スウィングしなけりゃ意味がない 佐藤亜紀
ナチに支配されるドイツのハンブルグを舞台に、スウィング・ボーイたちの生き様を描く。ナチ政権下のドイツを説明調ではなく内側から描く筆の力は見事だ。
スイング・ボーイズは、ナチスに退廃音楽と烙印を押されたジャズにのめり込んでいるだけだ。アメリカ文化にかぶれているから、エディとかニッキーとかデュークなどと呼び合っている。ジャズを聴き、カフェで踊り狂い、酒を飲むという不良行為を繰り返す裕福な若者たちが主人公である。
スウィングしなけりゃ意味がない 佐藤 亜紀 角川文庫 2019年 |
語り部の15歳のエディは軍需工場の経営者の息子で、父親はナチのバッジを付けている。
エディの友人マックスはピアノが滅茶苦茶上手くて、ユダヤ人との混血の祖母がいる。ある晩、マックスはバンドが休憩タイムに入ったときに、ドビュッシーを弾いてスウィングさせた。誰もが踊らないくらいすごい演奏だった。
クーは、父親がエディの親父の会社で働いていて、ナチス・ユーゲント(青少年団)に属しているナチのスパイだ。スウィングが無性に好きでパーティがあると出かけ、ユーゲントでの地位を確保するためにゲシュタポに通報して点数稼ぎをするのだ。
ナチの大佐を父親にもつデュークはキレのあるスウィングでならす。デュークは大佐を追い出して家を焼き払ってしまうことを目標にしているような危険な男だ。
エディたちは海賊版のジャズレコード販売を開始する。BBC放送の音楽番組を録音して、トンフォリエンという機械でブランクに溝を掘る。これが結構な稼ぎになった。
裕福なカキ・ゲオルギスのヴィラで、ガーデンパーティを開くことになった。ゲシュタポに踏み込まれ、多数が検挙され収容所送りとなった。エディは捕まらなかったが、父親に自首を促され出頭した。収容所で3ヶ月間重労働に従事させられ、足が壊疽寸前となった。その後、スウィング・ボーイズの活動は下火にならざるを得なかった。
状況はどんどん悪くなっていく。ついにはハンブルグに爆撃機が飛んでくるようになり、防空壕に逃げ込むようなこともしばしば起こる。ハンブルグは人口が170万だったのが爆撃後は50万、誰が出て行って誰が死んで、誰が残っているのかを数えるのは不可能な状況になった。
末尾の章には、ナチ支配下におけるジャズについて記載がある。ハンブルグのスウィング・ボーイズは鼻持ちならない連中で、まわりから白い目で見られていたらしい。ハンブルグは裕福な町で、はじめのうちナチは裕福な家庭には手を出さなかったという。ハンブルグにはユーボートの製造工場があり、連合軍の大々的な爆撃を受けた。→人気ブログランキング
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