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『チョムスキーと言語脳科学』酒井邦嘉

ノーム・チョムスキーの提唱する言語理論は、コペルニクスの地動説やダーウィンの進化論やアインシュタインの相対性理論に匹敵するという。ただ残念なことに未だ確立されていない。

チョムスキーの説には2つの新しい点がある。それは、言語学という文系の分野に理系の発想を持ち込んだこと、人間には言葉を理解する秩序が生まれながらに備わっていることである。

チョムスキーと言語脳科学 (インターナショナル新書)
酒井 邦嘉
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チョムスキー以前の言語学は、実際に発語されたり書かれたりした文の集積データ(コーパス)の再現を目指したり、そこから累計パターンを抽出していた。人工知能で言語処理の主流になっているのは、コーパスを集めて統計的に分析することによって、次に現れそうな単語を予測して先読みさせる技術である。しかしこの手法には限界があるとする。

構造主義言語学は、表面的な構造を分類していくことで、文を外側から構造として捉えて分析しようとする。ところがチョムスキー理論では、文を生み出す(目に見えない)構造を内側から作ろうとした。奥底にある自然法則を探ろうとするから、サイエンスになるという。

「プラトンの問題」を説明できるかどうかが、言語理論として正しいかどうかの試金石になる。子どもは少ない言葉の刺激(「刺激の貧困」という)で聞たこともないような文を話せるようになる。オウム返しの模倣だけでは、そのようなことができるようになるとは考えにくい。そうした能力の問題提起を、「プラトンの問題」といい、古代ギリシャから現代に至るまで連綿と問われ続けてきた。

この問いに初めて答えたのがチョムスキーであった。生後間もない脳は決して白紙の状態ではなく、あらかじめ言葉の秩序、すなわち「普遍文法」が組み込まれていると考える。すると、刺激が貧困であっても言語の獲得が可能になり、見聞きしたことのない文まで生み出せるようになる。

チョムスキーはバラス・スキナーの著書『言語行動』に対して、批判論文を書いたことによりその名を広く知られるようになり、「言語生得説」を打ち立てることになった。スキナーの「行動主義心理学」は、人間が言葉を使うようになるのは外からの刺激の反応であり、後天的な学習の結果であるという。

1950年に誕生したチョムスキーの理論は、今なお誤解され非難に晒されている。
人間はコミュニケーションをとるために言語が発達したのではない。人間の言語は、進化の過程で、脳にたまたま「普遍文法」という働きが備わった結果、思考やコミュニケーションに使われるようになったにすぎないのである。チョムスキーが進化論を否定したというのは誤解である。

チョムスキーについての批判で、途中で何度も理論が変わるというものがあるが、チョムスキーは最初から究極の言語理論を作ろうとしたのではなく、その出発点と方向性をまず示して、自らの理論の開拓を行ってきた。

著者は文法中枢が脳内に存在することを、fMRIを用いた実証実験によって明らかにしようとする。著者は自分が生きている間にどこまで真理に近づけるかわからないが、チョムスキニー理論を信じて一つ一つ石を積んでいくと決意を述べる。

行動分析学入門ー人の行動の思いがけない理由/杉山尚子/集英社新書/2005年

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