『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』水島治郎
ラテンアメリカの国々やヨーロッパ各国を席巻し、ついにはトランプをアメリカ大統領に押し上げてしまったポピュリズムとは何か。本書では、ポピュリズムを「人民の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」と定義している。
ポピュリズムの特徴は、「主張の中心は人民」「人民重視の裏返しとしてエリート批判」「カリスマリーダーの存在」、もうひとつ「イデオロギーの薄さ」である。ポピュリズムは具体的な政策内容で特徴づけることはできないという。
ラテンアメリカでポピュリズムが席巻したのは、社会経済上の圧倒的な不平等が理由である。1930年以降、大地主や鉱山主などの寡頭支配に対抗し、中間層や労働者、農民など多様な支持層を背景にポピュリズム政党が躍進した。
〈デモクラシーが固定していないラテンアメリカのポピュリズムの場合には、権力を濫用しデモクラシーの妨げとなった。〉
現在、なぜ西ヨーロッパでポピュリズムが広がっているのか。
2015年、ヨーロッパでイスラム過激派のテロ事件が続発した。この機会をとらえて、反イスラムの旗を掲げて支持を集めているのがヨーロッパのポピュリズム政党である。
当初は極右だったポピュリズム政党が転向し、グローバル化やEU統合に反対し、エリート批判と移民排除を進めようとしている。移民や難民、外国人を福祉の乱用者と位置づけ福祉排除の考え方を打ち出す。
EU離脱をめぐるイギリスの国民投票では、「置き去りにされた」人びと、2016年のアメリカ大統領選挙では、「ラストベルト(旧工業地帯)」の人びとがクローズアップされた。二つの共通性が注目され、勝利を収めた経過も似ている。
デモクラシーから生まれたポピュリズムであるのに、なぜデモクラシーと正反対の解釈が成り立つのか。
その訳は、デモクラシーの背景には「立憲主義的解釈」と「ポピュリズム的解釈」がある。「立憲主義的解釈」は、法の支配、個人の自由の尊重、議会制などを通じた権力抑制を重視する立場であり、「自由主義」的な解釈といえる。「ポピュリズム的解釈」は、人民の意思の実現を重視し、統治者と被治者の一致、直接民主主義の導入など、「民主主義」的要素を前面に出す。
ポピュリズムは、デモクラシーを民主化することで重要な意義を持つが、他方デモクラシーの発展を阻害する。多数は原則を重視するあまり少数意見が無視される。敵味方を峻別する傾向が強いから対立を生みやすい。非政治的機関の権限を制約しがちなどのマイナスの要素がある。
野党としてのポピュリズム政党は、既成政党に緊張感を与えることでデモクラシーの質を高める。デモクラシーの固定していない国でポピュリズム政党が政権を握ると、デモクラシーの脅威となる。一方、デモクラシーが固定した国の場合はポピュリズム政党が与党になった場合でも、デモクラシーの危機に陥るとはいえない。
ポピュリズムは「ディナー・パーティの泥酔客」のような存在だという。上品なディナー・パーティに現れて、なりふり構わず振る舞う。ずかずかとタブーに踏み込んで隠された欺瞞を暴く。実にうまい比喩だ。
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