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『ニムロッド』上田岳弘

テクノロジーが先行したポストヒューマンの世界が、作中の小説の中に描かれている。小説の書き手は荷室さんことニムロッド、主人公・中本哲史の会社の先輩である。ちなみに、ニムロッドは「旧約聖書」でバベルの塔の建造において発案者とされる人物である。
中本は小さなインターネット・サーバー会社に勤めている。法人向けのサーバーの保守を提供する、契約社員を合わせて50名ほどの会社だ。
社長に金を掘る仕事をするよう命じられた。仮想通貨のビットコインを採掘せよという。かくして採掘課の課長となった中本は、余剰のサーバーマシンを活用して、ビットコインの発掘を開始する。
第160回(2019年1月)芥川賞受賞作。

ニムロッド
ニムロッド
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上田岳弘
講談社
2019年1月 ✳8
売り上げランキング: 653

ビットコインは、2008年に、サトル・サカモトと名乗る人物が発表した論文が元となり、2009年から発掘が開始された。
ビットコインはその存在を保証する台帳があるだけだ。発掘は提供されるアルゴリズムに則ってPCで計算し台帳に追記する。計算したPCには報酬として新たに発行されるビットコインが送られる。
誰がいくら持っているかが台帳に記載されていて、その状態を存在すると皆で合意することでビットコインは存在することになる。
翌朝、中本が地下のサーバーでどれくらいコインを掘り当てたかをみると、日本円に換算してPC1台につき920円。余っているサーバーが11台あるから、1日10120円稼ぐ勘定になる。1ヶ月30万円だ。
創始者は新規に発行されるビットコインの上限を設けていて、掘り尽くすのは、現存する人間たちがすべて死滅するだろう2140年だという。
仮想通貨はソースコードと哲学でできているとニムロッドは言う。

中本のもとには、ニムロッドからときどきメールが届く。役に立たない「ダメな飛行機」の情報が1機また1機とシリーズで送られてくる。ニムロッドは中本の1年先輩で、文学賞の新人賞の最終選考に3回残っていずれも落ちた。最後に落選してから1年後に鬱になって、長期間会社を休み、実家がある名古屋の支社に転勤となった。

小説の中のニムロッドは巨万の富を保有している。バベルの塔を思わせる高い建築物の先端で暮らしていて、屋上には役に立たない飛行機が何台も置いてあるというマジックレアリズムの世界が展開する。

仮想通貨は、人間の欲望とテクノロジーが結びついたものだ。仮想通貨を掘ることはバベルの塔を積み上げることにつながる。バベルの塔の先端に置いた「ダメな飛行機」たちは、意味のないことに情熱を燃やすことが世の中を支えてきた、あるいは、現代社会の多くのことが将来無意味になるだろうと暗示している。そして意味のないことに意味を求めなければ、成り立たないかもしれないこれからの人類の の生き様を象徴している。→人気ブログランキング

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