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2018年9月

2018年9月28日 (金)

ホモ・デウス ユヴァル・ノア・ハラリ

前作『サピエンス全史』は、人類の過去を歴史学のみならず政治学、生物学、心理学、哲学などの横断的な幅広い知見に基づいて書かれ、世界的ベストセラーとなった。その続編ともいうべき本書は人類の未来を予測したもの。その手法は、前作同様、話題が多方面に展開され、まるでスケールの大きなエンターテイメント小説を読んでいるかのようだ。
飢饉と疫病と戦争は、もはや人類にとって対処が可能な課題になったという。人類に降りかかる災難の多くは政治の不手際がもたらしている。人類は困難を克服しつつあり、テクノロジーをよりどころに、次のステップに進もうとしているという。ちなみに、「ホモ」とは人間、「サピエンス」は賢い人、「デウス」は神の意味である。
Image_20201124091801ホモ・デウス 上:テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ
河出書房新社
2018年
Image_20201124091901ホモ・デウス 下:テクノロジーとサピエンスの未来
ユヴァル・ノア・ハラリ
柴田裕之 訳

まずは、アルゴリズムについて。
〈アルゴリズムとは、計算し、問題を解決し、決定に至るために利用できる、一連の秩序だったステップのことをいう。アルゴリズムは特定の計算ではなく、計算をするときに従う方法だ。〉
すべての事象は、人間も含めて、アルゴリズムで成り立っているという。つまりデジタル化できて計算式で表しうるということだろう。

人類は不死と至福と神性を手に入れようとするとしている。サピエンスのアップグレードは、次のように進んでいくとする。
〈じつは、無数の平凡な行動を通して、それはすでにたった今も起こりつつある。毎日、膨大な数の人が、スマートフォンに自分の人生をより前より少しだけ多く制御することを許したり、新しくてより有効な抗うつ薬を試したりしている。人間は健康と幸福と力を追求しながら、自らの機能をまず一つ、次にもう一つ、さらにもう一つという具合に徐々に変えていき、ついにはもう人間ではなくなってしまうだろう。 〉

魂などというものは突き詰めていけば存在しない。宗教は人間が都合で考え出したもので、聖典を書きそれを多種多用に解釈した。人間至上主義は、神や宗教は人間がこの世を作り出したものだから、神を冒涜するなどと気遣う必要はないと考えるという。不老不死の手段があれば、セレブたちはあらゆる犠牲わ払って、間違いなく手を出すだろうという。

ポストヒューマンとは、ごく一部のセレブ達だけの話であり、神のように振る舞う一握りの人間のことだ。これらの超人たちは、前代未聞の能力と空前の創造性を享受する。彼らはその能力と創造性のおかげで、世の中の最も重要な決定の多くを下し続けることができる。彼らは社会を支配するという。

残念ながら、庶民は超人たちに支配される劣等カーストとなる。AIたちが人間を押しのけてほとんどすべてのことをやってしまうから、劣等カーストに属する人たちには仕事がない。その余剰の人たちはどうやって生きてゆくのか。
ゲームでもやって時間を潰すことになるかもしれないというのだが、そうもいかないだろう。→人気ブログランキング

ホモ・デウス』ユヴァル・ノア・ハラリ  河出書房新社 2018年
『サピエンス全史』ユヴァル・ノア・ハラリ 河出書房新社 2016年
『ポストヒューマンSF傑作選 スティーヴ・フィーバー』山岸真編  ハヤカワ文庫 2010年

2018年9月18日 (火)

緋色の研究 コナン・ドイル

1887年に発刊された、シャーロック・ホームズ・シリーズの記念すべき第1作目。
冒頭で、ワトソン医師がロンドンでホームズと一緒に暮らすに至った経緯が語られる。
第2次アフガン戦争(1878年〜80年)に軍医として出兵したジョン・H・ワトソンは、肩を射抜かれ、その後腸チフスに罹り、ひどく憔悴してイギリスに帰国した。
〈大英帝国の隅々から暇をもてあました有象無象が流れこんでくる。巨大な汚水溜めともいうべき大都会〉という状況のロンドンにホテル住まいをしていたが、軍からの給与では足りなくなり、手頃な家賃の下宿を探すことになった。
Photo_20201113082701緋色の研究
コナン・ドイル/駒月雅子
角川文庫  2012年

