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2019年12月

『くノ一忍法帖』山田風太郎

徳川家康が溺愛する孫の千姫は、家康によって滅ぼされた豊臣秀頼に嫁いでいた。
真田幸村の秘策により、瀕死の秀頼の胤を、忍術を遣い身篭った女が千姫の5人の侍女の中にいると、伊賀忍者・服部半蔵が家康に報告する。
家康が千姫本人に問いただすと、侍女たちに子を産ませて徳川一族を呪うという。腰元30人を皆殺しにすると家康が脅すと、その時は千姫も自害するという。こうして家康と千姫は敵対することになった。


くノ一忍法帖 山田風太郎忍法帖(5) (講談社文庫)

くノ一忍法帖
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山田風太郎
講談社文庫 1999年 ✳︎9
売り上げランキング: 210,754

家康の命令は、「胤を宿した侍女を千姫に疑惑を抱かれずに命を奪え」というもの。
服部半蔵は5人の伊賀忍者を手配した。5人の侍女は、くノ一である。

くノ一が繰り出す忍法は、「月の輪」「筒涸らし」「天女貝」「夢幻泡影」「幻菩薩」「やどかり」「羅生門」。
一方の伊賀鍔隠れ5人衆も負けてはいない。「くノ一化粧」「恋しぐれ」「日影月影」「穴ひらき」「恋しぐれ」「穴ひらき」「肉鞘」「人鳥黐(とりもち)」「百夜ぐるま」と、名称から推察されるように性的な忍術が多い。
胎児もろとも侍女たちを殺そうとする伊賀忍者と、そうはさせまいとする侍女たちの妖しくも壮絶な肉弾戦が繰り広げられ、くノ一とはいえ侍女たちはひとりを除き、妊婦なのである。くノ一たちは、死をも恐れない潔さで胤を死守しようとする。
中盤からは、巨体と怪力の持ち主である長宗我部盛親の妻・丸橋が、千姫の味方として働くようになる。はたして勝つのは家康か千姫か。

「忍法穴開き」は、一度性交した相手と再び交わると相手をショック死させる術で、アナフィラキシーをもじった命名だという。いかにも東京医科大学卒業の山田風太郎らしい駄洒落だ。「山田風太郎ワールド」には、奇想がふんだんに詰め込まれている。

伊賀忍法帖/山田風太郎/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/山田風太郎/講談社文庫/1999年

『ヒトの発達の謎を解く 胎児期から人類の未来まで』明和政子

著者は京都大学霊長類研究所研究員を経て、現在は同大学院教授。
本書のポイントは、次の3点である。霊長類と比較してヒトの子育てのあるべき姿を探り、成長期の脳と心の発達を科学的に解説し、今を生きる世代として人類の未来に果たすべき責任を考察する。


ヒトの発達の謎を解く (ちくま新書)

明和 政子(Myohwa Masako
ちくま新書
2019年10月 ✳︎10

養育者(普通は母親)が授乳や抱くことで乳児の「内需要感覚」が心地よい状態となり、母親から微笑みかけられる(視覚)、声をかけられる(聴覚)などの「外需要感覚」を与えられる。こうした経験をくり返すことで、乳児の脳には記憶が生じる。母親の顔や声、匂い、肌触り、を感じるだけで母親の存在が概念として浮かび上がる。

外需要感覚(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)、自己需要感覚(荕・骨格・関節から生じる運動感覚、前庭器官により生じる平衡感覚)、内需要感覚(自律神経の感覚を含めた内臓状態の感覚)の三つの身体感覚を、環境と相互作用する過程で同期的・連続的に経験していくことで、自分の身体が自分のものであるという認識が生まれてくるという。

他者の身体なくしてヒトは育たない。幼少期に養育者との間でアタッチメント(母子間の結びつき)形成がうまくいかないと、心身の発達に遅れや問題が生じたり病気に対する抵抗力や免疫の働きが低下することがわかっている。幼児期に母親とのアタッチメントが剥奪されたケースでは思春期以降に、うつ病や多動障害、解離性障害などが現れやすくなる。母子のアタッチメント障害が子育てにまつわるさまざまな問題や、若年層の精神疾患を引き起こしている可能性がある。

