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『ポップ1280』ジム・トンプソン

2001年度、『このミステリーがすごい!』1位に輝く作品の新装版。
人口(POP)がたった1280人の町、ポッツヴィルの保安官ニック・コーリーの独白でストーリーは進む。ニックは著しい心配性だと自分で語っていて、口うるさく性悪女の妻マイラとそのうすばかな弟レニーと暮らしている。ニックは自称モテる男で、愛人のローズとも元婚約者のエイミーとも付き合っている。
はじめ、ニックは能無しの保安官の印象だが、そのうちにずる賢く権謀術数に長けていることがわかってくる。
巻末には、トンプスンの評価のきっかけとなった、ジェフリー・オブライエンの『安物雑貨店のドストエフスキー』というタイトルの論文が掲載されている。


ポップ1280(新装版) (海外文庫)

ポップ1280
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ジム・トンプスン/三好基好
扶桑社ミステリー 2019年8月 ✳9
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とりあえず、ニックの心配事は町の売春宿に巣食うふたりのヒモだ。それと差し迫った保安官選挙には当選しなければ元も子もない。

ニックは、ポッツヴィルを出て郡庁所在地に向かう。保安官事務所で保安官と助手に会い、淫売宿のふたりのヒモについて相談する。
ポッツヴィルには売春婦が6人いて、その子たちは愛嬌があっていい子なんだが、ふたりのヒモが生意気な口を利き、いつ騒動を起こすかわからない。なんとか事が起きないように手を打ちたいと相談する。
相手に2倍返しをするのだと教えられる。
ニックは、その気になって、ふたりのヒモの腹を銃で撃ち、それまでの自分に対する無礼を顧みればしかたがないと考える。

検事に、相手候補に悪い噂があり町の連中なら誰でも知っているが、それを教えるわけにはいかないささやく。すると悪い噂が次々に生まれ、町中に広まる。検事の妻が誰かに話したのだ。その話が次々に悪い噂を生んで、ついに相手候補は極悪人とまでの噂になった。

その後はニックは愛人の夫を殺し、その罪を黒人になすりつける。対立候補を衆人の前で下卑た噂の釈明を求めて、完膚なきまでに評判を落とさせる。
保安官としての、仕事らしい仕事はしないで、聖書を都合よく解釈し、弱きをいじめ強きに逆らわず、邪魔者は策を弄して殺すことも厭わない。

そんな悪行が周りの人間の知るところになり、口が達者なニックは、あれこれ独善的な理屈を述べるが、もはや辻褄が合わなくなる。
闇の中に加速度を増して沈み込んでいく暗黒小説だ。読み終わるまで手放すことができない、そんな不思議な吸引力をもつ作品だ。

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