恥辱
J・M・クツェーは南アフリカ出身。本作『Disgrace』(1999年)にて2度目のブッカー賞を受賞している。1回目は、1983年『Life & Times of Michael K』(『マイケル.K』)。さらに、2003年にはノーベル文学賞を受賞している。
2度の離婚歴がある52歳の男が主人公。
デイヴィット・ラウリーは現代文学の教授だったが、大規模な合理化の結果、旧ケープタウン大学付属カレッジのコミニュケーション学部とやらの准教授に格下げされた。それで、やけになっているようなところがある。
デイビットは娼婦のもとに通っているうちに、その娼婦に入れあげてしまい、探偵を使って住所を調べ女の前に姿を現したが、けんもほろろに拒否されてしまう。
恥辱 J・M・クツェー/鴻巣友季子 ハヤカワepi文庫 2007年 |
この失態にも懲りずに、次にデイヴィットが手を出したのが教え子だった。
セクハラで訴えられ、学内の査問委員会での反省のないデイヴィットの態度に旗色は悪くなり、やがて新聞沙汰になり、しまいには、大学の職を失うことなる。
ここまでは、イントロである。
かつてすったもんだがあった娘・ルーシーは田舎で農地を所有していて、年長のドイツ人女性と一緒に住んでいる。市場で農作物を売ったり、犬を預かって世話をしたり、動物病院の手伝いをして生計を立てている。デイヴィットはルーシーのもとに転がり込む。
そして、ボランティアのような、懲罰のような、奉仕活動のようなことをすることになる。飼い犬の餌の肉を切ったり、犬の安楽死の助手をしたり、市場で農産物を売ったり、ともかく農家の暮らしを体験する。
そこてまかり通っているのは、力のあるものの庇護を受けなければ、女は生きていけないという土着の論理である。具体的には、地元の胡散臭い男の第3夫人になるという選択だった。デイヴィットは、理不尽な古い慣習のもとに、恥辱も何もかも受け入れて生きていくことを決意しているルーシーを、どう理解していいのか戸惑う。
一時、ケープタウンに戻ると、デイヴィットはメラニーが出演する演劇をそっと観劇したりする。反省していないような初老の男に周りの目は冷たい。
読後、殺伐とした気持ちになるのは、元教授の少しも好転しない転落の人生を見せられているからだろう。→人気ブログランキング
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