そしてミランダを殺す ピーター・スワンソン
見知らぬ女に男が妻殺しを相談するという、現実にはありそうにない設定で話がはじまるが、すんなり受け入れられるのは、著者の巧みな構成力と卓絶した筆力によるのだろう。大胆な展開と予想だにしない結末が待っている。本書はすべての章が登場人物たちのモノローグの形をとっている。映画化の話が進んでいるという。
テッドはヒースロー空港のバーでジントニックを飲みながら、ボストン行きの飛行機の出発を待っている。そこに面識のない女・リリーが声をかけてくる。
テッドはインターネット関連会社に投資し成功した実業家だ。酔いも手伝ってか、結婚して3年になること、ボストンに住んでいること、メイン州の海辺の土地を買い新居を建てていること、建築現場で妻のミランダと建築業者ブラッドとの不倫を目撃したことを打ちあけた。
![]() ピーター・スワンソン/務台夏子 創元推理文庫 2018年 |
ミランダは他人を利用し、自分のルックスを頼りに生き、もらえるものをもらって満足している浅薄な女。この先、生きていても何人もの男を不幸に陥れる人生を送る。人間はいずれ死ぬのだから、殺しても何も問題がないというのが、リリーの強引な論理。
テッドはリリーに同調し、ミランダは殺さなければならないモンスターだと思うようになる。こうして奇妙な共犯関係が成立する。なぜ妻の殺害に手を貸すのかとのテッドの疑問に、リリーは全てが終わってから、話すと約束するのだった。テッドはミランダに好意を寄せ、リリーもテッドとの関係を好ましく感じている。
ストーリーが進むにつれて、殺人に痛痒すら感じないリリー、自らの欲望のために男を食い物にするミランダ、そのふたりに振り回される哀れなテッドとブラッドという構図が見えてくる。リリーとミランダは、最近話題となっているサイコパスという人格障害だろう。
同じ場面を時間を巻き戻して、別の人物の視点から語るという手法を使っている。この手法により、読者は登場人物のひとりの目では理解しがたい事象の核心部分を表と裏から見ることができるのである。→人気ブログランキング
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