カササギ殺人事件 アンソニー・ホロヴィッツ
上巻には、世界各国でベストセラーになった名探偵アティカス・ピュントのシリーズ第9作目という設定で、作中ミステリの『カササギ殺人事件』(アラン・コンウェイ著)が描かれている。
そのあらすじは、1955年、英国のサンクスビー・オン・エイヴォン村で、パイ屋敷の家政婦ブラキストン夫人が亡くなった。掃除機のコードが足に絡まり階段から落下し、首の骨を折った。警察は事故死と断定したが、住民たちは納得していない。
それは住民同士のしがらみが、住民たちに事故死ではなく殺人事件のはずだと確信させるからだ。
ブラキストン夫人が亡くなってから2週間後、パイ屋敷の持ち主サー・マグナスが飾り物の甲冑の剣で首を切断され殺された。
アティカス・ピュントは65歳、手術不能の脳腫瘍をわずらっている。ピュントの捜査により、村中の誰もが犯人でもありうる村の黒歴史が明らかにされる。
![]() アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭 |
![]() 創元推理文庫 2018年 ✳︎10 |
下巻は、時制が現在となり、アティカス・ピュント・シリーズの担当編集者のスーザン・ライランドの視線で描かれる。
スーザンは、『カササギ殺人事件』の原稿を手にするが、最終の2〜3章が抜き取られていた。実際に本書の上巻では、事件は解決しておらず中途半端なままになっている。
冒頭で、スーザンが、まとめの形でマグナス殺害の犯人を推論する。各人物の犯人としてのとしての可能性をあげつらう。
そこで、「よーし、下巻を読むぞ」と俄然モチベーションが上がるのだ。
最後の数章が抜きとられた『カササギ殺人事件』の著者アラン・コンウェイが自筆の遺書を残して、自宅の塔から飛び降り自殺をする。
自殺するはずがないアランがなぜ遺書を残したのか。スーザンの犯人探しが始まる。
そしてスーザンは、最終作とされる『カササギ殺人事件』を書くアランの真の目的を知ることになる。
作中ミステリの犯人探しと、アラン殺しの犯人探しという、フーダニットが別のフーダニットを包み込むダブル・フーダニットの設定で、話は進んでいく。ふたつのストーリーは、絡み合いながら見事に整理され、齟齬はもちろんなく強引さもない。さらに最終の2〜3章が消えた理由はなんなのか。
本書が、数々の賞に輝き、大傑作と評価されていることに納得させられた。星10。
著者のアンソニー・ホロヴィッツは、シャーロック・ホームズ財団公認を受け、ホームズ・シリーズの長編作品『モリアティー』と『絹の家』を執筆している。さらに、イアン・フレミング財団にも公認され、『007 逆襲のトリガー』を書いている。
テレビの脚本も数多く手がける英国エンターテーメント界の至宝である。→人気ブログランキング
その裁きは死/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元社文庫/2020年
メインテーマは殺人/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭 創元社推理文庫 2019年
007 逆襲のトリガー/アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子/角川文庫/2019年
カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元推理文庫/2018年
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