宇宙船ビーグル号の冒険 A・E・ヴァン・ヴォークト
本書は、1950年に発刊されたA・E・ヴァン・ヴォークトの長編SF小説『The Voyage of Space Beagle』の新訳版。それまでに発表した4つの中編を合わせて長編に仕立てているという。日本では本書がヴォークトの代表作とされているが、アメリカではそうした評価はないという。
科学者と軍人合わせて1000人の乗組員を擁する巨大宇宙探査船なかで繰り広げられる権力争いを縦軸に、未知の宇宙生物との攻防を横軸に描くスペースオペラの古典である。
人間と宇宙生物の二つの視点で描かれているので、読み手は探査船を襲う生物の思惑を知ることができる。
宇宙船ビーグル号の冒険【新版】 A・E・ヴァン・ヴォークト/沼沢洽治 創元SF文庫 2017年 |
肩から太い触手を生やした巨大猫型宇宙獣のケアルには哀愁が漂う。ケアルは惑星の住民同士の絶滅戦争に耐えて生き残った実験動物なのだ。
リーム鳥型星人のテレパシー文明に接触したビーグル号の乗組員は大混乱をきたす。
何千年もの昔、故郷の星の爆発で隆盛を誇った種族は滅び、不死身の緋色の怪物イクストルは宇宙空間をさ迷っている。イクストルは原子構造を変化させてビーグル号の堅い外壁を通り抜け船内に入り込み、卵の孵化場となる人間〈グウル〉を見つけ出そうとする。
ビーグル号が渦状星雲に入ろうとしたところで、乗組員の五感に刺激が送られてきた。銀河をおおいつくすほど成長した巨大ガス状生命アナビスの生息域に足を踏み入れたのだ。その瞬間からアナビスの存亡をかけた死闘に巻き込まれる。
謎の宇宙生物と戦う一方、船内では権力争いがくり広げられている。
物理学や科学や地質学などの部長たちから見れば、総合科学(ネクシャリズム)部のグローヴナーは若造であり、総合科学は得体の知れない格下の新興の学問なのだ。しかし専門家の狭い視野では、ビーグル号が遭遇する難敵を蹴散らすことはできないだろう。グローヴナーは次第に力をつけていく。
グローヴナーの良き理解者である考古学者の苅田は、「末期農民型」社会という単語を使って敵の状況を言い表す。それはとりもなおさず、船内で繰り広げられている権力闘争を揶揄しているのである。→人気ブログランキング
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