生きているジャズ史 油井正一
本書は、ジャズ評論の草分け的存在の著者(1918年~1998年)が、『ミュージック・ライフ』誌に連載した「ジャズの背景」(1942年)、「生きているジャズ史」(1944年~1946年)の文章に加筆し訂正したもの。核心をつかんだ説得力のある「油井節」が展開される。
60年代、ジャズに心を奪われつつあったものの、その後ジャズに愛想を尽かした、あるいは、ついていけなくなった世代は団塊の世代である。マイルズ・デイビスは受け入れたものの、コルトレーンにはついていけなかった。ジャズに憧れつつ、距離をおかざるを得なくなった世代にとって、その理由を知るためにもってこいの本だ。
生きているジャズ史 油井 正一 立東舎文庫 2016年 |
ブギーウギー、デキシーランドにはじまり、ベニー・グッドマンのスウィングが生まれ、ゆき詰まったスウィング・ジャズが、チャーリー・パーカーのビ・バップの発生をうながした。ビ・バップのゆき過ぎた部分が調節されて、マイルズ・デイビスのクール・ジャズとなり、クールのゆき過ぎもまた矯正されて今日のモダン・ジャズに発展したというのが、1940年以降、約15年間のジャズの動きである。
「今日の創造は、明日のマンネリ」と常に変貌を求める音楽が、ジャズなのだ。楽譜から外れる、楽譜がない、というアナーキーな状況がジャズである。
「ファンキー」という言葉が誤解されている。ファンキーとはスラングで黒人くさいという意味、アーシー(earthy、土くさい)という意味もある。軽快だとか奇抜だとシャレたという意味はない。
フランス・ジャズ界の人気批評家アンドレ・オディールの著書『ジャズーその発展と本質』を紹介している。団塊の世代がジャズばなれした答えが書かれている。
青年のジャズに対する情熱は、音楽に対する真の愛情よりも、むしろ青年期特有の情熱の作用とみられる。いったん情熱がなくなると、すべては急速に崩れ去り、バトンは新しく情熱に襲われたより若い世代に受け継がれる。ジャズコンサートを訪れる客の年齢層がいつも同じなのは、この秘密による。なんとなく納得がいく。
「1967年のジャズに思う」というタイトルの項では、その頃にジャズ・ファンが急に増えた理由について、「数年まえエレキ・ギターにしびれ、フォーク・ブームに関心を寄せていた若い人たちが、ボサノバを仲介者として、ジャズの面白さを知ったからです」と週刊誌に答えている。この答えにはかなり自信があるという。
ジャズファンは総じて落語ファンでもあるというのは、核心を突いていると思う。→人気ブログランキング
『新書で入門 ジャズの歴史』相倉久人 新潮新書 2012年
『生きているジャズ史』油井正一立東舎文庫 2016年
『現代ジャズ解体新書 村上春樹とウィントン・マルサリス』中山康樹 廣済堂新書 2014年
『ジャズに生きた女たち』中川ヨウ 平凡社新書 2008年
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