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2019年7月

『スウィングしなけりゃ意味がない』佐藤亜紀

ナチに支配されるドイツのハンブルグを舞台に、スウィング・ボーイたちの生き様を描く。ナチ政権下のドイツを説明調ではなく内側から描く筆の力は見事だ。

スイング・ボーイズは、ナチスに退廃音楽と烙印を押されたジャズにのめり込んでいるだけだ。アメリカ文化にかぶれているから、エディとかニッキーとかデュークなどと呼び合っている。ジャズを聴き、カフェで踊り狂い、酒を飲むという不良行為を繰り返す裕福な若者たちが主人公である。

スウィングしなけりゃ意味がない (角川文庫)
佐藤 亜紀
角川文庫 2019年5月 ✳8
売り上げランキング: 121,642

語り部の15歳のエディは軍需工場の経営者の息子で、父親はナチのバッジを付けている。
エディの友人マックスはピアノが滅茶苦茶上手くて、ユダヤ人との混血の祖母がいる。ある晩、マックスはバンドが休憩タイムに入ったときに、ドビュッシーを弾いてスウィングさせた。誰もが踊らないくらいすごい演奏だった。
クーは、父親がエディの親父の会社で働いていて、ナチス・ユーゲント(青少年団)に属しているナチのスパイだ。スウィングが無性に好きでパーティがあると出かけ、ユーゲントでの地位を確保するためにゲシュタポに通報して点数稼ぎをするのだ。

ナチの大佐を父親にもつデュークはキレのあるスウィングでならす。デュークは大佐を追い出して家を焼き払ってしまうことを目標にしているような危険な男だ。

エディたちは海賊版のジャズレコード販売を開始する。BBC放送の音楽番組を録音して、トンフォリエンという機械でブランクに溝を掘る。これが結構な稼ぎになった。

裕福なカキ・ゲオルギスのヴィラで、ガーデンパーティを開くことになった。ゲシュタポに踏み込まれ、多数が検挙され収容所送りとなった。エディは捕まらなかったが、父親に自首を促され出頭した。収容所で3ヶ月間重労働に従事させられ、足が壊疽寸前となった。その後、スウィング・ボーイズの活動は下火にならざるを得なかった。

状況はどんどん悪くなっていく。ついにはハンブルグに爆撃機が飛んでくるようになり、防空壕に逃げ込むようなこともしばしば起こる。ハンブルグは人口が170万だったのが爆撃後は50万、誰が出て行って誰が死んで、誰が残っているのかを数えるのは不可能な状況になった。

末尾の章には、ナチ支配下におけるジャズについて記載がある。ハンブルグのスウィング・ボーイズは鼻持ちならない連中で、まわりから白い目で見られていたらしい。ハンブルグは裕福な町で、はじめのうちナチは裕福な家庭には手を出さなかったという。ハンブルグにはユーボートの製造工場があり、連合軍の大々的な爆撃を受けた。

『孤独の意味も、女であることの味わいも』三浦瑠麗

テレビ画面から受ける著者の印象は、弁がたつ冷たそうな女性だった。最近は角が取れてきた印象がある。本書は著者の半生を綴った自伝。読後は著者に対する見方が好意的になってしまう。よくぞここまで赤裸々に自分をさらけ出したものだ。

子供の頃、本をよく読んだという。
テレビはつけない家庭だったから、学校で級友の話題についていけなかったという。
小学生のときにいじめを受けた原因は、転校生にとなった偶然と、人から浮いてしまう個性という必然がないまぜになったものだったと、分析している。

孤独の意味も、女であることの味わいも
三浦 瑠麗
新潮社 2019年5月 ✴7
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身に起こった性的な事故を淡々と書き綴っている。抗いがたい結果を受け入れ、最後には流れに身を任せる。それが人生なのだと悟ったという。
学生時代の男性との交際を綴り、その後は温和な夫との出会い、長女の死産を経験し、次女を出産する。

