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『ノマド』ジェシカ・ブルーダー

アメリカでは、季節労働者として重労働に従事し、キャンピングカーで移動する「ノマド」と呼ばれる高齢者が増えている。ノマドとは遊牧民という意味だ。
著者はノマドの生活を体験する目的でキャンピングカーを購入し、ビーツ(砂糖大根)の収穫やアマゾンの倉庫で働き、3年間にわたるフィールド・スタディーを行って本書を書き上げた。著者が出会ったのは60歳代から70歳代の高齢者たちだ。
リタイアした高齢者やリーマンショックで被害を被った中産階級や、離婚や病気・ケガなどの危機を乗り越えられなかった人たちや、解雇されたり事業がうまくいかなかった人たちが、住宅ローンや家賃や公共料金の支払いができなくなり、車上生活に望みをかけたのだ。

ノマド: 漂流する高齢労働者たち
ジェシカ・ブルーダー/鈴木素子
春秋社
2018年10月 ✳︎10
売り上げランキング: 43,944

仕事を求めてキャンピングカーを走らせる季節労働者は、自らをワーキャンパー(Workamper)と呼ぶ。
ワーキャンパーを採用する企業や官公庁のなかで、最も過激な求人を行ってきたのはアマゾンのキャンパーフォースだ。秋からクリスマスかけての繁忙期に、各地の倉庫でワーキャンパーを雇う。アマゾンの仕事は、時給(11.5ドル、約1300円)が高い分かなりきつい。仕事の内容は商品の梱包と仕分けだが、広い倉庫の中を毎日ハーフマラソンの距離を歩き、3か月で10キロも痩せるという。関節痛や筋肉痛に苦しむ者にはジェネリックの鎮痛剤が無料で支給される。

クリスマスが終わると、ワーキャンパーたちは次の仕事場に移動する。仕事は、農場での果物やビーツの収穫、キャンプ地の清掃、球場でのハンバーガーやビール売りなど、いずれも長時間にわたる低賃金の肉体労働だ。

ワーキャンパーは季節的な人材確保を求める雇用側にとって、きわめて便利な即戦力である。必要とする場所に、必要とするタイミングで集まってくれる。住居と一緒にやってきて、つかの間駐車パークに企業町を作るが、その町は仕事が終わればなくなる。組合が結成されるほど長時間止まることはない。また福利厚生や社会保障を要求しない。
こうした地下経済を生み出しているのは、ウェブサイトに求人広告を載せているアマゾンをはじめとする何百という数の企業だ。
企業は「雇用機会上のハンディを持つ」労働者を雇うことで、賃金の25%〜40%の連邦税控除を受けることができるのだ。

ワーキャンパーたちは、まるでスタインベックの『怒りの葡萄』のオーキーと呼ばれるオクラホマ出身の主人公たちと同じだ。『怒りの葡萄』と異なるのは、オーキーたちが目標としたのは普通の家に住むことだが、ワーキャンパーはノマド生活をその場しのぎと考えていないことだ。

高齢になれば新しい仕事を見つけることが困難になるが、キャンピングカーとスマホがあれば、簡単に仕事が見つかるとワーキャンパーは言う。
しかし、現実は様々な困難な問題が待ち受けている。例えば仕事をしていないときの駐車スペースの確保、特に住宅地では厳しい。さらに入浴の問題、水の確保など、あるいは車の老朽化や故障、自らのケガや病気など、悩みの種は尽きない。
ノマドは非白人がほとんどいない。ここにもアメリカの人種差別が顔を出す。→人気ブログランキング

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