がん免疫療法とは何か 本庶 佑
著者は「免疫チェックポイント阻害剤」の開発の基礎となる研究により、2018年のノーベル賞医学生理学賞を受賞した。免疫機能にはアクセルとブレーキを促すメカニズムがあり、免疫細胞の正常な活動にブレーキがかけられているために、がん細胞は増殖する。ブレーキの機能を停止させることにより、がん細胞を攻撃するリンパ球の活動性を賦活することができる。著者らはブレーキかけるPD-1を発見し、PD-1抗体を作り出した。
巻末には、著者のノーベル賞受賞晩餐会でのスピーチが掲載されている。
がん免疫療法とは何か 本庶 佑 岩波新書 2019年 |
免疫反応とは、体内に入ってきたあるいは体内でできた非自己を見つけ出しやっつけてしまうことである。免疫反応は、抗体を産生するB細胞(Bリンパ球)と抗体の産生を助けたり感染細胞を直接殺すT細胞が(Tリンパ球)という二種類の細胞で起こる。
リンパ球は抗原に結合すると、結合したという信号が細胞の中に伝えられ分子のリン酸化が進み、そのリンパ球が分裂し他の免疫細胞を動員して初めて、免疫反応が成立するのである。したがって、この抗原認識後の反応の閾値の制御は、免疫応答にとって極めて重要である。
現在この閾値の制御に関わる分子として、いわゆるアクセルとブレーキの両方が存在する。ブレーキとしてはCTLA-4とPD-1、アクセルとしてはC-28とアイコス(ICOS)という分子が存在する。アクセルを操作する試みは長く行われたが成功しなかった。今日、最も有力な制御はブレーキの弱体化によるものである。
ブレーキをかけるタンパク質は、1987年にCTLA-4が見出され、著者たちが1992年にPD-1を発見した。
がん細胞は正常細胞の100倍から1千倍の頻度で、遺伝子に異変を蓄積していく。そのため、がん細胞が発現する非自己の抗原は1種類ではなく変化していく。1種類の新しい抗原をめがけた免疫療法では、新たな「新しい抗原」をもった細胞が生まれた場合には無効になってしまう。
これに対してブレーキ役を破壊することで、全ての免疫系のリンパ球、特にキラー・リンパ球(がん細胞を破壊できる能力を持つ。細胞障害性T細胞)を動員することができる。
2002~03年当時、がんの免疫療法の評判は悪かった。試みがことごとく失敗したからだという。著者たちは、1992年にPD-1を発見し、2002年に抗体を作ることに成功した。小野薬品にPD-1抗体の製品化を依頼し、小野薬品はアメリカのベンチャー・メダレックス社との共同開発で「オプジーボ(一般名ニボルマブ)」を作り上げた。オプジーボの臨床治験が始まったのが2006年である。日本で保険適応になったのが2014年である。
免疫ブレーキ停止法で、がん細胞の変化をどこまでも追いかけてやっつける力を持つことが可能になった。この治療法がすべてのがんに適応される日がやってくると著者は考えている。
PD-1抗体は10年以内にがん治療の第一選択薬となり、そのマーケットも年間数兆円の規模のものになると、多くの人が予測している。→人気ブログランキング
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