ワトソンは友人からシャーロック・ホームズを紹介され、「ベーカー街221B」の一軒家をふたりで借りることになった。ホームズは、鋭い観察眼をもち、バイオリンを愛し、化学実験を趣味とする博識家であり、しかも棒術・剣術、ボクシングに熟達している。スコットランド・ヤードから一目置かれ、捜査の依頼が舞い込む異才の男である。

アメリカ人男性の遺体の検分をスコットランド・ヤードから依頼されるが、気乗りのしないホームズはワトソンにせっつかれて、やっと重い腰をあげたのだ。やがて、2人目のアメリカ人男性が殺される。

舞台は殺人事件人のロンドンから、一気に、屈強な男と5歳の少女が流浪するアメリカの大平原に飛ぶ。時間も20年ほど後戻りする。乾燥地帯をさまよう2人は、西部をめざして進む1万人のモルモン教徒の大集団に助けられ、ソルトレーク・シティで暮らすようになる。

男はモルモン教の一夫多妻制を嫌った。一夫多妻は女性が足りなくなるのは目に見えている。長老に睨まれた男たちはいつの間にか殺されていなくなる。いなくなった男の妻たちは、長老の意のままに配分されるというようなことがまかり通っていた。

意に沿わないながらモルモン教徒となった男(義父)と娘の前に、若者が現れ、娘と婚約する。ところが、教祖のブリガム・ヤングは異教徒との結婚は許さないという。義父は殺され娘は無理やりモルモン教徒に嫁がされるが、1週間も経たぬうちに娘も命を落としてしまう。
異教徒の男は婚約者を死に追いやった2人のアメリカ人を追いかけて、産業革命が進むロンドンに現れたのだ。
という強引なストーリーなのだ。

本書でのモルモン教への批判は痛烈である。のちに著者はソルトレーク・シティを訪れ、モルモン教指導者と和解しているという。
ところで、『緋色の研究』というタイトルは何を意味しているのか?
〈・・・(この事件の解決は、)名づけて『緋色の研究』だな。この気取った美術用語もまんざら捨てたもではないだろう?人生という無色のもつれた糸の束には、殺人という緋色の糸もまじっている。僕らの仕事は、糸の束を解きほぐして緋色の糸をより出し、端から端までつまびらかにすることなんだ。〉というホームズの言葉からきている。→人気ブログランキング

バスカヴィル家の犬/コナン・ドイル/駒形雅子/角川文庫/2014年
緋色の研究/コナン・ドイル/駒月雅子/角川文庫/2012年

2018年9月11日 (火)

マンモスを再生せよ ベン・メズリック

ハーバード大学のジョージ・チャーチ教授の研究室では、約4000年前に絶滅したケナガマンモスの再生プロジェクトが進行している。本書はプロジェクトの進捗状況やライバルチームの動向、チャーチの生い立ちや取り組んできた様々な研究について、物語風に描いている。
合成生物学分野の第一人者であるチャーチの研究室には世界中から優秀な研究者たちが常時90人ほど集まっている。チャーチが手がけた多くの研究は常に時代の最先端を行く研究である。
Image_20210126100801マンモスを再生せよ ハーバード大学遺伝子研究チームの挑戦
ベン・メズリック
文藝春秋
2018年