東大農学部を卒業したものの、文科系に目覚め、同大法学政治学の大学院に入り博士号を取得した。
宮沢賢治の『注文多い料理店』からとった「山猫日記」と名付けたブログを始めた。書き始めたら筆が止まらなかったという。生まれたばかりの娘がいて、子育てがてら書き続けた。
このあたりは、チママンダー・ンゴズィ・アディーチェの『アメリカーナ』に登場するナイジェリア出身の主人公が、アルファブロガーとなって活躍するくだりと重なる。
ブログをきっかけに執筆活動を活発に展開し、テレビにも出演するようになる。

女性にとっての永遠の課題は、自分の中に住まう女性性をどう扱うのか、一般的な女性らしさからはみ出した自我にどうやって対処するのかであるという。
女性が自分の意見を発すること、著者が実践していることであるが、それは女性にとって孤独な闘いであるという。

『むらさきのスカートの女』今村夏子

むらさきのスカートの女を、ストーカーの視点で、ユーモアをまじえて小気味良いテンポで描いている。

街で、むらさきのスカートの女を知らない人はいない。
見かければ、知らんふりをする人、道を開ける人がいて、その日は運がいいとか3度見ると不幸になるとかいうジンクスまである。
わたしはむらさきのスカートの女がぼろアパートの2階に住んでいることを知っている。仕事は不定期で経済的に苦しいはずだということを知っている。なぜこうも、むらさきのスカートの女のことが気になるのか?むらさきのスカートの女と同類であるわたしは、黄色いカーディガンの訳あり女なのだ。

【第161回 芥川賞受賞作】むらさきのスカートの女
今村夏子
朝日新聞出版 2019年6月 ✳︎6
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むらさきのスカートの女が座る公園のベンチに、ページに印をつけたコンビニの就職情報誌をおいておく。まんまと引っかかりそのページの会社の面接を受けて、ホテルの清掃職に就いた。
職場で、むらさきのスカートの女は初めはおどおどしていたものの、マネージャーに可愛がられ、1週間という異例の早さでトレーニング期間を終えて独り立ちした。そこから、むらさきのスカートの女は増長していく。

痩せていたむらさきのスカートの女はふっくらとしてきて、綺麗になったと言われるようになった。時給は1000円に増え、その後1500円くらいになったらしい。
部屋に内鍵を掛けての清掃作業は禁止されているが、むらさきのスカートの女は鍵をかけるという。
所長の黒い車で一緒に出勤するようになったという。わたしは所長とむらさきのスカートの女のデートを尾行した。その夜、所長はぼろアパートに泊まった。

マネージャーが、朝のミーティングで、最近バスローブなどの備品が大量になくなるので、チェックを怠らないようにと注意を喚起した。ある日、ホテルの備品が小学校のバザーに出品されていたという通報がホテルに入った。
そして、むらさきのスカートの女と所長の関係に致命的な亀裂が入る。
第161回(2019年7月)芥川賞受賞。

『落花』澤田瞳子

平将門の生き様を、梵唄(ぼんばい)という経の詠み法を極めようとする僧・寛朝の目を通して描く。奈良・平安期の歴史小説の第一人者である著者が、将門を動、寛朝を静の対比で描き上げる。第161回直木賞(2019年7月)候補作。

「平将門の乱」とは、常陸国の平氏一族の抗争から、関東諸国を巻き込む争いへと広がり、将門軍が国府を襲撃し、朝廷に対抗して「新皇」を自称したことにより朝敵となる。しかし即位後わずか2か月たらずで藤原秀頼、平貞盛によって討伐される。
本作では、勝利の宴で惚け者が「新皇に相応しい」と叫んだことで、望んだわけでない将門が「新皇」に祭り上げられてしまう。

落花
落花
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澤田 瞳子
中央公論新社 2019年3月 ✳︎9
売り上げランキング: 9,134

