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2019年10月

『AI倫理 人工知能は「責任」を取れるのか』西垣 通 河島茂生

自動運転で事故が起きたら、誰が責任をとるのか。ドラバーはいない。自動運転車の使用者か設計者か。誰も責任をとらないこともありうる。AIに関して法的かつ倫理的な問題を解決する必要がある。

現在は、ロボット開発の第三次ブームとされ、このブームは2010年からはじまった。その特徴は、論理的な正確性を放棄したことにある。法律家も医者も、過去のデータから推察して判断している。とすれば、AIの出力する結論が「だいたい合っている」なら、十分に人間の代わりになるという考え方である。
その技術の中核は、「深層学習(Deep Learning)」と呼ばれるパターン認識システムである。


AI倫理 人工知能は「責任」をとれるのか (中公新書ラクレ)

中央公論新社 (2019-09-06) ✳︎9
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現時点では、簡単な文章ならば翻訳が可能であるが、外交文書などの複雑な文章を機械翻訳に委ねることはできない。言い換えれば、間違えるAIという前提にもとづき、誤りを生じたときの倫理的問題を解決しない限り、現在のAIは使い物にならない。

アイザック・アシモフのロボット三原則は、加害禁止、命令服従、自己防御である。この三原則は家電にも当てはまる。安全で便利で長持ちするという機械に求められる当たり前の特性に過ぎない。アシモフの三原則は、AI倫理を考察する上で頼りにならない。

では、AI倫理はどのような哲学理論を採用すればよいのか。
近代社会における倫理思想として、これまでは集団の公共的利益を重視する功利主義(ベンサム)と、個人の基本的権利を尊重する自由平等主義(カント)の二つが主流だった。そこへ個人的自由の最大化を目指す自由市場主義(リバタリアニズム)が支持を集めるようになった。
ベトナム戦争以降に米国社会で広まった「すべてを金で買える」というリバタリアンの価値の金銭還元主義に対する、モラリストからの強い反感を理論化したのが、マイケル・サンデルの共同体主義である。しかし近代的共同体主義には、それぞれの共同体で倫理の細目が異なるという根本的な弱点がある。

著者は自らの名をつけた「N-LUCモデル」を提唱する。
個人の人権尊重という自由主義的な制約関数のもとで社会(共同体)にとって効用関数の評価値を参照しつつ、功利主義的に社会規範を定める、というのが本書で提案するN-LUCモデルのアプローチである。
大切なのはAIはそこで、データの分析やシミュレーションなどに役立てられるが、擬似人格を持つAIエージェントとして参画することはないということである。

科学技術の発展により、人間をしのぐ知性を持つ存在が生まれるとする「トランス・ヒューマニズム(超人間主義)」は、昔ながらの思想の現代版であるという。
カーツワイルの提唱する「シンギュラリティ仮説」、ボストロムの「スーパーインテリジェンス」、ユヴァル・ハラリの「ホモ・デウス」などのトランス・ヒューマニズムに関する主張を、著者たちはSFの一種に過ぎないとする。SFをもとにAI倫理を論じても無駄であると切り捨てる。

著者らは、AIが自律性をもたない他律系であることを強調する。生物と異なり、自らその作動ルールを内部で作り上げているわけではない。基本的にはコンピュータは指示通りに作動しているだけである。したがって、道徳的な主体とは無縁であり、AIに自由意志があるとか責任を求めようとするのは誤りであるとする。

『メインテーマは殺人』アンソニー・ホロヴィッツ

人気ジュベナイル小説家のホロヴィッツは、コナンドイル財団から公式に認定を受けて、シャーロック・ホームズを主人公にした長編小説『絹の家』を書き上げたばかりであるという、現実のホロヴィッツそのままの設定である。
現実とフィクションが混ざりあって物語は進む。

ホロヴィッツがホーソーンのアドバイスでテレビドラマの脚本を書いた縁で、ホーソーンが捜査する殺人事件を、小説に書いてみないかと持ちかけられる。ただし原稿料はホーソーンとホロヴィッツが折半という、奇妙な条件である。ホーソーンはロンドン警察を退職して、今はロンドン警察から捜査の助言を求められてるという。
まるで、ホーソーンがシャーロック・ホームズで、ホロヴィッツがワトソンのようだ、というのが前置き。