チャーチが取り組んできた、あるいは現在も取り組んでいる、研究のテーマには次のようなものがある。
短時間に低価格でDNA解析ができる「次世代シーケンサー」の開発。
大勢の有志のゲノムを解析してデータベース化し、病気や健康状態に特化した治療法を開発する「個人ゲノム研究計画」。
ブタにヒトの肝臓の遺伝子を埋め込み臓器移植用の肝臓を作る。
マラリアを媒介しないよう遺伝子操作された蚊を巨大なドームの中で試す(遺伝子ドライブ)。
老化に逆行するハダカデバネズミの研究。
人工合成生物の作成。(→『合成生物学の衝撃』須田桃子/文藝春秋/2018年)

具体的なケナガマンモス再生計画は次の手順で進められる。
シベリアの凍土の中に冷凍された状態で発見されるケナガマンモスのDNAの解析をする。できるだけダメージの少ない良質なサンプルが必要である。
ゲノムのうち、ケナガマンモスの特徴的な毛、耳、皮下脂肪、ヘモグロビンの遺伝子を探す。これらの遺伝子の役割をノックアウトマウスで確認したのち、アジアゾウの幹細胞に埋め込み、人工子宮に着床させるというもの。アジアゾウをケナガマンモスに近づけていこうとする計画である。

チャーチは絶滅動物のうち、なぜケナガマンモスを再生させるのかという、確固たる理由が欲しかった。ロシアの北東科学センター所長セルゲイ・ジモフの研究から、ケナガマンモス再生プロジェクトを前に進める根拠を得たのだ。
現在、地球温暖化により永久凍土が溶けつつある。永久凍土が溶ければ、そこに何万年も前から凍りついていた有機物を微生物が分解し、二酸化炭素とメタンが発生し地球温暖化が加速される。永久凍土層の崩壊を止めるためには、永久凍土を踏み固めて、温度を下げておく必要がある。その踏み固め役としてケナガマンモスをはじめとする寒冷地で生息する草食動物が必要なのだ。それがセルゲイ・ジモフのいう「氷河期パーク」である。今は戦車で踏み固めているという。
この説は説得力に欠けるが、環境保護の観点からケナガマンモス再生は意義があるというのだ。

ケナガマンモス再生計画を推し進める上で新たに見えてきたことがある。
それはゾウのDNAに隠された癌への抵抗力である。ゾウやクジラなど巨大な動物には癌が発生しにくい。これは癌治療に結びつく謎が隠されている可能性がある。
もう一つは、悪性のヘルペス・ウイルスによりアジアゾウが絶滅の危機に瀕していることがわかった。チャーチたちはゾウのヘルペス・ワクチンを作ろうとしている。→人気ブログランキング

マンモスを再生せよ/ベン・メズリック/文藝春秋/2018年
合成生物学の衝撃/須田桃子/文藝春秋/2018年
ゲノム編集とは何か 「DNAのメス」クリスパーの衝撃/小林雅一/講談社現代新書/2016年
マンモスのつくりかた/ベス・シャピロ/筑摩書房/2016年
サイボーグ化する動物たち/エミリー・アンテス/白揚舎/2016年

 

2018年9月 8日 (土)

IQ ジョー・イデ

通称IQと呼ばれるアイゼイア・クィンターベイは、ロサンゼルスに住むもぐりの探偵である。アイゼイアがどのようにして探偵になったかの過去(2005年〜06年)と、事件を捜査する現在(2013年)のふたつの時間軸で物語は進行する。
本作は、2017年、ミステリ文学賞の最優秀新人賞を立て続けに受賞した。さらにアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞および英国推理作家協会(CWA)賞にもノミネートされた。登場人物のキャラクターがよく書けている傑作だ。
すでに第3弾まで出版されている「IQシリーズ」の第1弾。
Image_20201208103501 IQ
ジョー・イデ/熊谷千寿 訳

