティでエディの父親が牧師を殴りつけた。理由は、エディの母親の産婦人科診療所への堕胎反対運動を、牧師が煽っていたからだ。
パーティに集まったプレゼントの中に、色とりどりのチョークが入ったバケツがあった。チョークを送ったのはハローラン先生だった。

そして、ミッキーの兄が亡くなり、少女の妊娠騒ぎが起きた。エディたちは森で少女のバラバラ死体を見つけるが、頭部はついに発見されなかった。

30年たった今、エディは母校の英語教師となっていた。
そんなエディのもとに、事件のことを書きたいとミッキーが訪ねてくる。
そこから物語は急展開していく。

一人称で書かれたミステリの強引さが現れた作品といえる。
主人公しか知らない事件に関わる重大ななぞを、最後の最後になってから明らかするのは、フェアではないだろう。それを割り引いたとしても、少年の不安定な心の内や、バランスが崩れていく友達との微妙な関係が、実によく書けていて傑作である。→人気ブログランキング

『虎よ、虎よ!』アルフレッド・ベスター

アイデアがこれでもかというくらい盛り込まれていて、ストーリーはかなり強引に進む。1956年に発表されたSFの古典。
スティーヴン・キングは、『ジョウント』というタイトルで、テレポテーションに関するSFホラーの短編を書いている。本書に敬意を払うかのように、作中で『虎よ、虎よ!』について言及している。『神々のワードプロセッサー』(扶桑社ミステリー文庫 1988年)、『ミスト 短編傑作選』(文春文庫 2018年)に収録されている。

虎よ、虎よ! (ハヤカワ文庫 SF ヘ 1-2)
虎よ、虎よ!
posted with amazlet at 18.07.25
アルフレッド・ベスター/中田耕治
ハヤカワ文庫
2008年

25世紀。人類にはテレポテーション(ジョウント)の能力が備わっていた。移動の能力は個人によって差があり、移動の範囲は惑星上に限られ宇宙を移動することはできないとされていた。
ジョウントにより人々の生活は激変し、古い秩序は壊れ、社会は著しく荒廃していた。
金星、地球、月、火星からなる内惑星連合と、木星、土星、冥王星の衛星からなる外衛星同盟との間で戦争が起こっていた。

火星と木星の中間地点で、戦闘艦からの攻撃を受けた、プレスタイン財閥の宇宙船《ノーマッド》が漂流していた。《ノーマッド》に、唯一生存していたのは本書の主人公ガリー・フォイル三等航海士である。
漂流して約半年がたったときに、プレスタイン財閥の輸送艇《ヴォーガ》が《ノーマッド》の近傍を航行したが、フォイルが放った信号弾を無視して飛び去っていった。
《ノーマッド》の無視を命令したのは誰なのか。フォイルはプレスタインへの強烈な復讐心を持つようになる。

《ノーマッド》をなんとか修理し地球に向かったフォイルは、火星と木系の間に広がるサルガッツ小惑星帯の野蛮民族に捕らえられ、本書のタイトルともなっている、顔全体に虎のような模様の刺青を彫られてしまう。
フォイルはサルガッツ人のロケット艇を奪って脱出し、内惑星連合の宇宙海軍に救助され地球に戻ってくる。
フォイルは苦難に遭遇するたびに、超人的な肉体と精神を兼ね備えていく。

一方、地球では、《ノーマッド》に積まれている2000万クレジットの膨大な白金と、戦争を一気に終わらせてしまうほどの破壊力を持つ物資の「パイア」を手に入れようと、フォイルの行方を追う者たちがいる。
それは、イグアナのような容貌をもつプレスタイン財閥の当主・プレスタイン、孟子の子孫である内惑星連合中央諜報局ヤン・ヨーヴィル大尉、原子爆発の事故にあい、自らが放射能を発する天才科学者のソール・ダーゲンハムの3人の怪物たちである。

物語には個性的な3人の女性が登場する。まずは、地球に帰還したばかりのフォイルにジョウント能力の再教育を施す美貌の黒人女性ロビン・ウェンズバリー。
フォイルは捕らえられ思想犯の教育施設・洞窟病院に送られるが、そこで「ささやきライン」を通じて知り合いとなり、病院からふたりで脱走することになるジスベラ・マックイーン。
そして、アルビノで目が不自由で氷の心を持つプレスタイン家の令嬢、オリヴィア・プレスタインである。

《ノーマッド》に積み込まれている2000万クレジットの白金はどうなるのか?「パイア」とは一体なんなのか?その威力は?
フォイルは、全身全霊を傾けて荒廃しきった世界を救う手段を模索するのだった。→人気ブログランキング