メインテーマは殺人 (創元推理文庫)
メインテーマは殺人

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アンソニー・ホロヴィッツ/山田 蘭
創元社推理文庫 2019年9月 ✳︎10
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ふたつの殺人事件の犯人を突き止めるフーダニットものである。
ダイアナ・クーパー未亡人は、自らの葬式の手配を葬儀屋に注文した。その数時間後に、首を絞められて殺害された。夫人の愛猫が行方不明になっている。
メイドには2度の逮捕歴がある。
夫人の息子・人気俳優のダミアンは米国のテレビドラマの主人公を射止めたばかりだ。

10年前、クーパー夫人はゴルフの帰りに眼鏡をかけないで車を運転し、8歳の双子を轢いてしまい、轢き逃げした。ひとりは即死、もうひとりは脳に重い障害を残した。しかし裁判で夫人は罪には問われなかった。
死の直前に、クーパー夫人がダミアンに送ったメッセージは「損傷の子に会って、怖い」であった。

もうひとつの事件は、葬式の場面で奇妙な出来事が引き金となった。
棺にMP3再生機能付き目覚まし時計が仕掛けられていて歌が流れた。それは聞いたダミアンは、葬式の現場から逃げるように、ひとりでアパートに帰った。そこを犯人が襲い、ダミアンは切り刻まれて殺された。

ソーホーンとホロヴィッツは、登場人物に詳細な事情聴取を行ない、事件の焦点が少しずつ絞られていく。
本書の出版を手がける出版社の担当者が登場して、タイトルをどうするかについてホロヴィッツとやりとりする。そうした場面で、読者はフィクションの世界から現実に連れ戻されるような不思議な感覚に陥る。立ち止まって物語を振り返るような感覚である。
仕掛けは細部にわたり縦横に張り巡らされているが、読者を惑わすようなことはなく正々堂々と話は運ばれていく。著者の才能に拍手を送りたい。

メインテーマは殺人/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭 創元社推理文庫 2019年
007 逆襲のトリガー/アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子/角川文庫/2019年
カササギ殺人事件/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元推理文庫/2018年

 

『読書会入門 人が本で交わる場所』山本多津也

最近、読書会がブームだという。
著者は、2006年、仲間4人で読書会をはじめた。最初に選んだ課題本はカーネギーの『人を動かす』。それまでに受講した経営セミナーでは味わったことのない充足感と高揚感に包まれ、インプットだけでなくアウトプットすることの効果を実感したという。
以後、月に1回、定期的に開催している。ミクシーでコミュニティを立ち上げると参加者が増え、2年で会員数は1000人を超すようになった。


読書会入門 人が本で交わる場所 (幻冬舎新書)

山本 多津也 (Yamamoto Tatsuya
幻冬社新書 2019年9月
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「猫町倶楽部」と名付け、その分科会として映画を語る「シネマテーブル」、美術や音楽芸術一般を扱う「藝術部」、性愛をテーマとする「猫町アンダーグラウンド」、哲学を扱う「フィロソフィア」を立ち上げた。
仮面を付けたり浴衣を着たりのドレスコードを課したり、ゲストを呼んだり、温泉旅行に出かけたりした。
そうした参加者を集めるため努力が実り、今や1年間の参加人数は約9000人、年間イベント回数は200回の巨大読書会コミュニティになった。
猫町倶楽部ではすでに60組のカップルが結婚しているという。

読書会は課題本型を採用している。参加者6~8人で一つのグループを作り、司会役としてファシリテーターを選ぶ。参加者1人ずつに自己紹介と作品の気になったことを話してもらう。1度の読書会で1時間半~2時間をかける。

課題本は、極力、古典や名著を選ぶ。もう一つは、脳が汗書く本、自分だけでは読み終えることが難しい本を、選書することにしているという。基本的に、ベストセラーやエンタメ小説が課題本になることはない。