ハヤカワ・ミステリ文庫
2018年

頭脳明晰なアイゼイアは目の前で兄が交通事故で亡くなってから経済的に立ち行かなくなり、高校を中退せざるを得なくなった。中退後は様々な職業に就き、探偵業に必要なノウハウを身につけていった。ボランティアのつもりで揉め事を引き受けているうちに、評判が評判を呼んで、大きな事件の解決を頼まれるようになった。
相棒を組むドットソンは、兄亡き後、家賃の支払いに苦労していた時に、アパートに転がり込んできた高校時代の同年生。腐れ縁でつながるチビの小悪党だが憎めない性格だ。

依頼された事件は、ラップ・ミュージシャンの超大物カルの命を狙う相手を突き止めること。スランプに陥っているカルは、アルコールと薬漬けで自宅に引きこもる日々が続いている。レコード会社のオーナーや取り巻きはニューアルバムの作成に取り掛からせようと躍起となっているが、カルは使い物にならないくらいに憔悴している。

アイゼイアとドットソンは、ロサンゼルスの高級住宅地にあるカルの豪邸に向かう。そこで見せられたのは、防犯カメラのビデオに収められた、巨大なビット・ブルに襲われ間一髪で逃げおうせたカルの姿だった。カルはこの襲撃の裏には前妻がいると見ていた。

アイゼイアはシャーロック・ホームズばりの推理で犯人をつきとめた。犯人は犬のブリーダーで殺人巨大犬を飼っている、銃のコレクターの自称スキップ。高校生の時から犯罪歴があって、叔父の銃砲店に勤めたことがあるが、銃の横流しで逮捕されている。なんでもやらかすソシオパスだ。スキップを操る黒幕がいる。
巨大犬はシャーロック・ホームズ・シリーズの『バスカヴィル家の犬』をイメージしているのだろう。

アイゼイアには悔やんでも悔やみきれないことがふたつある。これは次作に受け継がれていくのだろう。
ひとつは、兄を目の前で死なせてしまったこと。もうひとつは、黒人とメキシカンのギャング同士の攻防戦で、幼かったフラーコの頭を流れ弾が貫き、半身不随にさせてしまったことである。
アイゼイアはグループホームから社会に出てくるフラーコの面倒をみるために、コンドミニアムを手に入れようとしている。そして兄を轢いたホンダ・アコード・プレミアムに乗っていた人物を必ず探し出すと心に誓っている。→人気ブログランキング

IQ2/ジョー・イデ/熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリ文庫/2019年
IQ/ジョー・イデ/熊谷千寿/ハヤカワ・ミステリ文庫/2018年

2018年9月 5日 (水)

ナンシー関の耳大全 77 武田砂鉄 編

ナンシー関の芸能評論はもはや伝説である。
かなりきつめの芸能人評には、一言一言にごもっともとうなづいてしまう。切り口は鋭く独創的で、比喩は的確、神がかっているといってもいいくらいの説得力だ。時差はあっても古さはない。それだけキモを掴んでいたということだ。
もちろん現れるはずもないのだが、未だにをナンシー関に比肩するテレビ批評家は現れていない。芸能人を誰彼かまわず俎上にあげて切りまくり、見方によっては喧嘩を売っているという意味でだ。
ナンシー関の代名詞だった消しゴム版画は多色刷りになり、プチジャンルとして確立されつつあるようだが。。
77ナンシー関の耳大全77
ナンシー関
朝日文庫
2018年

本書は『週刊朝日』に掲載されたコラム「小耳にはさもう」の450編ほどから、選りすぐりの77編を、武田砂鉄が選んだ。武田砂鉄は何者なのか?
以下wikipediaより。
〈フリーライター。……2015年4月、初の著作『紋切型社会』を上梓。同書で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。2016年3月には第9回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞した。〉
巻末には、編者が本書を編むに至った経緯が、「わたしたちの大切な公文書」というタイトルで、長めに書かれている。〈半永久的な(ナンシー関の)文書の賞味期限を更に先延ばしにしたいと思った。〉というのが動機だ。

