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2019年5月14日 (火)

すかたん 朝井まかて

大坂の蔬菜を扱う老舗の青物問屋・河内屋を舞台に繰り広げられる人情物語。
著者の作品には植物が多く描かれる。『落陽』では明治神宮の人工林の建設を描いた。最新作『雲上雲下』には、巨大な草「草どん」が、語り部となって物語を進めている。デビュー作『花較べ 向嶋なずなや繁盛記』は、江戸の植木屋が舞台の話だ。著者は植物が大好きだそうだ。
登場人物のキャラが際立っていて、青野物問屋にかかわる人びとの生き様が見事に伝わってくる。
第3回 大阪ほんま本大賞受賞作。
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朝井 まかて
講談社文庫
2014年

主人公の千里は江戸の饅頭屋の娘で、美濃の侍・三好数馬の妻となった。夫の数馬は大坂勤め1年で急死した。
千里の実家は嫂が取り仕切っていて、とても金を貸してくれと頼めず、江戸に帰ることもままならない。大坂で自活して金を貯め、江戸に帰るときに美濃の菩提寺に納骨された数馬に香華を手向けたい。それが千里の願いである。
千里は子どもと言い合いになって、またもや寺子屋の手習師匠を馘になった。3回目だ。おまけに住んでいる長屋に空き巣が入り金目のものはなくなり、家賃も払えなくなって路頭に迷う寸前に、青物問屋の若旦那・清太郎の口利きで、清太郎の実家である河内屋に上女中として住み込むことになる。上女中とは、お家さん志乃つきの女中である。仕事は志乃の身の回りの世話にはじまり、志乃が命令するすべてである。起きてから寝るまで休む暇はない。

清太郎は廓のある色町に入り浸って、酒ばかり飲んでいる。およそ世事には疎いが、自分が良かれと思ったことには猪突猛進して成しとげる愛すべきキャラクターなのだ。

初めて遣いに出た千里は、百姓のネギ売りが同心から咎められている場面に出くわす。千里はその百姓から大量の難波葱をもらって、翌朝の朝餉の味噌汁の具にしたことが、騒動の始まりだった。
清太郎はその百姓をとっちめると、千里にネギ売りがいた場所に案内させた。葱の不法販売の百姓は現れなかった。このことをきっかけに、逆に静太郎は百姓の立売の許可に動くことになり、それは取りも直さず、天満青物市場に喧嘩売ってるようなものだ。清太郎が難波村についていると知ったら、問屋連中は黙っていない。

青物問屋の集まりで、伊丹屋から清太郎が難波の百姓に手助けをしたことが告げられ、河内屋の当主・惣左衛門は窮地に立たされた。清太郎を廃嫡にすると息巻く。
惣左衛門は、青物問屋会の頭取を辞め、伊丹屋が後釜に座る。そして河内屋の売り上げは激減し、奉公人も辞めていき、あわや潰れそうになる。

伊藤若冲の「蕪」の絵を登場させるにくい演出は、河内屋にとって起死回生の逆転打への布石でもある。→人気ブログランキング
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