参加者は参加費と懇親会費を払い、ゲストを呼ぶ場合は料金が上乗せされる受益者負担。ただし、運営はすべてボランティアが行い、3回以上会に出席した経験がある人をサポーターと呼び、その中からボランティアを募る。
会運営の方針は、合議制にせず、テーマは著者がすべて決める。会則を明文化しない。来る者は拒まず、会員の囲い込みをしない。
参加者に課せられることは、他人を批判しない。もうひとつ、ネットで議論しない。ネットでは議論が苛烈になり過ぎる。

読書会入門 人が本で交わる場所/山本多津也 /幻冬社新書 /2019年9月
翼を持つ少女 BISビブリオバトル部 上下/山本弘/創元SF文庫/2016年
猫町倶楽部のサイト

『がん検診は、線虫のしごと 精度は9割「生物診断」が命を救う』広津崇亮

線虫によるがん検査が2020年1月から実用化される。線虫にはカイチュウやギョウチュウやアニサキスが含まれ、地球上に1億種いるという。検査に使われる線虫は体長がたった1mmのシー・エレガンス(C.elegans)である。シー・エレガンスは雌雄同体で、生まれてくるのはクローンだから遺伝的な個体差がなく、凍結保存しておくと10年先20年先でも生き返る。


がん検診は、線虫のしごと 精度は9割「生物診断」が命を救う (光文社新書)

広津崇亮(Hirotsu Takaaki
光文社新書 ✳10
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シャーレに健常者の尿をたらすとシー・エレガンスは尿を避けるが、がん患者の尿には寄っていく。ほぼ全身のがんを調べることができる。ステージ0〜1の早期がんも、9割の確率で検知できるという驚異の精度である。しかも尿1滴で検査が可能である。

著者は20年間に及ぶ線虫研究から、線虫にがんの分泌物質を嗅ぎ分ける能力があることを発見した。犬にがんの匂いを嗅ぎ分けられるなら線虫にも嗅ぎ分けられるはずだと思ったことがきっかけだという。
2015年、九州大学の助教だった著者は、線虫がん検査「N-NOSE」を実用化するため、大学を辞めベンチャー企業の実業家に転身した。

従来のがん検診は、時間がかかる、苦痛を伴う、場合によっては危険を伴うこともある、ニ次スクリーニング検査や精密検査しかなかった。心身の負担が大きく、自覚症状のない段階で受ける気にはなれないような検査だ。

「N-NOSE」は、「簡便・高精度・安価・早期発見が可能・苦痛がない・全身網羅的」という一次がん検診の理想的な条件を備えもつ。検査率が低迷する日本のがん検診に、風穴をあける画期的な検査法である。

著者の目は日本だけに向けられているわけではない。実用化の7年後の2027年には日本国内6000万人、東アジアと東南アジアで2億人、インドで1億人、北米で1億5千万人、合計8億1千万人に、「N-NOSE」が普及することを目指している。さらに、がん以外の疾病の早期発見の可能性を追求している。

線虫がん検査の開発にまつわる話だけでなく、起業してからの経緯にも惹きつけられる。起業を目指す若い人たちに示唆に富むアドバイスが書かれている。進取の気性をもつ著者の力強いエネルギーが感じられる。

がん検診は、線虫のしごと 精度は9割「生物診断」が命を救う/広津崇亮/光文社新書/2019年
ビタミンDとケトン食 最強のがん治療/古川健司/光文社新書/2019年
がん免疫療法とはなにか/本庶 佑/岩波新書/2019年
がん光免疫治療の登場/永山悦子 小林久隆(協力) /青灯社/2017年
がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か/NHKスペシャル取材班/NHK出版新書/2017年
ケトン食ががんを消す/古川健司/光文社新書/2016年
がん‐4000年の歴史-上下/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016年
がん幹細胞の謎にせまる/山崎裕人/ちくま新書/2015年

