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『サピエンス異変―新たな時代「人新世」の衝撃』ヴァイバー・クリガン=リード

著者は環境人文学と19世紀英文学を専門とする英国ケント大学の人気准教授である。本書はフィナンシャル・タイムズ紙の「2018年ベストブック」に選出された。

最近使われるようになった地質時代の区分「人新世」とは、人類が農業や産業革命によって地球規模の環境変化をもたらした時代のことである。「人新世」を生きる私たちの身体の起こっている変化(進化)は、私たちが快適さを求めて作り上げてきた生活の影響であるという。それは歓迎されるような変化ではない。

200万年もの間、狩猟生活で培った人類の性質は、たったここ1万年前の農業の発展で、ミスマッチを余儀なくされた。

サピエンス異変――新たな時代「人新世」の衝撃
ヴァイバー・クリガン=リード/ 水谷淳・鍛原多惠子
飛鳥新社
2018年 ✳8

本書は次のように分けられていて、各章の終わりには「人新世」を生き抜くための著者のアドバイスが、箇条書きに列挙されている。
【第1部】紀元前800万年から紀元前3万年
氷河期の旧石器時代・新石器時代にあたる。移動生活が当たり前であり、狩りに費やす時間はせいぜい週30時間だった。人類の基本的な性質が培われた。

【第2部】紀元前3万年から西暦1700年
3万年から2万5千年くらいの間に、農耕が始まり人類は定住するようになった。
農耕により柔らかい食事を口にするようになり、歯が頭蓋骨の中に収まらなくなり人類の顔を変えた。顎が小さくなり、歯が小さくなった。

【第3部 】西暦1700年から西暦1910年
18世紀に産業革命が起きたとき、地形と環境が急速に変わり、私たちの身体もまた変わった。外見も含めた私たちの現在の有り様は、労働がどんどん分化した産業革命の時代に端を発している。
産業資本主義は富裕層と貧困層を分断する不平等に満ちていた。工場労働者の中に、爆発的に障害者が増えた。労働者は重労働と栄養不足に苦しんだ。子たち達にくる病が広がったのは栄養不足と日光にあたらないことだった。
さらにヴィクトリア時代に始まった学校教育は、子たちを椅子に座らせて5~6時間もじっとしていることを強いた。そして最近は、椅子に座らせられることを拒否する児童はADHDと診断され、アメリカでは6.1%の児童が薬を内服をしているという。

【第4章】1910年から現代
人間の足の大きさは、何千年ものあいだほぼ一定だった。ところが20世紀あたりから大きくなりはじめ、ここ40年だけでも2サイズ大きくなっている。1960年代にはアメリカ人の女性の足の平均サイズは6.5(日本サイズ24.0cm)だったが、いまでは8.5から9(日本サイズ26~26.5cm)になった。平均体重の影響もあるが、足のアーチが崩れて扁平足になっているせいもある。身体のことを考えると、靴を履かない時間を長くしたほうが良い。

座りっぱなしは、寿命を短くするし病気の発症を招く。著者はこの章を書き始めたころは、ふつうに椅子に座って調べ物をしていた。しかし、45歳から64歳の人のうちいつも座って仕事をしている人は、引退後に老人ホームに入る割合が40%高いということを知って、すぐにトレッドミルで歩きながらiPadで文献を読むというやり方に切り替えたという。

気味の悪い予測もある。このまま二酸化炭素の排出に対して歯止めがかからなければ、次のようなことが起こる。光合成の鍵となる二酸化炭素が増えれば、植物の生育は促進されるだろう。炭素以外のミネラルの量は相対的に減ってしまい、栄養素が減った野菜や穀物が生産される可能性があるという。そうして生まれた巨大化するニンジンは、過去の滋養豊かなニンジンではなく、ジャンクな食べ物であり肥満の原因となるというのだ。

現代人を苦しめるミスマッチ病である肥満、腰痛、二型糖尿病、腎臓病、高脂血症、うつ、骨粗鬆症などを回避するため著者のアドバイスは、座っている時間を短くして少し運動をしようという、簡単なものだ。

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