寛朝は父親に疎まれ幼くして仁和寺に預けられた。寛朝の父親・敦実親王は醍醐天皇の同母弟であり、当代一の楽者としてその名を轟かせていた。楽の道では到底父に追いつくことができない寛朝は、経の読誦法である梵唄に活路を見出そうとした。

そして、常盤国の豊原是緒から教えを受けるために、東国に旅立った。下人の千歳は是緒が所持している有明という琵琶の名器を手に入れて、卑賤の身から抜け出そうという企みで従者になった。有明は天下十逸物のひとつとされる。

寛朝一行を迎い入れた武蔵権守・興世王の屋敷に盗賊が押し入って強奪を始めたとき、将門が現れると、盗賊たちは奪った反物を返しはじめた。
将門は伯父との私闘を咎められ京の検非違使庁に出頭して、坂東に戻ってきたところだという。
平将門が面倒を見ている少女のうそは、寛朝の梵唄に聞き惚れて、寛朝が将門の館に来てくれるよう頼むのだった。うその母親と将門は幼馴染、留守中に伯父が営所に火を放ち、うその母親は火傷で亡くなった。
寛朝は将門と己との対比することで、将門の人となりに敬意と憧憬を抱くのだった。

常盤国分寺の僧・心慶に名を変えた豊原是緒は、船で生活し春をひさぐ傀儡女に楽の手ほどきをしている。将門の妹と触れまわる如意と、盲目のあこやたちは心慶に最大限の敬意を払っている。卑しいあこやに有明を授けたという現実に、千歳は衝撃を受ける。有明を手に入れようとなりふり構わない策を弄するのだった。

営所の経営で財をなして領土を富ませる将門と、国府に出仕して勤務する従兄の平貞盛は、いつ戦ってもおかしくない水と油である。
堅物の常陸国司の菅原維幾にひと泡吹かせようと、藤原玄茂(はるもち)と玄明(はるあき)は企んでいる。
玄茂と玄明とあこやの傀儡女船で3日後会おうとしていると、千歳は菅原維幾に知らせた。菅原維幾が玄茂・玄明を襲い、どさくさに紛れて千歳はあこやの琵琶を奪おうと企んだのだ。
将門は玄明・玄茂の暴挙を許すようにとの書状を国府に送るが、国司の藤原維幾はこれを一蹴した。将門の義憤は激しい怒りに変じ、国府に攻め入った。国府に攻め入ったからには、将門は朝廷からすれば叛徒である。
そして、将門軍と藤原秀頼・平貞盛羅の軍の血で血を洗う壮絶な戦いが繰り広げられる。

月人壮士(つきひとおとこ)/中央公論新社/2019年
落花/中央公論新社/2019年
秋萩の散る/徳間書店/2016年
師走の扶持 京都鷹ヶ峰御薬園日録/徳間書店/2015年
ふたり女房 京都鷹ヶ峰御薬園日録/徳間文庫/2016年
京都はんなり暮らし/徳間文庫/2015年
与楽の飯 東大寺造仏所炊屋私記/光文社/2015年
若冲/文藝春秋/2015年
満つる月の如し 仏師・定朝/徳間文庫/2014年
泣くな道真 ―太宰府の詩―/集英社文庫/2014年

 

『平場の月』朝倉かすみ

青砥健将は郷里の町で印刷会社に勤めている。青砥には介護施設に入所している認知症の母親がいる。パートの同窓生の元女子たちと一緒に仕事をしている。元女子といっても50歳、青砥も同じ歳だ。人生にこの先、輝かしい進展があるとは思えない。
第161回(令和元年7月)直木賞候補作。

平場の月
平場の月
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朝倉かすみ
光文社 2018年 9✳
売り上げランキング: 533

青砥は胃がんの検診を受けに町の総合病院に行ったとき、売店の店員をしている須藤葉子に再会した。
中3のときに、青砥はどこかどっしり構えたところがある「太い」と感じていた須藤に告白してフラれた。
今回は、アドレスを交換しラインで連絡しあい、2日後に焼き鳥屋で会うことになった。