『西城秀樹のおかげです』森 奈津子

表紙カバーの椅子に腰掛けたセーラー服の少女とその右手に持っている器具を見れば、本書の内容はおよそ想像がつく。性倒錯や同性愛をテーマに、あっけらかんとした陽気な内容のSF短編集である。第21回(2000年)日本SF大賞にノミネートされた。
著者はクィア理論の実践者だという。クィア理論とは、性的マイノリティ(LGBT)から見て、性的マジョリティの考え方が正しいかを疑ったり、歴史上、クィアがどのように扱われてきたかを分析したりする理論のことである。クィアとは「queen」のことで、「奇妙な」という意味。
本書はそのクィア理論をまさに実践する内容である。

西城秀樹のおかげです (ハヤカワ文庫JA)
森 奈津子
ハヤカワ文庫JA
2004年

「西城秀樹のおかげです」
地球が殺人ウイルスに襲われ、残されたのは日本人の男女2人だけ。
なぜ2人だけが生き残ったのか?当時日本で流行っていた「YMCA」を歌っていたからだという。元の楽曲は米国で男性ゲイを鼓舞する歌だという。そして、2人は人類の未来を決める選択を迫られる。
「哀愁の女主人、情熱の女奴隷」
地球行きシャトルの事故で亡くなった兄夫婦から、時子が受け継いだのはいくばくかの財産とアンドロイドのハンナ。10歳の遺児・絵美里を慰めるようとハンナに命ずるが、ハンナは兄夫婦に寵愛されたセクサロイドだった。
「 天国発ゴミ箱行き」
若い男は死後の世界にいる。人生プランナーが3通りの来世を男にプレゼンテーションするが、その中に、本書の著者・森奈津子の人生が含まれたという、自虐ネタ。
「悶絶!バナナワニ園!」
苦痛こそが快楽のマゾヒストの囚人の話。
「地球娘による地球外クッキング」
庭に洗面器ほどのUFOが落ちてきた。親指ほどの緑色の宇宙人の死体が2体。宇宙人をテンプラにして食べようとする。
「タタミ・マットとゲイシャ・ガール」
地球で最後の金髪の女吸血鬼が罠にはまり、電脳空間で蚊にされてしまう。蚊は山田家に忍び込み若い娘の血を吸い、もとの姿に戻ろうとする。
「テーブル物語」
天板の四角に女性器、脚に男性器が彫刻されたテーブルの物語。
「エロチカ79」
「後生だから」とは、呪縛プレイのはじまりの言葉であった。→人気ブログランキング

『絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたか』更科 功

最近、遺跡の発掘と科学技術の発達、とりわけ遺伝子解析により、人類の来し方が解明されつつあるという。最古の人類は700万年前にアフリカで誕生している。その後、25種類もの人類がいたが、ヒト以外は滅びてしまった。その理由は何かが本書のテーマである。

人類の特徴は二足直立歩行と犬歯の縮小だという。
立位二足歩行は食料運搬を可能にさせ、高度な協力関係の土台となった。犬歯が縮小したのは争いが少なくなったからだという。
チンパンジーの男女比が4〜10:1、チンパンジーより争いが少ないボノボでは2〜3:1、ヒトでは1:1になる。ヒトには発情期がないから、争いはより少なく平和になる。
人類が生息していた疎林では、食べ物を手に入れるために、長い距離を歩かなければならない。それに二足歩行は有利だった。ホモ・エレクトゥスの時代に、歩き回ることが必要とされたため、発汗して体温を下げようと毛が薄くなったという。体毛がふさふさか体毛がほとんどないかの違いは、毛穴の数はそれほど変わらないが、毛の濃さと長さが違うだけだという。

絶滅の人類史―なぜ「私たち」が生き延びたのか (NHK出版新書)
更科 功
NHK出版新書
2018年
売り上げランキング: 1,516

人類と同じ時期に何種類もの哺乳類がアフリカからユーラシアへ移動している。
約180万年前にホモ・エレクトゥスかその近縁種がアフリカからユーラシアに出て、生息範囲を広げた。それは人類が世界中に進出する第一歩となった。
ホモ・エレクトゥスがアフリカの外に広がったあと、アフリカで新たな人類が誕生した。ホモ・ハイデルベルゲンシスである。ヨーロッパに出て行ったホモ・ハイデルベルゲンシスからネアンデルタール人が進化し、一方、アフリカにとどまったホモ・ハイデルベルゲンシスからホモ・サピエンスが進化した。

