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『馬を愛した男』テス・ギャラガー

著者の初めての短編集。発表当時、絶賛されたという。
訳者の解説によれば、アイデアの多くは著者の母親の話からという。母親はストーリーテーラーだ。
テス・ギャラガーは、1943年にワシントン州ポート・エンジェルスという太平洋に面した林業の町で生まれた。父親は木こりをはじめとする肉体労働に従事していた。ポート・エンジェルスが舞台になったと思われる作品もいくつかある。
テスはワシントン大学を卒業後、自分に文学の才能があると目覚め、陸軍のパイロットであった最初の夫と別れ、アイオワ大学創作科に学んだ。1974年に詩集『Stepping Outside』刊行し、詩人として頭角を現した。その後1980年から1990年の間、シラキュース大学に籍を置き、教鞭をとっている。
テスは、1979年にレイモンド・カーヴァーと暮らしはじめ、1986年に本書を刊行した。1988年にはカーヴァーと結婚したが、2ヶ月後にカーヴァーは亡くなっている。テスはカーヴァーに勧められて小説を書きはじめたという。作品には詩人のセンスが光る言葉が散りばめられれている。
前妻とのいざこざについて書かれた作品や、激しい性格の弟について書いた作品など、実際に身の回りで起こったことからヒントを得て書いた作品がいくつかある。そのひとつ、祖父からの一家のクロニクルを書いた本書のタイトルとにもなっている「馬を愛した男」は傑作だ。含意のある読後感が残る秀作が揃っている。

馬を愛した男
馬を愛した男
posted with amazlet at 19.03.07
テス・ギャラガー/黒田絵美子
中央公論社
1990年 ✳︎9

・ジプシーの血を引く大酒飲みだった曽祖父のこと、ジプシーの血が強烈であること、最期の父との魂の交流のこと、娘の自分が父とよく似ていること。「馬を愛した男」
・治安が悪い地区に住宅を買った。夫がホームレスに声をかけたところ、家に現れるようになった。隣の家主はホームレスの男に銃を突きつけ、空に向けて銃を撃った。その場面を車中で見ていた妻に対しても、家主は威嚇の言葉を吐いた。「死神」
・隣人のジュエルは家を夫バードの名義にしたばかりに、バードに家を追い出されることになった。ジュエルの妹はバードの女のプードルをさらってカリフォルニアに連れて行った。ジュエルは夫の車をぶち壊し、夫の手に渡ることになった家に火をつけた。私とジュエルは、カリフォルニアに向かった。「遡求権」
・訪問販売の女性が、霊媒師の話をして連絡先をおいていった。訪問販売を快く思っていない夫が帰ってきて、霊媒師の名刺を見て当たるはずないと言ったが、興味深々そう。「テレピン油」
・離婚の話が進んでないようだ。潰瘍で入院しているロバートに奥さんが見舞いにきたという。ひどい服装だったので、デパートで服を買ってやったという。煮え切らないロバートに奥さんのもとに戻ればと言うと、愛しているという。「なすがまま」
・ぼやけた世界を見ることが好きな少女の眼鏡へのこだわり。「眼鏡」
・72歳のミス・ニックスは赤ん坊の頃、無法者のガンマンに抱き上げられた。無法者は泣きさけぶ赤ん坊で、保安官から顔を隠して事なきを得たという。そのミス・ニックスを友人とふたりで介護した話。「ジェシー・ジェイムズを救った女」
・受取人を前妻との子どもにした夫と、受取人を夫にした妻とのいざこざ。「受取人」
・夫もホーマーと同じで酒が好きだった。ホーマーは悪い仲間と加わって惨めな死に方をした。夫が酔っ払って暴言を吐いたことがあった。それ以来、夫婦仲は冷え沈黙の夜を過ごしている。「悪い仲間」
・手に負えない弟の暴言に対して夫がなにか言ってくれてもいいのにと妻は不満に思った。しかし男の危険はそこらじゅうに転がっている。夫は温和で臆病者だ。危険に真正面からぶつからなくてもいいと妻は思った。「いくじなし」
・ヘミングウェイが自殺したりアイヒマンがエルサレムで裁判にかけられた頃、町の新聞社で働き始めた17歳のわたしが、一緒に働いたヤクザな男の話。「やけくそ」
・43年も会わなかった少女時代の親友に会いにく。首尾よく会えたが。。「娘時代」→人気ブログランキング

ふくろう女の美容室』テス・ギャラガー/橋本博美 新潮社 2008年
馬を愛した男』テス・ギャラガー/黒田絵美子 中央公論社 1990年

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