須藤と一緒に働いている同窓生のウミちゃんは明るくてお人好しで人は悪くないが、情報通だ。ウミちゃんによって、青砥と須藤の関係はラインを通じてまたたく間に拡散される。ウミちゃんのスピーカーぶりにしばしば辟易させられる。

青砥はアル中の一歩手前から帰還した話をした。須藤は若い美容師に入れあげて家まで失った波乱の人生を歩んでいた。お互いバツイチだ。

情熱的な恋とは違う、お互い孤独の中で慈しみあいながら関係を続けていく。しかし、すでに前半で明らかにされたふたりの結末に向かって物語は進んでいく。
巧みな筆致で綴られた悲恋譚である。

『美しき愚か者たちのタブロー』原田マハ

世界に通用する西洋美術館を日本に建てるという目的のために、奮闘した人たちの物語。タブローとは、移動可能なキャンバスなどに描いた絵画のことである。
第161回(2019年7月)直木賞候補作。

松方幸次郎は1866年、鹿児島に明治の元勲・松方正義の3男として生まれた。破天荒な性格で、東京帝大を退学処分になり、アメリカのラトガース大学に留学した。帰国後、松方は首相を務める父親の秘書をしたり、保険会社を経営したりしていたが、1896年に川崎財閥の創始者・川崎正蔵に見込まれて、川崎造船所の社長に就任し、第一次大戦の戦争特需で大儲けした。


美しき愚かものたちのタブロー

原田 マハ
文藝春秋
2019年5月 8✳

松方の美術収集アドバイザーになったのは日本を代表する美術史家の吉田修一である。松方の作品の買い方は、作品の良し悪しもさることながら、画家と親密になって、作品をすべて買い上げるという豪快なものだった。モネには直接に会って意気投合し、秘蔵の「睡蓮」を買取っている。

当初、印象派の画家たちは、批評家に「タブローのなんたるかを知らぬ愚か者たちの落書き」などと手厳しく揶揄された。20世紀に入ってからは前衛美術を積極的に収集するコレクターが現れた。皮肉なことに、フランス人が見向きもしなかった前衛美術に外国人の方が先に価値を見出した。アメリカのスタイン兄妹、バーンズ博士、ロシアの富豪シチューキンとモロゾフ、そして松方幸次郎である。
この時代の動きを冷静に捉え、松方に作品の購入を勧めたのが、田代修一であった。

日本が欧米諸国と比肩するためには、経済力、軍事力ばかりでなく、芸術の力が必要だと松方は直感した。美術館のひとつもなくてどうして先進国の仲間入りができるのか。松方が絵画を集めた理由は、欧米に負けない美術館を創り、そこに本物の絵を展示して、日本の画家たち、ひいては青少年の教育に役立てたいと願ったからだ。

田代修一はサンフランシスコ講和条約の際、条約局長として首相の吉田茂に同行した。吉田総理はサンフランシシコのホテルで、仏外相に会い天才的な外交力を発揮し、「松方コレクション」の返還を約束させた。フランスには絵画がたくさんある、「松方コレクション」があってもなくてもフランスは変わらない。日本はそうではないと説き伏せたという。

松方が戦前に集めた作品数は2000とも3000とも言われている。松方は昭和25年に亡くなるが、その翌年にサンフランシスコ平和条約が締結され、フランスに残されていた彼のコレクションが日本の在外財産と認められる。そして370点の作品を収めるために、上野に巨匠ル・コルビュジエの設計による国立西洋美術館が建てられた。

『サピエンス異変―新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード

著者は環境人文学と19世紀英文学を専門とする英国ケント大学の人気准教授である。本書はフィナンシャル・タイムズ紙の「2018年ベストブック」に選出された。

最近使われるようになった地質時代の区分「人新世」とは、人類が農業や産業革命によって地球規模の環境変化をもたらした時代のことである。「人新世」を生きる私たちの身体の起こっている変化(進化)は、私たちが快適さを求めて作り上げてきた生活の影響であるという。それは歓迎されるような変化ではない。

