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2018年7月12日 (木)

許されざる者 レイフ・G・W・ペーション

時効を過ぎた未解決事件を退職し脳梗塞を患った男が捜査するというスウェーデン発の警察ミステリ。
国家犯罪調査局の元長官ラーシュ・ヨハンソンは脳梗塞で右半身麻痺になり、ストックフォルムのカロリンスカ医科大学病院に入院した。主治医は44歳の女医。その女医の願いで、25年前の少女強姦致死事件の犯人捜しを引き受けた。まだ、リハビリ中だというのに。。安楽椅子探偵の亜型である。
北欧ミステリは暗い印象だが、本作は明るい。

現役の頃のヨハンソンは、「角の向こう側が見通せる男」とか「歩く凶悪犯罪辞典」と言われるくらい頭が切れた。今は、脳の働きも記憶力も落ちて、涙もろくなって、根気が続かない。そんなヨハンソンの手足となるのは、ストックホルム県警の元捜査官の盟友ボー・ヤーネブリング。
Image_20201122100001許されざる者
レイフ・G・W・ペーション/久山葉子
創元推理文庫 2018年

25年前、9歳の少女ヤスミンが強姦され顔を枕に押し付けられ窒息死した。別居していた両親はイランからの移民で、父親は医者、母親は歯科衛生士だった。
事件を担当したのは、曰くつきのダメ警察官。パルメ首相暗殺事件(1986年2月)の捜査と重ったことも不運だった。事件は未解決のまま最近時効を向かえたばかりだ。

事件の後、両親は離婚し、父親はアメリカに渡り、製薬会社を何社も持つ大金持ちになった。それだけではなく、小児性犯罪者やチャイルド・マレスターを社会から排斥する団体を立ち上げていた。母はイランに戻ったという。

ヨハンソンは書類を時間をかけて読むことが困難だから、ヤーネブリングから事件の詳細が伝えられる。

ヨハンソンにはヤーネブリングの他にふたりの助っ人がいる。介護人のマティルダと丁稚のマックスだ。
マティルダの二の腕にはとぐろを巻いた蛇のタトゥーがあり、顔には鼻の穴にひとつ、下唇にふたつ、両耳たぶには3つずつ輪っかがついている。仕事はきちんとこなし申し分のない配慮をするタイプで、有能である。
ロシアの孤児院で育ったマックスはヨハンソンの身の回りの世話をする。自分より強い人間に出会ったことがないと頼もしいことをいう。
妻のピアは銀行の副頭取で、ヨハンソンに声をかけハグして仕事に出かけていく。

小児性愛者は必ず余罪があるはずだとヨハンソンは考えた。
捜査は順調に進むが、真犯人を見つけ出したとしても問題がある。事件はすでに時効を向かえていることと、犯人を見つけ出して世間の知るところになれば、父親が必ず私怨を晴らす行動にでることだ。

料理や食事の場面が多いのは著者の得意分野だからだろう。登場人物の際立った個性が見事に描き分けられている。第一級のミステリだ。
本作は、英国CWA(The Crime Writers' Association)ゴールドダガー賞、ガラスの鍵賞などを受賞している。レイフ・G・W・ペーションの作品は、これまで日本語訳されてこなかったが、北欧推理小説界の大御所だという。他の作品の翻訳を期待したい。→人気ブログランキング

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