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『恋歌』朝井まかて

中島歌子は樋口一葉の和歌の師である。歌子が開いた歌塾「萩の舎(や)」は、最盛期には1000人の門人を擁し、門下生には樋口一葉のほか本書のもう一人の主人公である三宅花圃がいた。花圃は17歳のときに『藪の鶯』でデビューした小説家である。

晩年、歌子が病床に伏しているときに、花圃は歌子の書斎で手記をみつけた。手記には歌子の波乱万丈の半生が綴られていた。その手記を花圃と歌子の身の回りの世話をしている澄が、一緒に読むという形で話は進んでいく。

江戸の商家の娘として生まれた登世(のちの歌子)は、物怖じしない人を惹きつける陽気な娘だった。登世は水戸藩士の林忠左衛門以徳(もちのり)が、池田屋に泊まったときに一目惚れし、18歳で水戸に嫁ぐことになった。

恋歌 (講談社文庫)
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朝井 まかて
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時代は幕末、安政の大獄で尊皇攘夷派が弾圧され、水戸の浪士が井伊直弼を襲撃した桜田門外の変(1860年)が起こる。
水戸藩内は以徳の属する天狗党と諸生党に分かれ揉め事が耐えない。
1864年、尊皇攘夷を唱える天狗党が筑波山で蜂起した。幕府の弱腰に憤り、攘夷実行、横浜の断固鎖国、水戸藩主の首のすげ替えまで要求した。天狗党は幕府に反旗を翻す賊徒と見做され、諸生党の執拗な追跡に悲惨な運命をたどることになる。そして天狗党の妻子までが召捕らえられ牢獄に入れられた。
登世たちの2年近くに及ぶ獄中の生活は、凄惨を極めた。その描写は鬼気迫るものがある。

藩内の天狗党と諸生党の確執により殺し合いが繰り返され、2千人が死亡した。その結果、水戸藩には明治新政府に参加できる人材が残っていなかったという。

登世は中島歌子に名を変えた。歌子は歌の道に邁進していれば、以徳がきっと見つけてくれる、帰ってきてくれる、そう信じた。登世が獄中にいるときに、以徳が幕府軍の砲弾を受けて重傷を負って捕らえられ亡くなっていたことを知るのは、後のことである。

本作は、幕末の水戸藩の血を血で洗う悲惨すぎるドラマを女性を通して描いたことで成功し、第150回直木賞を受賞した。

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