200万年もの間、狩猟生活で培った人類の性質は、たったここ1万年前の農業の発展で、ミスマッチを余儀なくされた。

サピエンス異変――新たな時代「人新世」の衝撃
ヴァイバー・クリガン=リード/ 水谷淳・鍛原多惠子
飛鳥新社
2018年 ✳8

本書は次のように分けられていて、各章の終わりには「人新世」を生き抜くための著者のアドバイスが、箇条書きに列挙されている。
【第1部】紀元前800万年から紀元前3万年
氷河期の旧石器時代・新石器時代にあたる。移動生活が当たり前であり、狩りに費やす時間はせいぜい週30時間だった。人類の基本的な性質が培われた。

【第2部】紀元前3万年から西暦1700年
3万年から2万5千年くらいの間に、農耕が始まり人類は定住するようになった。
農耕により柔らかい食事を口にするようになり、歯が頭蓋骨の中に収まらなくなり人類の顔を変えた。顎が小さくなり、歯が小さくなった。

【第3部 】西暦1700年から西暦1910年
18世紀に産業革命が起きたとき、地形と環境が急速に変わり、私たちの身体もまた変わった。外見も含めた私たちの現在の有り様は、労働がどんどん分化した産業革命の時代に端を発している。
産業資本主義は富裕層と貧困層を分断する不平等に満ちていた。工場労働者の中に、爆発的に障害者が増えた。労働者は重労働と栄養不足に苦しんだ。子たち達にくる病が広がったのは栄養不足と日光にあたらないことだった。
さらにヴィクトリア時代に始まった学校教育は、子たちを椅子に座らせて5~6時間もじっとしていることを強いた。そして最近は、椅子に座らせられることを拒否する児童はADHDと診断され、アメリカでは6.1%の児童が薬を内服をしているという。

【第4章】1910年から現代
人間の足の大きさは、何千年ものあいだほぼ一定だった。ところが20世紀あたりから大きくなりはじめ、ここ40年だけでも2サイズ大きくなっている。1960年代にはアメリカ人の女性の足の平均サイズは6.5(日本サイズ24.0cm)だったが、いまでは8.5から9(日本サイズ26~26.5cm)になった。平均体重の影響もあるが、足のアーチが崩れて扁平足になっているせいもある。身体のことを考えると、靴を履かない時間を長くしたほうが良い。

座りっぱなしは、寿命を短くするし病気の発症を招く。著者はこの章を書き始めたころは、ふつうに椅子に座って調べ物をしていた。しかし、45歳から64歳の人のうちいつも座って仕事をしている人は、引退後に老人ホームに入る割合が40%高いということを知って、すぐにトレッドミルで歩きながらiPadで文献を読むというやり方に切り替えたという。

気味の悪い予測もある。このまま二酸化炭素の排出に対して歯止めがかからなければ、次のようなことが起こる。光合成の鍵となる二酸化炭素が増えれば、植物の生育は促進されるだろう。炭素以外のミネラルの量は相対的に減ってしまい、栄養素が減った野菜や穀物が生産される可能性があるという。そうして生まれた巨大化するニンジンは、過去の滋養豊かなニンジンではなく、ジャンクな食べ物であり肥満の原因となるというのだ。

現代人を苦しめるミスマッチ病である肥満、腰痛、二型糖尿病、腎臓病、高脂血症、うつ、骨粗鬆症などを回避するため著者のアドバイスは、座っている時間を短くして少し運動をしようという、簡単なものだ。

『生物学探偵セオ・クレイ 森の捕食者』

モンタナの山中で若い女性生物学者が殺された。近くで調査を行っていたセオ・クレイ教授に容疑をかけられ警察に連行されるが、女性を襲ったのは熊と断定され、教授は放免される。殺された女性はセオのかつての教え子・ジェニパーだった。