ネアンデルタール人の脳の容量は平均1550ccで、人類史上最高である。一方、1万年ぐらい前までのホモ・サピエンスは1450cc、現在のヒトの脳は1350ccである。現代人は、使わない部分が整理されて脳の容量が減少したという。
脳は体の2%の重量で、体全体で使うエネルギーの20〜30%が必要であると言われている。むやみに脳が大きくないほうがいいのだ。

2010年にはネアンデルタール人のゲノムの60%が決定された。その結果ネアンデルタール人とホモ・サピエンスが交雑していたことが明らかになった。ホモ・サピエンスはネアンデルタール人以外の人類ととも交配している。ネアンデルタール人とホモ・サピエンスは7000年にわたって共存していた。
ネアンデルタール人の物語は約30万年前に始まり約4万年前に終わる。ネアンデルタール人は、ホモ・サピエンスに比べ体が大きく、脳容量も多かったから、1.2倍の食料が必要だった。ネアンデルタール人は、寒冷な環境とホモ・サピエンスの出現によって絶滅したのだろうという。

ホモ・サピエンスは子孫を多く残すことができた。なんでも食べることができた。どこでも生きていけた。社会性があった。身体的な強さだけでなく衣服のような文化的工夫も行うことができた。それらにより生き残ることができたのだ。→人気ブログランキング

絶滅の人類史 なぜ「私たち」が生き延びたか/更科功/NHK出版新書/2018年
爆発的進化論 1%の奇跡がヒトを作った/更科功/新潮新書/2016年

『許されざる者』レイフ・G・W・ペーション

時効を過ぎた未解決事件を退職し脳梗塞を患った男が捜査するというスウェーデン発の警察ミステリ。
国家犯罪調査局の元長官ラーシュ・ヨハンソンは脳梗塞で右半身麻痺になり、ストックフォルムのカロリンスカ医科大学病院に入院した。主治医は44歳の女医。その女医の願いで、25年前の少女強姦致死事件の犯人捜しを引き受けた。まだ、リハビリ中だというのに。。安楽椅子探偵の亜型である。
北欧ミステリは暗い印象だが、本作は明るい。

現役の頃のヨハンソンは、「角の向こう側が見通せる男」とか「歩く凶悪犯罪辞典」と言われるくらい頭が切れた。今は、脳の働きも記憶力も落ちて、涙もろくなって、根気が続かない。そんなヨハンソンの手足となるのは、ストックホルム県警の元捜査官の盟友ボー・ヤーネブリング。

許されざる者 (創元推理文庫)
許されざる者
posted with amazlet at 18.07.11
レイフ・G・W・ペーション/久山葉子
創元推理文庫
2018年2月
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

25年前、9歳の少女ヤスミンが強姦され顔を枕に押し付けられ窒息死した。別居していた両親はイランからの移民で、父親は医者、母親は歯科衛生士だった。
事件を担当したのは、曰くつきのダメ警察官。パルメ首相暗殺事件(1986年2月)の捜査と重ったことも不運だった。事件は未解決のまま最近時効を向かえたばかりだ。

事件の後、両親は離婚し、父親はアメリカに渡り、製薬会社を何社も持つ大金持ちになった。それだけではなく、小児性犯罪者やチャイルド・マレスターを社会から排斥する団体を立ち上げていた。母はイランに戻ったという。

ヨハンソンは書類を時間をかけて読むことが困難だから、ヤーネブリングから事件の詳細が伝えられる。

ヨハンソンにはヤーネブリングの他にふたりの助っ人がいる。介護人のマティルダと丁稚のマックスだ。
マティルダの二の腕にはとぐろを巻いた蛇のタトゥーがあり、顔には鼻の穴にひとつ、下唇にふたつ、両耳たぶには3つずつ輪っかがついている。仕事はきちんとこなし申し分のない配慮をするタイプで、有能である。
ロシアの孤児院で育ったマックスはヨハンソンの身の回りの世話をする。自分より強い人間に出会ったことがないと頼もしいことをいう。
妻のピアは銀行の副頭取で、ヨハンソンに声をかけハグして仕事に出かけていく。

小児性愛者は必ず余罪があるはずだとヨハンソンは考えた。
捜査は順調に進むが、真犯人を見つけ出したとしても問題がある。事件はすでに時効を向かえていることと、犯人を見つけ出して世間の知るところになれば、父親が必ず私怨を晴らす行動にでることだ。

