ナイルに死す アガサ・クリスティー
本作品は1937年に発表された。
約1世紀前のナイル川クルーズに同乗しながら、ストーリー運びの巧みさと犯人当て推理を満喫することができる。船上ミステリの元祖である。
犯人をよもや疑われないだろうという安全域においておく一人二役系。
膨大な財産を相続したリネットに親友のジャッキーが婚約者のサイモンを紹介すると、貴族との婚約が決まりかけていたリネットはサイモンを気に入ってしまい、ふたりはさっさと結婚してしまう。婚約者を奪われたジャッキーは、サイモン夫妻の前にストーカーのように頻回に現れ、復讐の機会を狙っている。しかもピストルを持参している。
ジャッキーは夫婦のエジプト旅行に姿を現し、夫妻が偽名を使ってジャッキーを振り切ろうとしたナイル川クルーズにも参加したのだった。
なぜ、極秘にしている夫婦の行き先をジャッキーが察知できるのか?
![]() アガサ・ クリスティー/加島祥造 ハヤカワ文庫 2003年 |
リネットの財産管理人はやましいところがあるから、アメリカからエジプトに駆けつける。気むずかしいアメリカの富豪の夫人とその従姉妹でリネットの父親によって破産に追い込まれた一家の娘、官能小説で有名な女流作家とその娘、さらに社会主義運動に関わる男やテロリストとそれを追う英国特務機関員の大佐など、クルーズ船に乗り合わせた人物の背景が語られ、事件に関わる人物たちのしがらみが描かれる。
略奪愛に絡む殺人事件が起こるのは作品のほぼ中間点。
ジャッキーが銃でサイモンの脚を撃ち、その銃でリネットが殺される。そのあと事件が続発して起こり、エルキュール・ポアロの謎解きがはじまる。ちなみに、ベルギー人のポアロは、自らを優れた洞察力のある「灰色の脳細胞」を持つ世界最高の探偵であるとする自信家である。
冒頭にアガサ・クリスティ自身の本作品の紹介が載っている。
〈・・・自分ではこの作品は"外国旅行物"の中で最も良い作品の一つと考えています。そして探偵小説が"逃避的文学"だとするなら、ひとときを、犯罪の世界に逃れるばかりでなく、南国の陽射しとナイルの青い水の国に逃れてもいただけるわけです。〉
作品が文学の王道から逃避していると批判されたことに対するアガサ・クリスティの反論である。→人気ブログランキング
ナイルに死す/アガサ・クリスティ/加島祥造 ハヤカワ文庫 2003年
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