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2019年4月17日 (水)

初夜 イアン・マキューアン

20世紀の半ばをすぎても、イギリスでは性に対してビクトリア朝時代を引きずっていた。数年経てば、ロックンロールの流行とともに開放的な性の風潮が先進国を席巻しようとする直前である。時代設定がいかにも巧妙だ。
物語が初夜の一事象に収斂していく巧みな構成と筆さばきは見事というほかはない。
Photo_20230119082701初夜
イアン・マキューアン /松村潔
新潮クレスト・ブックス
2009年 172頁

ふたりはオックスフォードにある大学を卒業したばかりのときに出会い、1年ほど交際したのちに結婚に至った。エドワードはユニヴァーシティ・カレッジ・ロンドンで歴史学を、フローレンスは王立音楽大学でヴァイオリンを専攻した。

披露宴のあと、ふたりは車でドーセット海岸のホテルに到着する。
エドワードはホテルに泊まったことがなかったが、フローレンスは子供の頃、父親と旅行した際に、ホテルには何度も泊まったことがあった。

最初の夜の様子が、ふたりの生い立ちや交際中のことに触れながら、イギリスの社会情勢や文化や風潮を、緻密で核心をついた文章で描く手法で、物語はすすんでいく。

ふたりの初夜を前にして感じていることは違った。エドワードは期待と熱望を感じたが、フローレンスは恐怖と嫌悪感だった。初夜に新婚夫婦が行うことを、期待するあまり失敗しないように、というのがエドワードが念じていることだった。

〈フローレンスのドレスのジッパーが布を噛んで動かなくなったり、彼女の内股の筋肉が痙攣したり、エドワードの手が彼女の内股から核心の部分に進めなくなったり、〉行為は滞りがちだった。受け入れなければならし、受け入れたいのだが、体がそう反応しないことにフローレンスは苦悩する。

もともと、エドワードは激昂しやすく少し暴力的なところがあった。それがこの場面で現れやしないか不安であった。一方、フローレンスはパニックや嫌悪感をなんとかコントロールしようとしたのだが。。
初夜を境に、ふたりの人生は変わっていく。

ふたりのその後の人生は決して悪いものではなかった。フローレンスはヴァイオリニストとしてそこそこ成功した。エドワードはそれなりの職について経済的に困窮するようなことはなかった。どちらかといえば幸せな老後を向かえた。
初夜をうまくやり過ごせば、別の人生が待っていたであろうという運命の不条理を感じさせながら物語は終わる。→人気ブログランキング
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アムステルダム/イアン・マキューアン/新潮文庫/2005年
初夜/イアン・マキューアン/新潮クレストブック/2009年

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