『ケトン食ががんを消す』古川健司

極端な糖質制限による、がん細胞の「兵糧攻め」がケトン食である。
がん細胞が栄養源としているのは、主にブドウ糖(グルコース)である。それも、正常細胞よりも3〜8倍ものブドウ糖を取り入れなければならない。
一方、正常細胞は、ブドウ糖の供給が途絶えても、緊急用のエネルギーを皮下脂肪からのケトン体でまかなうことができる。
著者は、がんに対する食による治療が長年軽視されてきたと力説する。


ケトン食ががんを消す (光文社新書)

ケトン食ががんを消す
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古川 健司
光文社新書 2016年
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がん細胞のエネルギー産生は、細胞質内に酸素がない状態で糖を分解し乳酸を放出する効率の悪い「嫌気性解糖」が行われている。このエネルギー産生経路では、ブドウ糖1分子あたり2分子のATPを作るだけ(正常細胞が1分子のブドウ糖で36分子のATPを作る) 。がん細胞は十分な酸素存在下でも、嫌気的な糖利用を行う。

がん細胞にはケトン体をエネルギーに変える酵素がない。がん患者の糖質摂取量を極端に少なくすることで、がん細胞の分裂が抑制され、がんを縮小、場合によっては死滅させることも可能になる。

ケトン体のアセト酢酸とβ-ヒドロキシン酪酸の増加で、血液や体液の濃度が酸性になった場合をケトアシドーシスという。糖質制限で、医師たちが懸念するのはこのケトアシドーシスである。これは1型糖尿病に多くみられ、嘔吐や頭痛、頻脈、意識障害や昏睡を引き起こす。
インシュリンが正常である限り、ケトン体がいくら増えてもケトアシドーシスには陥らない。

胎児はケトン体で生きている。胎児のケトン体量は1600μmol/L以上ある。がんの細胞分裂のスピードは、胎児の細胞分裂のそれに匹敵するといわれる。たとえ胎児の遺伝子にコピーミスがあっても、ケトン体と低血糖ががん化を抑制していると考えられる。ケトン体1600μmol/L以上が、がん細胞が正常細胞へリセットされる目安になるにではないか。
総ケトン体指数が一定以上の数値まで上昇すると、なんらかのがん抑制遺伝子のスイッチ入り、がんが縮小するのではないかと著者は考える。

「免疫栄養ケトン食」によるがん治療は、ケトン食+EPA(エイコサペンタエン酸)+タンパク質の組み合わせである。
【セミケトジェニック免疫栄養療法 】糖質摂取量80g以下(主食は通常食の1/3、野菜などから糖質を摂るほうが望ましい):がん予防、がん再発予防の食事療法で、がん治療ではない。
【ケトジェニック免疫栄養療法】40g以下:がん治療の維持療法である。
【スーパーケトジェニック免疫栄養療法】20g 以下(95%カット)が治療食である。

「膵癌の末期患者に著効したスタチン製剤と牛蒡子(ごぼうし・牛蒡の種)」
ケトン体をエネルギー源にするがん細胞も現れる。コレステロール血症の治療薬であるスタチン製剤には、糖質耐性を持ったがん細胞が乳酸やケトン体を栄養にすることをブロックする働きがある。
牛蒡子に含まれるアルクチゲニンには、膵臓癌に対し強い抗腫瘍性の作用があることが、国立がんセンターの研究によって明らかにされているという。
TS-1の治療を受けるも、余命1ヶ月の宣告を受けた膵癌の末期患者に、スタチン製剤を処方し、サプリメントとして牛蒡子を摂取するよう勧めたところ、腹水が消え著効を示したという。

ビタミンDとケトン食 最強のがん治療/古川健司/光文社新書/2019年
がん免疫療法とはなにか/本庶 佑/岩波新書/2019年
がん光免疫治療の登場/永山悦子 小林久隆(協力) /青灯社/2017年
がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か/NHKスペシャル取材班/NHK出版新書/2017年
ケトン食ががんを消す/古川健司/光文社新書/2016年
がん‐4000年の歴史-上下/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016年
がん幹細胞の謎にせまる/山崎裕人/ちくま新書/2015年