ナンシー関らしさが横溢する文章を以下にピックアップする。
1993年に、川崎麻世との不倫が発覚したときに、斉藤由貴の記者会見について書いたもの。
〈こういう言い方はどうかと思うのだが、(斉藤由貴)は「目がイッてしまっている人になっていたのである。
今回の記者会見でも、斉藤由貴は「イッた目」をしていた。何か質問をされると、斉藤由貴は視線を虚空にさまよわせたまま、どことなくポエジーな言葉つきの答えを「イッた目」のまま発するのだ。……
芝居の役を演じたときに、"人が変わる""何かが憑く""トランス状態になる"というようなことを、特に舞台役者においては「天賦の才」と尊ぶようである。……
斉藤由貴の目のイキ方はそうゆう職業病のレベルではなく、もっと大変なものだ。何つったらいいのか、自己を過剰に認識するあまりに、とでも言おうか。それは演劇部の女子高生なんかにもいるタイプである。技術がないから臭い新劇じみた表現になってしまったりするのと同じように、斉藤由貴も器量がないから目にばかりが出ちゃうんだろう。〉そして、斉藤由貴に詩を書くことを勧めてコラムは結ばれる。
このコラムの行間には、〈こいつまたやるぞ、きっと。〉というニュアンスが隠れているように思う。→人気ブログランキング

ナンシー関の耳大全 77/武田砂鉄編/朝日文庫/2018年
語りあかそう/ナンシー関/河出書房文庫/2014年

2018年9月 2日 (日)

『予告された殺人の記録』 G・ガルシア=マルケス

27年前に起こった殺人事件を、住民の証言をもとに力強い文体で描写する中篇小説。そのジャーナリスティックなアプローチは、トルーマン・カポーティの『冷血』を彷彿とさせる。
1987年に、フランスとイタリアの合作で同名のタイトルで映画化されている。
新装されたカラフルないかにもラテン風のカバーが物語を象徴的に表している。

舞台はコロンビアの辺鄙な河沿いの町。
衆人環視の中で殺人が起こる。しかも、人びとは殺人が起こることを知っていた。双子の兄弟は人を殺すことをあたり構わずに何人もに話をしていて、むしろ誰かに犯行を止めてもらうための努力を思いつく限り試みたというのが真相らしい。兄弟は犯行前に多量のアルコールを摂取した。

予告された殺人の記録 (新潮文庫)
G. ガルシア=マルケス/野谷文昭
新潮文庫
2001年 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
売り上げランキング: 4,706

町を上げての婚礼の翌朝、処女でないことを理由に新婦が実家に帰された。母親が娘に問い詰めると、ハンサムな青年の名前を口にした。玉の輿にのせようとした母親らの説得に負けた形の意にそわぬ結婚であったから、産婆から新婦の初夜での戦略を伝授されたにもかかわらず、娘は開き直ったのだ。
過去に、娘とその青年が会っているところを目撃した者は誰もおらず、娘は大切にしていた男を守ったのだ。

よそ者の新郎だけが金持ちの裏切り者として人びとの記憶に刻まれた。彼以外の悲劇の登場人物たちは、自分たちに割り当てられた役回りを、ある種の威厳をもって演じたと言える。濡れ衣かもしれないが、殺された青年は陵辱の罪を死によってあがない、兄弟は自分たちが男であることを証明した。その結果、辱しめをうけた娘は名誉を回復した。

話はここで終わらない。
人目を避けてひっそりと暮らす出戻り女は、あろうことかその金持ち男に恋をしてしまう。そして手紙を送り続けた。
何年も経ったある日、船から一人の男が降り立ち、袋から大量の手紙を取り出した。女の前に姿を現わした男は今は初老となったかつての新郎であった。

後半に明らかにされる生々しい殺害のシーンで、ナイフで滅多刺しにされて腸をぶら下げて断末魔の苦しみにあえぐ男の壮絶な様は、『壬生義士伝』(浅田次郎著)で、満身創痍の主人公が自害する最期に重なる。どちらも、面目を保つための「大義」が死に至らしめる理由である。→人気ブログランキング

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