料理や食事の場面が多いのは著者の得意分野だからだろう。登場人物の際立った個性が見事に描き分けられている。第一級のミステリだ。
本作は、英国CWA(The Crime Writers' Association)ゴールドダガー賞、ガラスの鍵賞などを受賞している。レイフ・G・W・ペーションの作品は、これまで日本語訳されてこなかったが、北欧推理小説界の大御所だという。他の作品の翻訳を期待したい。→人気ブログランキング

『マザリング・サンデー』グレアム・スウィフト

一糸まとわぬ姿で、おれの部屋だから好きなようにさせてもらうと言わんばかりに歩く23歳のポールと、ベッドに横たわる22歳のジェーンの描写から物語は始まる。
その日は、1924年3月30日、マザリング・サンデイ、3月だというのに初夏のような陽気の日だった。著者がいうように、〈現在の「母の日」と呼んでるくだらない行事とは別物〉の、メイドたちが主人から半日の暇をもらい母のもとに帰る日のことである。
シュリンガム家の御曹司であるポールとニヴン家のメイドであるジェーンは、7年も前から、〈ありとあらゆる秘密の場所で、ありとあらゆることをする〉関係が続いている。

マザリング・サンデー (新潮クレスト・ブックス)
グレアム・スウィフト/真野泰
新潮社  ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
2018年3月

2週間後に、半ば金目当ての政略結婚が控えていて、今日はこの後、婚約者と昼食を約束している。ポールはシャワーを浴びて、ワイシャツを着てズボンを履いて、車で出て行った。ポールは「きみに人生の裏道を歩かせるつもりはないから」と一度だけ耳に残る誠実な声で言ったことがあった。
ひとり残されたジェーンは裸で屋敷を探索してあれこれ感慨にふける。電話が鳴ったが、もちろん出ないで、ふたりの体液のシミのついたシーツをそのままにして館を去った。
そして事件が起こったことを知る。

ジェーンは生まれた日が定かでなく名前すらも確証が持てない孤児であった。主人のニヴン氏は、利発なジェーンの申し出に書斎の本を読むことを許可してくれた。
ジェーンはメイドの職を辞したあと、ニヴン氏の紹介で書店員になり、やがて作家となった。そしてこの日のことを何度も何度も繰り返し思い出すことになる。
〈一筋縄ではいかない〉高名な作家になったジェーン・フェアチャイルドは、70歳、80歳、90歳のときのインタヴューで記者たちの質問に答える。
しかし、あの日に起こったことはいっさい口にしない。
ジェーンは、仕事では意見を述べることができないメイドだから、細かく観察し深く考える。そうした習慣がジェーンを小説家にならしめたのだ。

文章には凝縮された表現が用いられ含蓄のある言葉が溢れているので、中編だが長編に匹敵する読後感が得られる。
また、秘密の裏道を自転車で移動するジェーンを包むイングランド南部の、ゆったりとした穏やかな自然の描写も魅力的だ。
カズオ・イシグロが本書を絶賛するのは、メイドという種族の視点から描かれた本書が、執事が主人公の『日の名残り』(ブッカー賞受賞1989年)と相通じるものがあるからだろう。

『最後の注文』でブッカー賞(1996年)を受賞したグレアム・スウィフトの最新訳本。「最良の想像的文学作品」に与えられるイギリスのホーソーンデン賞受賞作(2017年)。→人気ブログランキング

『男のチャーハン道』土屋 敦

パラパラチャーハンを家庭で作るという至上命題のもとに、文献を渉猟し、プロに教えを請い、創意工夫のもとに試行錯誤を繰り返す。パラパラチャーハンに対する批判にも丁寧に反証しながら、鍋の種類、鍋の温度、ご飯の量、ご飯の状態、油の量、卵の量、混ぜ方、ネギの量、炒める時間などを徹底的に検証する。

そもそもパラパラがもてはやされたのは、食漫画『美味しんぼ』(第4巻1985年)からだという。1990年代のテレビ番組『料理の鉄人』に出演した周富徳がきっかけとなり、チャーハンは中華鍋をあおって作るというイメージが定着していった。中華鍋でご飯を空中に上げたときに、業務用ガスコンロの炎が直接ご飯を包み、水分を飛ばすといわれた。

男のチャーハン道 (日経プレミアシリーズ)
男のチャーハン道
posted with amazlet at 18.07.03
土屋 敦
日本経済新聞出版社(日経プレミアシリーズ)
2018年4月

では、業務用のコンロの火力がなければ、パラパラチャーハンは作れないという「強火神話」は本当か?
家庭用コンロでは、ご飯を投入すると鍋の中の温度が急激に下がる。これを解消すれば、なんとかなると著者は考えた。鍋の温度を230度から250度以下に落とさなければいいことに気づく。ちなみに温度は赤外線センサー付き温度計で計る。

