メインテーマは殺人 アンソニー・ホロヴィッツ
人気ジュベナイル小説家のホロヴィッツは、コナンドイル財団から公式に認定を受けて、シャーロック・ホームズを主人公にした長編小説『絹の家』を書き上げたばかりであるという、現実のホロヴィッツそのままの設定である。
現実とフィクションが混ざりあって物語は進む。
ホロヴィッツがホーソーンのアドバイスでテレビドラマの脚本を書いた縁で、ホーソーンが捜査する殺人事件を、小説に書いてみないかと持ちかけられる。ただし原稿料はホーソーンとホロヴィッツが折半という、奇妙な条件である。ホーソーンはロンドン警察を退職して、今はロンドン警察から捜査の助言を求められてるという。
まるで、ホーソーンがシャーロック・ホームズで、ホロヴィッツがワトソンのようだ、というのが前置き。
メインテーマは殺人 アンソニー・ホロヴィッツ/山田 蘭 創元社推理文庫 2019年 |
ふたつの殺人事件の犯人を突き止めるフーダニットものである。
ダイアナ・クーパー未亡人は、自らの葬式の手配を葬儀屋に注文した。その数時間後に、首を絞められて殺害された。夫人の愛猫が行方不明になっている。
メイドには2度の逮捕歴がある。
夫人の息子・人気俳優のダミアンは米国のテレビドラマの主人公を射止めたばかりだ。
10年前、クーパー夫人はゴルフの帰りに眼鏡をかけないで車を運転し、8歳の双子を轢いてしまい、轢き逃げした。ひとりは即死、もうひとりは脳に重い障害を残した。しかし裁判で夫人は罪には問われなかった。
死の直前に、クーパー夫人がダミアンに送ったメッセージは「損傷の子に会って、怖い」であった。
もうひとつの事件は、葬式の場面で奇妙な出来事が引き金となった。
棺にMP3再生機能付き目覚まし時計が仕掛けられていて歌が流れた。それは聞いたダミアンは、葬式の現場から逃げるように、ひとりでアパートに帰った。そこを犯人が襲い、ダミアンは切り刻まれて殺された。
ソーホーンとホロヴィッツは、登場人物に詳細な事情聴取を行ない、事件の焦点が少しずつ絞られていく。
本書の出版を手がける出版社の担当者が登場して、タイトルをどうするかについてホロヴィッツとやりとりする。そうした場面で、読者はフィクションの世界から現実に連れ戻されるような不思議な感覚に陥る。立ち止まって物語を振り返るような感覚である。
仕掛けは細部にわたり縦横に張り巡らされているが、読者を惑わすようなことはなく正々堂々と話は運ばれていく。著者の才能に拍手を送りたい。→人気ブログランキング
その裁きは死/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭/創元社文庫/2020年
メインテーマは殺人/アンソニー・ホロヴィッツ/山田蘭 創元社推理文庫 2019年
007 逆襲のトリガー/アンソニー・ホロヴィッツ/駒月雅子/角川文庫/2019年
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