『ビタミンDとケトン食 最強のがん治療』古川健司

本書に記載されていることがこの通りだとすれば、非活性型ビタミンDの多量摂取はがん治療の補助療法として大いに推奨される。

日本人女性のビタミンD不足は顕著であり、世界的にも現代人はビタミンDが不足がちだという。著者が勤務する病院の看護師50名のビタミンD濃度を計測したところ、正常値は1人もおらず、3人が不足、47人が欠乏症という惨憺たる結果だったという。
ちなみに、「ビタミンD充足状態」30μg以上、「不足」20〜29.9、「欠乏」20.0未満である。


ビタミンDとケトン食 最強のがん治療 (光文社新書)

光文社新書 2019年 ✳︎10
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がん患者のビタミンD濃度は、統計学的に有意に低値であるとするデーターが示される。がん細胞に暴走を許している大きな要因が、ビタミンDの欠乏であるとする。
また、ビタミンDが高い場合がんにかかりにくいというデータが示される。

では、ビタミンDががん治療に効く働きとはどのようなものか。
1)がん細胞の増殖の抑制。
2)がん細胞のアポトーシスの促進。(アポトーシスとは体内に組み込まれているプログラムされた細胞死)
3)がん細胞の血管新生の抑制
4)オートファジーの抑制。(オートファジーとは、細胞それ自体が細胞内の異常なタンパク質を分解し、リサイクルする働き。生存のための「自食」とも呼ばれる)

大腸がんはビタミンDが最も強力に作用するがんの一つであることが、諸外国の報告で明らかにされている。ビタミンDの血中濃度が、大腸がんや乳がんをはじめとする多くのがんの発生やその抑制に関わっていることが、多数の研究から明らかになっている。

著者は、がん治療では、1日に最低でもビタミンDを50μg、症状によっては100〜150μgのビタミンDを摂取する必要があると結論づけた。ただし、摂取するのは非活性型ビタミンD(サプリメント)である。
非活性型ビタミンDは肝臓に一旦蓄えられ、必要に応じて腎臓で活性化される。医師が処方する活性型ビタミンDは、副甲状腺ホルモンのコントロールを受けないため、高カルシウム血症や腎障害などの副作用がある。非活性型は副甲状腺ホルモンやカルシウム濃度によってコントロールされているため安全性が高い。

様々な病気に関与するビタミンD。
がん、心・血管疾患(不整脈、心筋梗塞、虚血性心疾患、動脈硬化、大動脈瘤)。生活習慣病(2型糖尿病)、高血圧、脂質異常症など)。自己免疫疾患(関節リウマチ、アトピーや花粉症などのアレルギー、1型糖尿病、甲状腺機能障害など)。感染症(インフルエンザ、肺炎など)。精神疾患(うつ病など)。

巻末のケース・スタディでは、「ビタミンD 免疫栄養ケトン食」で治療を行った末期がん患者の驚異的な回復ぶりが記載されている。がん腫が消え寛解に至ったケースも何例かある。ケトン食が受け入れられないケースでは、ビタミンDだけでも著しい効果があがっている。

ビタミンDとケトン食 最強のがん治療/古川健司/光文社新書/2019年
がん免疫療法とはなにか/本庶 佑/岩波新書/2019年
がん光免疫治療の登場/永山悦子 小林久隆(協力) /青灯社/2017年
がん治療革命の衝撃 プレシジョン・メディシンとは何か/NHKスペシャル取材班/NHK出版新書/2017年
ケトン食ががんを消す/古川健司/光文社新書/2016年
がん‐4000年の歴史-上下/シッダールタ・ムカジー/早川NF文庫/2016年
がん幹細胞の謎にせまる/山崎裕人/ちくま新書/2015年

『渇きと偽り』ジェイン・ハーパー

猛暑に見舞われるオーストラリアの田舎町で起きたショットガンによる一家心中事件と、20年前に起こった少女の自殺の真相が解明される。小細工のないストーリー展開に引き込まれる。卓絶な筆力に拍手を送りたい。
2017年、ゴールド・ダガー賞(英国推理作家協会賞)受賞作。