次は玉子コーティングについて。著者が調理関係の書籍を調べた限りでは、1980年代より前つまり1990年代になるまで、玉子コーティングの記述はないという。
あらかじめご飯と卵を混ぜてから炒めるというやり方もあるが、食感はパラパラというよりポソポソ。パラパラチャーハンに卵は必要だが、卵コーティングは重要な要素ではない。

ご飯は、炊きたてはだめで、硬めに炊く必要はない。炊いてから5時間保温したものがいい。前もって、ご飯230gを600W2分20秒電子レンジにかけ温め、かつ水分を飛ばしておく。217gになり水分が5%減った。
インディカ米を使えば苦労せずパラパラになるが、あくまでジャポニカ米にこだわる。
卵も40度のお湯に8分つけて温めておく。

たどり着いた調理の手順は、まず、中華鉄鍋が350℃になったところで、大さじ1杯の太白ごま油を入れ、卵を投入する。ご飯を入れ鍋はあおらない。中華おたまと中華ヘラを使ってまぜる。中華ヘラでフライパンの壁にご飯を押し付ける方法がいい。塩2.1〜2.6gを入れる。粗みじんの白ネギ20gを火を止める寸前に入れる。炒め時間は2分20秒。→人気ブログランキング

男のチャーハン道/日経プレミアシリーズ /2018年
男のパスタ道/日経プレミアシリーズ(日本経済新聞出版社)/2014年

『遺伝子 親密なる人類史』 シッダールタ・ムカジー

がん研究者である著者は前作の『がん-4000年の歴史-』(『病の皇帝「がん」に挑む-人類4000年の苦闘』から改題)で、ピュリッツアー賞(2011年)を受賞している。幅広い知識と的確な比喩と巧みな話運びで、前作に比肩する内容である。

アリストテレスのメッセージの形で遺伝情報は伝えられるにはじまり、メンデルのエンドウ豆の実験から、遺伝子の生物化学的な解明、ゲンムの解読、遺伝子治療までの遺伝子にまつわる歴史が語られている。
そうした歴史とは別に、プロローグでは、著者の親族の3人が統合失調症や双極性障害と診断されたことを書いている。著者自身に高い確率で発症するかもしれない精神疾患に不安を抱いているのである。

遺伝子‐親密なる人類史‐ 上
シッダールタ ムカジー/
仲野徹監修・田中文訳
早川書房
2018年2月
遺伝子‐親密なる人類史‐ 下
シッダールタ ムカジー
Siddhartha Mukherjee

そうした遺伝子の歴史だけではなく、優生学の標的となり断種手術を受けさせられた女性や、虚偽のデータに基づいてウイルスを用いた遺伝子治療が行われた男性など、歴史の犠牲者たちの生涯にも触れている。
また研究者たちの生い立ちや家族構成や人物像などのバックグラウンドや、ちょっとしたエピソードが語られて、研究者たちの息遣いが感じられ、まるで大河小説のようである。

後半は遺伝子学が直面する倫理的な問題に多くのページが割かれている。
遺伝子を操作することと、ゲノムを操作することはまったく話が違うと力説する。近い将来に予想される社会として、遺伝的な弱点が洗い出された男女と、改変された遺伝子を持つ男女が暮らす世界になるという。

〈生殖細胞系列の特定の遺伝子に「改変可能な」変異が存在することがわかったなら、両親には、精子や卵子の遺伝子を改変する遺伝子手術を受けるか、あるいは変異遺伝子を持つ胚の着床を避けるための着床前スクリーニングを受けるという選択肢が与えられる。このようにして最も重症なタイプの病気をもたらす遺伝子が、積極的な、あるいは消極的な選択によって、またはゲノム修正によって、ヒトゲノムからあらかじめ取り除かれる。〉

ミュータントを消し去ることで、人類の遺伝子のプールから病的な要素を生み出す遺伝子を消し去られる。遺伝子治療もしくは遺伝子操作の考え方がエスカレートすると、病気は次第に世界から消えて行くかもしれないが、それと同時にアイデンティティも消え、悲しみは消えるだろうが優しさも消えるだろうという。

完全な声明文マニフェスト(あるいはヒッチハイク・ガイド)を書くという課題は次の世代に任せるとして、13項目にわたるとりあえずの声明文を巻末に記している。→人気ブログランキング

遺伝子 親密なる人類史/早川書房/2018年
がん-4000年の歴史-/早川NF文庫/2016年

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