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2019年11月11日 (月)

試験に出る哲学 「センター試験」で西洋思想に入門する 斎藤哲也

哲学の入門書は数多ある。先生と生徒の対話であったり、子どもや擬人化された猫が登場したり、大阪弁だったり、イラストがふんだんに使われていたり、漫画であったりと、とっつきにくく理解に努力を要する哲学だから、工夫されている。
本書はセンター試験の「倫理」で出題された20の問題を取り上げ、西洋哲学のあらましを解説する。試験問題は熟読しなければ、正解に到達できない。理解するためには、2回、3回と読むこともある。選択肢に示された文章がそれぞれの思想のエッセンスであることもあり、思想の微妙な違いが頭に入るというわけだ。著者はいいところに目をつけた。
Image_20201115205701試験に出る哲学―「センター試験」で西洋思想に入門する
斎藤 哲也 (Saito Tetsuya
NHK出版新書 2018年

では、実際の問題はどうなっているのか。

問13:カントは、人格は何よりも尊重すべきものであるという考えを定言命法の形で次のように表現した。この命法の最も適当なものを、1)~4)のうちから一つ選べ。

汝の人格および他のあらゆる人の人格のうちにある人間性を、いつも同時に目的として扱い、決して単に手段としてのみ扱わないように行為せよ。(カント『道徳形而上原論』)

1)子どものいるにぎやかな家庭を築こうとして結婚することは、夫は妻を、妻は夫を出産の手段とみなすことにつながる。互いに尊重し合っていたとしても、こうした意図による結婚は決してすべきではない。
2)ボランティア活動であっても、有名人による施設訪問には、施設の子どもや老人を自己宣伝の手段にするという側面がある。子どもや老人を大切にする姿勢が伴っていなければ、こうした訪問活動は決して行うべきではない。
3)参考書を買うためであっても、親にお金をねだるのは、親を目的のための手段とすることにほかならないから、決してしてはいけない。アルバイトをしてお金を貯め、必要なものは自分で購入すべきである。
4)将来の就職を考えて大学を受験するのは、自分や家族の利益のために自分自身を手段として利用する行為といえる。自分の教養を高めるという純粋な動機にのみ基づくのでなければ、決して大学に行くべきではない。

【解答と解説】カントの定言命法は、「自分や他人を単に手段としてのみ扱わないように行為せよ」と言っているのであって、手段の要素を一切禁じるものではない。この点に注意して選択肢を見ていくと、1)は「互いに尊重し合って」いるから定言命法から逸脱していない。したがって、「こうした意図による結婚は決してすべきではない」とは言えないので誤り。2)は、ボランティア活動の自己宣伝の手段のためだけに行ってはいけないという趣旨なので、定言命法にあてはまる。3)は、親にお金をねだることに手段の側面があっても、そこに親への敬意や感謝があるならば、定言命法の範疇に入るから誤り。4)も、手段として行動することを一切禁じたものとして解釈している点が誤り。

次は、実存主義に関する問題。

問題19:「実存を」を重視した思想家にキルケゴールとサルトルがいる。二人の思想の記述として最も適当なものを、次の1)~5)のうちからそれぞれ一つずつ選べ。

1)日常的な道具は使用目的があらかじめ定められており、本質が現実の存在に先立っているが、現実の存在が本質に先立つ人間は、自らつくるところ以外の何ものでもないと考えた。
2)宇宙はそれ以上分割できない究極的要素から構成されているが、この要素は非物体的なもので、それら無数の要素が神の摂理のもとであらかじめ調和していると主張した。
3)生命は神に通じる神秘的なものであるから、人間を含むすべての生命に対して愛と畏敬の念を持つべきであり、そのことによって倫理の根本原理が与えられると考えーた。
4)人が罪を赦され、神によって正しい者と認められるには、外面的善行は不要であり、聖書に書かれた神の言葉を導きとする、内面的な信仰のみが必要だと主張した。
5)誰にとっても成り立つような普遍的で客観的な真理ではなく、自分にとっての真理、すなわち自らがそのために生き、また死にたいと願うような主体的真理を追求した。

【解答と解説】正解は、サルトルが1)キルケゴールが5)、2)はライプニッツの「モナド論」、3)はシュヴァイツァーの「生命への畏敬」という概念を説明したもの、4)は宗教改革を唱えたルターの思想である。

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コメント

 ≪…ライプニッツの「モナド論」…≫的に、数の言葉ヒフミヨ(1234)からの送りモノとして、数学の基となる自然数を眺めると「数のヴィジョン」になるとか・・・

 

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