元年春之祭 陸 秋槎
古代中国を舞台に、ふたりの少女が推理合戦を展開するフーダニットもの。
知的でおおらかでコミカルに始まるものの、話が進むにつれて非情で残酷になっていく。
著者の専攻テーマだった漢籍がところどころに挟み込まれ、前漢時代の中国にタイムスリップさせてくれる、少女コミック風のミステリ。
著者の陸 秋槎(りくしゅうさ)は、1988年、中国・北京生まれ。現在、金沢市在住。2014年、復旦大古籍研究所在学中に短編ミステリ『前奏曲』を発表し、第2回華文推理大奨賽の最優秀新人賞を受賞。2016年、本作で長編デビュー。
![]() 陸 秋槎/稲村文吾 訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ 2018年 ✳7 |
古例の見聞を深めるため観家に滞在していた17歳の於陵葵(おりょうき)と、観家の当主の娘・同い年の観露申(かんろしん)は、出会ったばかりなのに友情で結ばれる。露申は葵に過去の一族の凄惨な殺人事件を打ち明ける。
楚国の貴族の末裔であった観家は、漢の世に身の置き所がなく、人里離れた雲夢澤(うんぽうたく)で絶えず居を移していた。傍系の家系は雲夢を離れていったという事情がある。
葵はいくら学問を積んで武道を習得して古代の賢人の真似をしても、育ちを変えることはできないと嘆く。それなのに立派な血筋の露申のあまりの出来の悪さに失望したという。そんな露申を葵はからかったりいじめたりして激昂させたくなる。
このあたりまでは、少女コミックの小説版というノリである。
事件とは、4年前の天漢元年(紀元前100年)、かつて楚国の祭祀を司っていた名門の観家の人々が春の祭の準備をしていたさなか、露申の伯父、伯母、従弟が何者かによって殺された。しかし犯人は見つからないままになっていた。
漢籍の研鑽を積んだ聡明な葵は事件の解決を引き受けるが、目の前で新たな殺人事件が起こってしまう。
そして、葵と露申は事件の全容を解明する推理合戦を繰り広げる。事件のバックグラウンドには、観一族と豪族だった葵のそれぞれの宿命があった。→人気ブログランキング
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