『予告された殺人の記録』 G・ガルシア=マルケス
27年前に起こった殺人事件を、住民の証言をもとに力強い文体で描写する中篇小説。そのジャーナリスティックなアプローチは、トルーマン・カポーティの『冷血』を彷彿とさせる。
1987年に、フランスとイタリアの合作で同名のタイトルで映画化されている。
新装されたカラフルないかにもラテン風のカバーが物語を象徴的に表している。
舞台はコロンビアの辺鄙な河沿いの町。
衆人環視の中で殺人が起こる。しかも、人びとは殺人が起こることを知っていた。双子の兄弟は人を殺すことをあたり構わずに何人もに話をしていて、むしろ誰かに犯行を止めてもらうための努力を思いつく限り試みたというのが真相らしい。兄弟は犯行前に多量のアルコールを摂取した。
新潮文庫
2001年 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
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町を上げての婚礼の翌朝、処女でないことを理由に新婦が実家に帰された。母親が娘に問い詰めると、ハンサムな青年の名前を口にした。玉の輿にのせようとした母親らの説得に負けた形の意にそわぬ結婚であったから、産婆から新婦の初夜での戦略を伝授されたにもかかわらず、娘は開き直ったのだ。
過去に、娘とその青年が会っているところを目撃した者は誰もおらず、娘は大切にしていた男を守ったのだ。
よそ者の新郎だけが金持ちの裏切り者として人びとの記憶に刻まれた。彼以外の悲劇の登場人物たちは、自分たちに割り当てられた役回りを、ある種の威厳をもって演じたと言える。濡れ衣かもしれないが、殺された青年は陵辱の罪を死によってあがない、兄弟は自分たちが男であることを証明した。その結果、辱しめをうけた娘は名誉を回復した。
話はここで終わらない。
人目を避けてひっそりと暮らす出戻り女は、あろうことかその金持ち男に恋をしてしまう。そして手紙を送り続けた。
何年も経ったある日、船から一人の男が降り立ち、袋から大量の手紙を取り出した。女の前に姿を現わした男は今は初老となったかつての新郎であった。
後半に明らかにされる生々しい殺害のシーンで、ナイフで滅多刺しにされて腸をぶら下げて断末魔の苦しみにあえぐ男の壮絶な様は、『壬生義士伝』(浅田次郎著)で、満身創痍の主人公が自害する最期に重なる。どちらも、面目を保つための「大義」が死に至らしめる理由である。→人気ブログランキング
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