リバタリアニズム
リバタリアニズムとは、個人のもつ自由を最大限尊重し、政治的、社会的、経済的に自由を求める思想。政府の介入を極力排除し、自由と市場主義を徹底する。
自由至上主義や自由尊重主義と訳され、日本ではリバタリアンは「保守の一部」とみなされがちだが、湾岸戦争やイラク戦争には反対した。人工中絶や同性婚については国家が口を挟むべきことではないとする。
さらにレイシズムや(人種差別)ナショナリズムは個人を矮小化するとして否定し、マイノリティやLGBTへの差別に反対する。しかし、リバタリアニズムが裕福な白人男性の思想だというイメージは、人種差別に結びつきやすいことも事実であるとする。
リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 渡辺 靖 中公新書 2019年 |
著者は、アメリカのリバタリアニズムの学生サークル、理論的支柱である学者やシンクタンクやリバタリアンの集会で取材を行っている。
リバタリアニズムといっても多種多様で、政府を必要としないとするアナキズムに近い考えや、果ては政府によるベーシックインカムの支給を支持する考えもある。
きわどいところでは、自己所有権の見地から、成人間の合意に基づく身体売買、売春や自己奴隷契約、臓器売買などを容認する傾向にある。
ユダヤ人思想家のハンナ・アーレントは、アメリカの独立こそは、社会のルールをめぐる権威づけを、王や宗教でなく、個人の契約に委ねることに成功した近代史上、唯一の事例としている。
君主や貴族による統治(保守主義)も、巨大な政府権力による統治(社会主義)もともに否定するのがアメリカの特徴である。ヨーロッパでは、保守主義、自由主義、社会主義という三すくみの対立軸によって政治空間が織りなされているが、アメリカでは保守もリベラルも自由主義を前提としている。
ピルグリムファーザーによるアメリカ建国の考え方が、リバタリアンに繋がるとする。
リバタリアンはアメリカだからこそ生まれた考え方だ。
政治的には、共和党と民主党の間にリバタリアン党が存在するが、リバタリアン党は大統領選挙のたびに得票率を伸ばしている。
リバタリアンから見たら、保護貿易主義をふりかざし、人種差別を助長する言動などをくり返すトランプ大統領はお話にならないが、アメリカ軍の派兵に反対の立場をとるトランプの方針はリバタリアンに受け入れられている。
中国にもリバタリアニズムを研究するグループが存在するが、日本にはまだないようだという。リバタリアニズムは保守や革新にとらわれない新しい政治思想である。
この考えがGAFAの暴走を許したのは間違いないだろう。→人気ブログランキング
アメリカン・デモクラシーの逆説/渡辺靖/岩波新書/2010年
リバタリアニズム-アメリカを揺るがす自由至上主義 /渡辺 靖/中公新書/2019年
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