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『眠狂四郎無頼控(一)』柴田錬三郎

直木賞作家・柴田錬三郎の傑作『眠狂四郎無頼控』は、1956年(昭和31年)5月から『週刊新潮』に、毎週読み切りという短編連作の形で掲載された。翌 1957年に書籍化され、文庫は1960年に発刊され70刷を重ねている。超ロングセラーである。

眠狂四郎は、ころび伴天連と日本人女性との混血という生い立ちである。そういう出自のせいか虚無感漂う二枚目で、豊臣秀頼佩刀とされる「無想正宗」を帯び、眠りを誘う秘剣「円月殺法」により小気味いいくらいに悪人をばったばったと斬り捨てる。

眠狂四郎無頼控(一)(新潮文庫)
眠狂四郎無頼控(一)
posted with amazlet at 18.11.22
新潮文庫
1960年 ✳︎10

 

江戸城内に権力をほしいままにしているのは、老中筆頭水野忠成である。将軍家斉とその生父一橋治済の殊寵を得ていて、他の閣僚は手の出しようがなかった。ところが昨年、水野越前守忠邦が、京都所司代・侍従より西丸老中に任じ、家斉の世子家慶の補佐役として登場するや、幕閣内には変化が現れはじめた。
この忠邦の江戸城登場を、水野忠成一統が看過するはずはない。こうして両陣営の暗闘が繰り広げられるのである。

水野忠成一統には、ご禁制の貿易により得た舶来品を賄賂としてばら撒き幕閣内を暗躍する廻船問屋越前屋、さらに越前屋と手を組んだ奥医師・室矢醇堂がいて、悪事に手を染めている。
一方、忠邦の側頭役・式部仙十郎は、眠狂四郎に情報を与えつつ後ろ盾となっている。という善と悪との対立が基本スキームである。

それぞれの章は次章への余韻を残しながら、眠狂四郎の円月殺法で悪を叩き斬って終わる。
早春のひな祭りにはじまり、四季折々の描写が挟み込まれるところも、本書の魅力である。美保代と静香というふたりの若い女性と狂四郎の絡みも見逃せない。また、昭和30年代を風刺する語句を歌い込んだ江戸の戯れ歌が登場するのは洒落ている。

解説は『沈黙』を書いた遠藤周作である。切支丹つながりかと思いきや、そのあたりのことは触れておらず、何しろ面白くて時代を先取りしていてインテリ向けだと書いていて、連載されていた頃、本作が大人気であったことをうかがわせる。

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眠狂四郎は賭場の壺振りの金八を伴って水野越前守の屋敷に乗り込んだ。間者である寵妾・美保代の部屋に忍び込み手篭めにした後、狂四郎が叫んでいる隙に、金八は雛を盗んだ。狂四郎と美保代は白州に引っ立てられる。狂四郎は水野忠邦に幕政の紊乱を質すよう進言し、将軍から忠邦が拝領した小直衣雛の首を刎ねる勇気があるやと迫る。忠邦は雛の首を刎ねる。狂四郎は美保代に矢を放った庭番を円月殺法で斬り捨てた。「雛の首」

 

狂四郎は水野越前守の屋敷で斬った庭番の家を訪ね、妹の静香に遺品の十字架を届けた。静香も隠れ切支丹であった。狂四郎はぜすすきりすと復活節の逮夜に、大奥付医師邸に忍び込む。地下室の板戸を蹴って開け、30名の衆徒の見守る中、まりあ観音をまっぷたつに斬った。そこにいた備前屋は、狂四郎の両親のどちらかが異人ではないかと指摘した。「霧人亭異変」

 

常磐津の師匠・文字若の家に金八が美保代を匿ってもらいにやってくる。越前守の側頭役式部仙十郎から頼まれたという。文字若は掏摸の先輩だった。賊が押し入り文字若を縛り上げ、美保代を刺し男雛の首が盗まれた。備前屋は隠れ伴天連を通じて外国からの珍品を手に入れ賄賂に使っていた。異国の香の匂いから賊が割り出され、狂四郎の円月殺法の餌食となる。「隠密の果て」

 

狂四郎の生い立ちに触れる。「踊る孤影」

 

備前屋の魂胆は、狂四郎が持っている女雛の首を奪い男雛の首と揃えて、水野忠成に忠邦の弾劾の品として差し出せば、さぞや高く売れるだろうというもの。水野忠邦が実権を握った暁には、隠れ切支丹は根絶やしにされる。越前屋は静香に狂四郎に操を捧げる代わりに女雛を手に入れるよう説き伏せた。静香は狂四郎の寝ぐらとする貧乏寺で待っていた。「毒と柔肌」