メルボルンから500キロ離れた田舎町のキエワラは100年に一度の干ばつに襲われている。住民たちはほとんど限界に達している。
主人公のアーロン ・フォークはメルボルンの財務情報局に所属する連邦警察官である。幼馴染のルークがショットガンで一家心中したと報じられる。
ルークの父親から、葬式の出席を促す手紙がアーロンに届く。そこには「ルークは嘘をついた。きみも嘘をついた。葬式で会おう」と書かれていた。この言葉は物語の最後まで、とれないトゲのようにアーロンを苦しめる。


渇きと偽り (ハヤカワ・ミステリ文庫)

渇きと偽り
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ジェイン・ハーパー/青木創
ハヤカワ・ミステリ文庫
2018年 ✳10

20年前、同じ高校に通うアーロンとルーク、エリーとグレッチェンは行動を共にする間柄だった。ある日、エリーが川の底に沈んで死んでいるのが発見された。アーロンとルークは警察の事情聴取に、兎撃ちをして一緒にいたと口裏を合わせた。アーロンは川の下流で釣りをしていたのだ。
町を暴力で支配するエリーの父親マル・ディーゴンは、父子家庭のアーロンと父親に嫌がらせを繰り返した。アーロンと父親は町に居づらくなりメルボルンに引っ越さざるを得なかった。

20年ぶりに、葬式でアーロンはグレッチェンに会い、町の近況を教えてもらう。葬式が終わったらすぐに帰るつもりだったが、ルークの死に疑問を抱く。
アーロンはレイコー巡査部長とともに非公式な操作をはじめ、住民から情報を得ようとする。
しかし、町の嫌われ者・アルと甥グラウト・ダウの嫌がらせが執拗に繰り返されるが、アーロンは引き下がらない。

灼熱地獄が続くなか、アーロンたちに対し住民がいつ牙を向くかもしれないと、グレッチェンは警告する。それほど、キエワラの町は飽和点に達しているのだ。
そんななか、アーロンはふとしたことから、ルーク事件の真犯人が思い浮かぶ。

『ジャズの歴史』相倉久人

本書のキーワードは「クレオール」である。
クレオールとは、もともとはカリブ海の島々生まれのスペイン人や、ルイジアナ生まれのフランス人を指す言葉だった。その後アメリカ南部で白人と黒人と混血をいうようになり、その用法が定着した。

ジャズは1900年前後にニューオリンズで生まれた。黒人の持っていた音楽的センスと、かれらの主人であったスペイン人やフランス人がよく歌った民謡やダンス音楽の融合により生まれた。
ニューオリンズの歓楽街・ストーリーヴィルは隆盛を極め、多くの楽士たちが活躍した。
しかし、1917年、アメリカが世界大戦に参戦すると、軍によりストーリーヴィルの閉鎖が命じられ、ジャズメンたちは北上し、ジャズの中心はシカゴに移った。
1920年に禁酒法が施行されると、アル・カポネに支配されたシカゴでジャズは盛んに演奏された。1930年代に入るとアル・カポネが落ち目となり、禁酒法を無視して隆盛を極めるペンダーガストが支配するカンザス・シティにジャズマンたちは集まっていった。1937年に、ペンダーガストが脱税で刑務所に収監されると、カンザスはさびれ、ミュージシャンたちはニューヨークに流れていった。


―新書で入門―ジャズの歴史(新潮新書)

相倉久人
新潮新書 2012年 ✳9

シカゴには、サミー・デイヴィス・ジュニアがいた。白人のグループにはベニー・グッドマンが育ってきた。ニューヨークではデューク・エリントンが大楽団を形成した。
1934年、ナビスコをスポンサーとして、ラジオ番組「レッツ・ダンス」がベニー・グッドマンのオーケストラ演奏のテーマ曲によって全米向けに放送を開始した。スウィング時代のはじまりである。

カンザス・シティにはカウントベイシー・オーケストラが隆盛する。
ミントンズ・プレイ・ハウス(ニューヨーク)では専属バンドをおいて、あとは飛び入り自由というジャムセッション方式をウリとした。アルトサックスのチャーリー・パーカー、ピアノのセロニアス・モンク、トランペットのディジー・ガレスビーもここの常連だった。
ガレスビー、パーカーを急先鋒として疾走するその音楽は、バップと呼ばれた。

