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『マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代』 門井慶喜

ミステリの誕生について、時差はあるが、イギリスの産業革命(18世紀半ばから19世紀にかけて起こった)と連動しているとする。またフランスの印象派の活動(19世紀後半)とも関連づけている。
著者の論法は、問題を投げかけてその反論を並べて整理しつつ着地する、スクラップ・アンド・ビルドである。言いかえれば「ヒトリノリツッコミ」。本書は第69回推理作家協会賞受賞作(評論その他の部門 2016年)。

マジカル・ヒストリー・ツアー ミステリと美術で読む近代 (角川文庫)
門井 慶喜
角川文庫  2017年12月
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まずは、グラント警部シリーズの第1作、『時の娘』(ジョセフィン・ティ 1951年発表)から。グラント警部は大怪我をしていて、ベッドの周りを歩くことすらできない安楽椅子探偵(アームチェア・デイテクティブ)なのだ。もちろん有能な助手がいる。最悪の王だと信じられた15世紀のイングランド王リチャード3世が、この小説によってそう信じる人の割合が大幅に減少したというのだから、小説の影響は侮れない。歴史は確かな証拠がないにもかかわらず、でっち上げられていると言うこともできる。
ところで、リチャード3世の肖像画は、指輪をはめているのか外しているのか、著者は外しているとしてるが、はめているようにも思えるのだが。。

次は、シャーロック・ホームズ誕生の話。『緋色の研究』(コナン・ドイル 1887年発表)の背景は、産業革命によって都市の繁栄がもたらされ、人口が急激に増加し、ひいては、隣人に無関心である都市型の生き方が一般的になった時代である。
アメリカ合衆国から脛に傷を持つモルモン教徒の男2人がロンドンに逃げてきて、殺されるという話だ。イギリスの産業革命からこちら側でミステリは生まれたとする。

次は、アメリカ人エドガー・アラン・ポーの『アッシャー家の崩壊』(1839年発表)。『アッシャー家...』は、ゴシック小説。ゴシックは中世の産物であるから、アメリカには中世はない。だから、時代も場所も特定されていない。
産業革命による時代の変革に不安を抱く人々の懐古主義がもたらしたのが、ゴシック(中世)への回避だとする。

ウンベルト・エーコの『薔薇の名前』(1980年発表)は、1300年代のイタリアの修道院の物語。宗教とミステリが完全に融合した画期的歴史小説と高く評価する。宗教なら神学論争、ミステリなら数々の証拠の関係づけ、どちらももっとも根本的なところで同じものを追求しているとする。要するに神学論争は詭弁を弄することであり、ミステリにも似たところがある。

そしてミステリ小説の人称の話。
著者は一人称がミステリに好適だと述べている。視点を一つに固定することにより読者の視野にさまざまな死角がつくれる。それによって謎が成立しやすくなり、謎解きの展開も一層自然になるなどが、その理由である。三人称多視点では読者の視点が広すぎて、謎の顔を出す余地に乏しいという。
ミステリは、ワトソンに語らせて、作者自身がカバーするという「ホームズ-ワトソン」の一人称多視点が有利だという。→人気ブログランキング

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マジカル・ヒストリー・ツアー/門井 慶喜/角川文庫/2017年
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