緋の河 桜木紫乃
オネエキャラのパイオニアであるカルーセル・麻紀の波乱の半生を描いた力作。著者は釧路の中学校の先輩であるカルーセルを敬愛していて、カルーセルの半生記を是非書かせて欲しいと申し出ると、カルーセルはできるだけ汚く書くように注文をつけたという。
緋の河 桜木 紫乃 新潮社 2019年 ✳︎9 |
秀男は男3人女ひとり兄姉の次男で、家は貧乏だった。美に対するこだわりが強く、女の子よりも可愛いといわれて育った。
迷い込んだ置屋で、秀男は女郎の華代に女になりたいといって、美しい女なぞこの世にいないとたしなめられる。「この世にないものにおなり」という華代のひとことが、その後の秀男を導く言葉になる。
女郎になりたいといって父親に殴られたのは小学校に上がる前だ。
小学校に上がると、女の「なりかけ」というあだ名をつけられた。秀男には自分がこうして嫌な目に遭うのは、小汚い餓鬼どもとは違うものを持ってるせいだという自信があった。
秀男が3年生になると、家の中では誰も秀男の女言葉に文句を言わなくなった。
影であれこれ言われても秀男本人が自分の居場所を決めているので、誰もそこから動かしようがないというのが姉・章子の分析だ。
15歳の秀男は、貯金していた7万円を持って家出し、ススキノのバー「みや美」にたどり着く。チビで坊主頭だからマメコという源氏名をもらう。
2年で「みや美」を飛び出し、旭川、根室、帯広などのどの店もひと月かふた月で喧嘩をして店を辞めた。しかし、転んでただで起きる秀男ではなかった。
東京に出てキャバレーに身を寄せた秀男は、ストリップ・ショーを得意の出し物とするようになる。客からプレゼントされた巨大な白蛇を体に巻きつけてのスネーク・ストリップ・ショーは大受けであった。
なにごともパイオニアへの風当たりはきついが、頭の回転の速さと機関銃のような喋り、前向きで好奇心が旺盛で勝気で喧嘩っ早い、そんな性格の秀男はどこに行っても話題の中心にいる。そして、職場を変えるたびにパワーアップしていくのだ。
ゲイボーイの本場大阪にスカウトされ、スネーク・ストリップのマコという名で人気を博していく。
女性ホルモンを打ち始め乳房が膨らみ、やがて睾丸をちょん切った。そしてカーニバル・真子と名乗り、大阪ミュージックの舞台に立ち、マスコミに登場するようになるのだった。
帰省の場面は泣かせる。父親と長男は世間と同じように受け入れないのに対して、母親は「娘」として迎えてくれた。秀男の精神的な支えは、幼児の頃から温かい目で見守ってくれた姉・章子と母親であった。
緋の河/桜木紫乃/新潮社/2019年
ホテルローヤル/桜木紫乃/集英社/2013年(直木賞受賞作)
氷平線/桜木紫乃/文春文庫/2012年
硝子の葦/桜木紫乃/新潮社/2010年
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