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2018年12月12日 (水)

大統領失踪 ビル・クリントン/ジェイムズ・パタースン

著者のクリントン元大統領は大のミステリ好きで、以前よりミステリを書きたい思っていたという。タッグを組んだのは、アメリカ・ミステリ界の大御所ジェイムズ・パタースン。
ホワイトハウス内の描写や人間関係に、その場に身をおいたものにしか書けないと思われる機微が盛り込まれている。
クリントンには、兵役を免れ、上院の弾劾裁判にかけられたという苦い過去がある。その経験が、主人公のダンカン大統領を湾岸戦争の英雄にし、冒頭で大統領弾劾の前段階である特別調査委員会の場面を設定した理由かもしれない。
ストーリーは、まるで絶叫ジェットコースターのように次から次へとスリルに富む場面が待ち受けていて、それを乗り越えていく様は小気味がいい。もちろん大どんでん返しも仕込まれている。
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ビル・クリントン/
ジェイムズ・パタースン

 

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越前俊弥/久野郁子
2018年

下院特別調査委員会の場面から始まる。ダンカン大統領がテロ組織「ジハードの息子たち」を率いるリーダーと取引をしたのではないかという疑惑だ。下院議長の質問に、ダンカンは大統領特権で答えないと黙秘する。緊迫するやりとりが交わされるが、実はこれはリハーサルである。

「ジハードの息子たち」が仕掛けたのは、アメリカの政府機関のコンピュータにウイルスを送り込み、すべてのファイルを根こそぎ無効にしてしまうというもの。
数日前、トロントの政府機関のコンピュータにウイルスが侵入し、痕跡を残さず消えた。この事件により、ダンカン大統領はウイルス攻撃は脅しではないと確信した。

そんな折、Tシャツにジーパンのパンク娘がホワイトハウスに乗り込んできて、ダンカン大統領に直々に封筒を手渡した。この後、ダンカン大統領はウイルスの攻撃を未然に防ぐため、ホワイトハウスから姿を消すのだった。

やがて、ロサンゼルスで生物テロ攻撃に対応できる研究所が焼け落ちた。さらに、浄水施設のコンピュータのソフトウェアがハッキングされた。これは小手調べにすぎない。
もし、政府機関のコンピュータが本格的にサイバー攻撃されれば、すべてが麻痺する。政府の機能も、銀行も交通も流通も医療も、テレビも何もかもが麻痺して、19世紀に戻ってしまう。どれだけの人が死ぬのか。集団ヒステリーが起こりパニックになる。そして敵対する国から攻撃されるかもしれない。

サイバーセキュリティーの専門家が30人集まって、刻々と迫るウイルス攻撃開始までの時間内に、ウイルスを無力化しようとする。ダンカン大統領は重症の持病と闘いながら、自国を危機から救おうと懸命に奮闘する。

テロ集団の黒幕はどこの国なのか。そして大統領の8人の側近のうち、テロ集団に情報を漏らした裏切り者は誰なのか。ジェットコースターはスピードを増して車輪から火花を散らしながら、最後の山場に向かう。

気が早いことに、ダンカン大統領には次期大統領選に立候補してもらい、次作での活躍を期待する声が多いという。テレビの大型ドラマ化が決定していると帯に書いてあるが、大ヒットは間違いないだろう。 →人気ブログランキング
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コメント

ヒット間違いなしと思ったものの、さほど話題に登らなかった。

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