半分のぼった黄色い太陽 チママンダー・ンゴズィ・アディーチェ
戦争に巻き込まれて翻弄される人々を、オナンラとカイネネという双子の姉妹を中心に描いている。 ラブストーリーの要素が多分にあり、戦争の悲惨さが薄められたヒューマンドラマとして読むことができる。
ストーリーテーラーとしての才能がいかんなく発揮された本作品によりC・N・アディーチェは、イギリスの文学賞であるオレンジ賞(2014年からベイリーズ賞、国籍は問わず女性が英語で書いた長編小説に与えられる)を、2007年に受賞している。
半分のぼった黄色い太陽 チママンダ・ンゴズィ・アディーチェ/くぼたのぞみ 河出書房新社 2010年 |
物語は3人の目を通して語られる。
1人目は、大学町スッカに住む数学の教授のオデニボにハウスボーイとして雇われた13歳の聡明なウグウ。田舎から出てきたウグウにとってオデニボの家で見るもの聞くものすべてが、はじめてのことであった。
オデニボの家には、週末になると同僚たちが集まり、酒を飲みながら議論を戦わせたり、音楽を聴いたり、詩を朗読したりするサロンのようなところであった。
次は、ナイジェリアの大都市ラゴスの裕福なイボ人の家庭で育った双子の妹・美貌のオランナ。ロンドン留学から帰国したオランナはあるパーティでオデニボに出会い、その精悍さとエネルギッシュなところに惹かれ一緒に暮らし始める。オデニボは、しょっ中アフリカの社会主義について新聞に記事を書いている。
3番目は、イギリスからやってきたナイジェリアの古代美術に興味をもつ長身の白人リチャードである。作家志望のリチャードは、ラゴスで開かれたパーティで双子の姉カイネネに 一目惚れをして、なんとか付き合おうとする。
カイネネは父親が手がける事業を引き受けて、ポーハーコートに住み事業家として活躍してる。
人種も、性別も、肌の色も、立場も違う3人の人物が語り部となって物語は進む。
ラジオから流れるビアフラ共和国の分離独立のニュースにイボ人たちは歓喜したが、それは坂を転げ落ちるように進む悲劇の幕開けだった。
ナイジェリア軍の攻撃にビアフラ軍は拠点を明け渡していく。
人々は安全な地区に居を変えざるを得なくなり、オランナたちも何回か転居し、日を追うごとに生活は苦しくなっていく。
オランナたちの生活の変化は、食事の場面でつぶさに伝わってくる。最初は、姉妹の実家で開かれるパーティの豪華すぎる食べ物や飲み物が出されたが、戦争が始まると食事は粗末になっていく。やがては塩にも困り、何ヶ月もコメを口にできないような状況に追い込まれてしまう。
1960年にイギリスから独立したナイジェリア共和国は、250もの民族がひしめく多民族国家で、宗教の違いや地域による貧富の差など、ポストコロニアルな問題を抱えていた。イボ人を排除する形で連邦を支配しようとする動きに反発して、イボ人を中心とした東部州がビアフラ共和国として独立を宣言した。
東部州の油田を手放すまいとするナイジェリア政府との間で内戦(ビアフラ戦争 1967年7月)が勃発した。ナイジェリア政府はビアフラへの陸路・空路・海路を断つ作戦をとり、ビアフラへの食料・物資の供給が遮断されたため大規模で悲惨な飢餓が起こり、国際的な問題となった。
1970年1月、独立を指揮したオジェク将軍がコートジボアールに亡命し、ビアフラ戦争は終結した。この内戦による死傷者は、150万人と言われている。
タイトルの「半分のぼった黄色い太陽」とは、姉妹たちが属するビアフラ共和国の国旗のデザインのことである。→人気ブログランキング
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