 

狂四郎が式部仙十郎に手渡した阿片は、奥医師・室矢醇堂を襲って薬箱を奪って手に入れたものである。西丸大奥に出没する白衣の幽霊と将軍家慶の四男・政之助の衰弱ぶりを、仙十郎は本丸老中水野忠成一統のめぐらした陰謀と睨んだ。狂四郎を送り込み事の解決を図ろうとする。「禁苑の怪」

 

阿片と男雛の首を交換しようと、奥医師・室矢醇堂の屋敷に乗り込んだ狂四郎を待っていたのは備前屋が雇った13人の刺客であった。
一方、古寺の静香のもとに護衛者の喜平太が現れ、静香を当身で気を失わさせ連れ去ろうとする。狂四郎が現れ喜平太と一戦交えるが、そこに落水楼老人が現れ、静香を預かるという。狂四郎と静香はいとこ、落水楼老人はふたりの祖父にあたる。「修羅の道」

 

式部仙十郎は、水野忠邦の異母弟長谷川主馬を本丸老中側が自分たちに寝返らせようとしていることに気づいていた。主馬は吉原で酒浸りの日々を送っているという。狂四郎が主馬に辻斬りしてはどうかと声をかける。狂四郎が仕組んだ辻斬りの相手役になる掏摸が、主馬の懐の印籠を奪い敵方に操られていることを探ろうというもの。「江戸っ子気質」

 

下腹部に黒い十字架が書かれた若い女性の遺体が川から2年続けて上がった。狂四郎は美保代に囮となるよう頼んだ。狂四郎の読み通り美保代は拉致され、かつて松平主水正、つまり狂四郎の祖父、の屋敷に連れ込まれた。狂四郎の出自が明らかになる。「黒魔祭」

 

狂四郎の愛刀の由来が描かれる。女の蝋人形の首を持ち帰った狂四郎を、むささびこと喜平太が襲う。「無想正宗」

 

狂四郎は相模の源氏館と呼ばれる豪壮な館を訪れた。蝋人形の頭部に詰め込まれていた200枚の小判を包んでいた古紙に源氏館と書かれていたからだ。館の娘は小判の受け取りを拒否する。「源氏館の娘」

 

男前の男が背後から斬り付けられ殺される事件が立て続けに起こった。死体には斬奸状が乗せてあり、斬ったのは眠狂四郎で、西丸老中水野越前守が浮華軽佻の世に対する警醒の為、命じられたと書かれていた。狂四郎は囮を仕掛ける。「斬奸状」

 

廻米問屋駿河屋から用心棒の依頼がきた。徳川家を転覆させるための軍資金千両を奪うと脅迫状が舞い込んだという。狂四郎は用心棒を引き受けたが。。「千両箱異聞」

 

奥医師・室矢醇堂と妾が同衾のまま殺害され、小直衣雛の男雛の首が盗まれた。評定所留役勘定組頭の戸田隼人が男雛を持参して、静香に女雛の首を渡してほしいという。政権争奪の禍因を断てと命じられたという。狂四郎と隼人は剣を交える。「盲目円月殺法」

 

狂四郎は、親の仇を討ちたいと12歳の少年に声を掛けられ、詳細を母親に訊こうとするが断られる。狂四郎は宿敵・備前屋に仇討ちの設定を頼むのだった。「仇討無常」

 

飲み屋に現れた武士は狂四郎に切腹の作法を訊ねた。調書を無くしたという。しかし調書の内容は、林肥後守に伝わっていた。その男小堀藤之進は切腹を申し出たが、許されなかった。狂四郎は調書紛失の真相を探る。「切腹心中」

 

料亭での喧嘩のあげく殺傷沙汰になり、奥津知太郎は身分が上の侍を斬り付けた。
狂四郎は知太郎に決して切腹するな、相手の傷が癒えてから果し合いを申し込むと言え。それまで出奔しろと知恵を授けた。許婚が知太郎の自害した父親の首を引っさげて相手の屋敷に乗り込む。「処女侍」

 

むささび喜平太との一騎打ちが繰り広げられる。「嵐と宿敵」

 

むささび喜平太に刺された肩の傷から破傷風にでもなったのだろうか。狂四郎は意識が遠のき震えが止まらなかった。夜鷹の住まいに転がり込む。「夜鷹の宿」

 

宿で隣の部屋の若い男女の切羽詰まった話を聞く。臆病者の夫は仇討ちはひとりでは返り討ちにあうからと、色仕掛けを妻に促すのだが。。「因果街道」

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