それまでの踊れるスウィングから、踊ろうにも踊れない小難しくてやたらテンポの早いバップ、踊る音楽から聴く音楽に変わった。
ガレスピー、パーカー、マイルス・デイヴィス、アート・ブレイキー、女性ボーカルのサラヴォーン、その後のモダンジャズの歩みに貢献した大物が何人も名を連ねている。

ロサンジェルス近郊を中心に50年代前半から中期にかけて西海岸一帯を賑あわせたのはウェストコースト・ジャズである。ハリウッドでサントラの仕事に就きやすいのは、白人だった。マイルスのクールジャズに比べてどこかポップな感じがした。クールというのはヴィブラートをつけない吹き方をいう。

一方、ニューヨークでのジャズはイースト・コースト・ジャズと呼ばれたり、ハードバップと呼ばれたりした。ハードバップが隆盛していく政治背景として、朝鮮戦争があった。1955年、チャーリー・パーカーが亡くなり、ある意味、ミュージシャンを束縛から解き放った。

50年代はモダンジャズの黄金期である。ハードバップの古典的名作の多くがこの時期に集中している。ジャズが世界的な広がりをみせた。1950年代から日本でもジャズ人気は上昇の一途をたどっていった。

コンサートの隆盛でファン層を拡大したハードバップは、教会調のゴスペルやワークソングといった黒人音楽と連携を深めていく。アート・ブレーキーらに代表されるそのスタイルはファンキー・ジャズと呼ばれるようになる。ファンキーとは泥まみれの労働で疲れ果てた黒人の臭いと関係のある表現である。

マイルスはアドリブで映画「死刑台のエレベーター」のBGMを吹いた。50年代を通して、シネ・ジャズが盛んに作られたジャズの人気が世界的なブームになった。

マイルスのモード奏法が、コルトレーン型フリー・ジャズの道を開くことになる。コルトレーンは、もっと自由で、モードに基づき、アフリカ的で東洋的で、西洋的要素の少ないものにしようと思った。アフリカ的なものと西洋的なものが産んだクレオール文化である。

60年代は、コルトレーンのフリー・ジャズの時代である。感性の爆発を伴わない持続が、聞き手をある種のトランス状態に導く。演奏時間は長くなり30分・1時間を超えるようになる。求道者として何かを追い求める気持ちと敬虔な祈りの姿勢が表裏一体となて霊の世界へ昇華する。

60年代、日本は、アート・ブレイキー・ジャズ・メッセンジャーのアルバム「モーニン」と、抱っこちゃん人形に象徴される「ファンキー・ブーム」であった。
1967年、コルトレーンが肝臓がんで亡くなると、フリー・ジャズは急に影が薄くなり、60年代に終焉を向かえた。

70年代に入ると、アメリカでのジャズの衰退をよそに、ヨーロッパの〈フリー・インプロヴィゼーション・ミュージック〉は、アメリカの〈フリー・ジャズ〉に比べるとそれほど人種問題を意識する必要も必然性もない。
モダン・ジャズ(バップからエレキトリック・マイルスの手前まで)神話の崩壊から10数年、ジャズの歴史そのものを失う危機に瀕した。

そんななか、ふたつの動きが出てきた、トランペットのウィントン・マルサリス提唱した新伝承派、ジャズをクラシックと並ぶ芸術音楽の本流に位置づけようとした。しかし教養主義的な上昇志向が災いしたのか、ブラック系ミュージシャンの共感がえられず不発に終わった。
スウィングやハード・バップ・リヴァイバルのような動きがあってそれはそそれでナツメロ企画として一定の成果をあげていた。

新書で入門 ジャズの歴史』相倉久人 新潮新書 2012年
生きているジャズ史』油井正一立東舎文庫 2016年
現代ジャズ解体新書 村上春樹とウィントン・マルサリス』中山康樹 廣済堂新書 2014年
ジャズに生きた女たち』中川ヨウ 平凡社新書 2008年