『カリ・モーラ』トマス・ハリス
舞台は移民に厳しい政策をとるトランプ政権下のアメリカ。
マイアミ・ビーチにコロンビアの元麻薬王の大邸宅が建っている。邸宅は遊び人や不動産の投機家たちが代わる代わるオーナーになり、秘密のパーティや映画撮影などの小道具がいまやガラクタとなって残されている。邸宅に3千万ドルの金塊が眠っているという情報をつかんだ悪党どもが跋扈する。
新潮文庫
2019年8月 ✳︎10
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カリの志望は獣医になること。 アメリカのハイスクール終了資格を取り、在宅介護の資格も取っている。医大の予科に通っていて、色々な仕事をしていて、いまは小動物保護センターの治療室の管理を任されている。なにしろトランプ政権だから、いつTPS(一次的滞在許可)を取り消されるやもしれないと移民たちは戦々恐々としている。
カリがコロンビアで反政府左翼ゲリラに拉致されたのは11歳のときだ。少女兵として訓練を受け16歳のときに、カリを暴行しようとした司令官の後頭部をライフルで撃ち抜き、部隊から脱走したのだ。
カリには俊敏な身のこなしやナイフや銃の使い方が身についている。
まずは、映画の撮影との触れ込みでハンス・ペーター・シュナイダーが手下をともなって、邸宅に乗り込んでくる。全身無毛のハンスは世界中に顧客を持つ臓器密売商で、金塊を手にした後に、カリを拉致して顧客に売りとばそうと企んでいる。なにしろ、ハンスは冷凍庫に両親を4日間閉じ込めカチカチに凍った塊を金槌で叩き割ったという経験がある。
一方、コロンビアで「十の鐘」泥棒学校を経営する犯罪組織を仕切るドン・エルストーネは、手下をつかってハンスを出し抜こうとする。
金塊の秘密の情報源は、コロンビアのバランキージャの病院に入院し、酸素マスクをつけて横たわっているヘスス・ビジャレアルだ。ヘススは情報を小出しにして両陣営から金を取ろうとしている。ヘススには悪徳弁護士のディエゴ・リーバがついていて、おこぼれをせしめようと、動き回っている。
邸宅内のハンスたちは床をくり抜いて、ドン・エルストーネたちは海から邸宅の地下に到達して、巨大な金庫を持ち出そうとするが、頑丈な金庫には爆破装置が仕掛けられていて、むやみに衝撃を加えたり開けたりすると邸宅ごと吹っ飛んでしまう。
さて、金塊は誰の手に渡るのか、またカリの運命やいかに。
本作は、ハリスの一連の作品『ブラック・サンデー』『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』『ハンニバル・レクター』博士・シリーズ の重くのしかかるようなストーリーとは、趣がまったく異なる。
カリが飼っているオウムや、マイアミに生息する鳥たちにページを割いていて、それが心和む雰囲気を醸し出している。
著者は、南国を舞台とするエルモア・レナードの作品を彷彿とさせる、新機軸を開拓した。
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