生物学探偵セオ・クレイ: 森の捕食者 (ハヤカワ・ミステリ文庫)
アンドリュー・メイン/唐木田みゆき
ハヤカワ・ミステリ文庫 2019年4月 ✳8

生物学的なあるいは生化学的なコメントをそこかしこに挟みながら、一人称で述懐するスタイルでストーリーは進む。

ジェニパーの傷の状態から死因に疑惑を抱いたセオは、独自のルートでゲノム検査を行ったところ、ジェニパーを襲った熊はすでに死んでいた。熊の仕業に見せかけた殺人事件であると警察に告げると、まったく取り合ってもらえない。
こうしてセオの孤立無援の捜査が始まる。

セオは生物学者であると同時にコンピュータのプログラマーである。セオが開発したMAATは、無関係なデータの集まり・カオスから、事件を解決する鍵を提供してくれるAIなのだ。手がかりが希薄にもかかわらず、MAATを頼りに仮説を立てていく。
熊に襲われて事故死した若い女性は過去10年で6人いた。一連の事件はシリアルキラーによる犯行ではないかとセオは疑いだす。
セオは、人づきあいがあまり得意でない生活スキルに難がある人物という設定だが、ダイナーの美人ウェートレス・ジリアンの協力を得て、犯人を絞り込んでいく。

犯人の尻尾を掴みかけたもつかの間、セオに自らが犯人として警察に出頭しなければ、セオと親しくしている人間を次々に殺すと脅迫されるに至る。相手は常人の域を超えた凶悪犯であった。
満身創痍になりながら、犯人との壮絶な闘いが展開される。

著者アンドリュー・メインの経歴が特異だ。10代の頃よりサーカス付きのイルージュニスト・マジシャンとして活躍している。
警察署に連行されたセオの目の前に、事件現場の写真29枚が広げられ、その中の6枚をセオが選ぶと、なんで選んだのだと刑事が驚いていう。同じ事件の写真だった。この場面はカードマジックを彷彿させる。
本作は「セオ・クレイ」シリーズの第1作目で、すでに3作まで刊行しているという。

『AV女優、のち』安田理央

AV女優になるきっかけは、身を持ち崩してとか、騙されてとか、借金を返すためとか、を想像するが、信じがたいことだが、最近はAV女優に憧れて自ら志願するケースが多いという。つまり大金を稼ぐやタレントの足がかりとかが、志願の理由となる。

最初は露出が少ない精神的にストレスの少ないものから始め、やがて擬似本番に進み、徐々にエスカレートし、ついには本番にいきつくという。まずはレンタルメーカーでデビューし、その後露出の多いセルメーカーに移籍する。レンタルとセルはAVビデオの販売形式をいう。
著者が7人のAV女優にインタヴューしている。著者名から女性が書いていると思ったが、男だった。

AV女優、のち (角川新書)
AV女優、のち
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安田 理央
角川新書 2018年 ✳︎7
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登場する元AV女優は、1名を除きプロフィール写真を公開している。
7名の現在の状況は、①結婚して、女優としてテレビドラマ・映画・舞台で活躍、②介護職、③タレント・歌手、④バー経営、⑤ソープ嬢・ライター・小説も手がける、⑥AV女優現役・ヘアメイク、⑦AV監督、である。
元AV女優たちは、表向きは後悔することなく暮らしていると答えている。

ところで、本書には「恵比寿マスカッツ」という固有名詞が、ひっきりなしに出てくる。
「恵比寿マスカッツ」は、AV女優やグラビアアイドル・モデルなどの多業種のタレントで構成された女性アイドルグループで、2008年、テレビ東京の深夜番組『おねがい!マスカッツ』で結成され、2013年に活動を停止している。
以前から、AV女優たちがテレビで活躍する場があったわけで、今後は、現であろうと元であろうとAV女優が活躍する場が、もっと拡大するということだ。AV女優に対する偏見は、タトゥーに対する偏見と同じだと主張しているのが、印象に残った。

AV女優、のち/安田理央/角川新書/2018年
職業としての地下アイドル/姫乃たま/朝日新書/2017年