人間は「予測ー照合ー誤差修正」という神経システムを持っている。人間は対人関係の中で、予測を行ない、予測誤差を検出し、予測を随時修正し、予測を常に更新していく。
自分の身体を自分でくすぐってもくすぐったく感じないのは、くすぐるというという予測と同時にくすぐられるという感覚もあらかじめ予測されているため、実際に生じる誤差が最小になるからであるという。

わずか数十年という短時間に劇的に変化し続けてきた環境に、数百万年という長い時間をかけて獲得してきた身体が直ちに適応できるはずはない。短期間で激変し続ける環境の中で育っていく次世代の脳や心の発達に、何かしらの影響が生じる可能性は無視できないという。

著者は、ホモ・サピエンスの進化のひとつのパターンを提示する。
今の社会に起こっている子育てにまつわる深刻な問題は、社会が喫緊に取り組むべきである。こうした問題を、技術の力(AI)に頼って解消しようとしがちな今の風潮には疑問が残るとする。
今を生きるヒトが、特に子育てにおいてこれまでとは異なる方法を選択していくとしたらどうなるだろう。進化とは合目的ではなく、その時代に生きた個体のうち、環境にたまたま適応的であった個体が生き残っているだけである。その生き残った個体が、ホモ・サピエンスであり続けるかどうかはわからない、とする。

 

『11月に去りし者』ルー・バーニー

本作は、『このミステリがすごい 2020年度版』』では6位、『週刊文春』では20位と評価が大きく分かれている。エルモア・レナードを彷彿とさせるノアール小説であり、恋愛小説でもある。ノアール小説は好みが別れるのかもしれない。

1963年11月22日、ジョン・F・ケネディ大統領が暗殺された。
ニューオリンズの暗黒街のボス、カルロス・マルチェロは、自身とケネディ暗殺を結ぶすべての糸を断ち切るために、暗殺に少しでも関わった人物を次々と殺していく。
実在したカルロス・マルチェロは、ケネディ大統領暗殺の黒幕との疑いがある。


11月に去りし者 (ハーパーBOOKS)

11月に去りし者
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ルー・バーニー/加賀山卓朗
ハーパーBOOKS
2019年 ✳︎9
売り上げランキング: 43,721

ケイジャン人のギドリーはダラスで狙撃犯の逃走用の車を手配しただけだった。その車を処分した男が殺された。ギドリーは自分にも魔の手が及ぶと読んで、テキサスを脱出しカリフォルニアに向かおうとする。

一方、オクラホマの田舎町でふたりの幼い娘を抱え、飲んだくれの夫に悩まされているシャーロットは、ある日決断した。義父母と夫を捨てて、娘たちと病気の犬を車に乗せ、ロサンジェルスのおばの家に向かったのだ。
国道66号線のニューメキシコ州に入ったところで、雨に濡れた路面でスリップしてしまい、側溝にタイヤがはまってしまう。
ギドリーは、事故に遭い途方にくれているシャーロットたちの脇を車で通り過ぎるときに、アイディアが浮かんだ。チャーロットたちと一緒に行動すれば、殺し屋の目を欺けるかもしれない。

本来なら絶対に接点を持つことのないふたり、ニューオリンズのマフィアの幹部候補生とオクラホマの主婦が出会い、そこに非情の殺し屋が追跡をするという構図である。殺し屋は、ギドリーに専念する前に、不覚にも手をナイフで貫通させられる創を負ってしまい、その創が治りきらないハンディを抱える。

シャーロットの利発でチャーミングな幼い娘たちの存在が、一服の清涼剤となっている。

本作はアンソニー賞、バリー賞、マカヴィティ賞、ハメット賞の4冠に輝いた。
読後の評価は、20位ではなくて、6位あるいはそれ以上だ。→人気ブログランキング

11月に去りし者/ルー・バーニー/加賀山卓朗/ハーパーBOOKS/2019年
ガットショット・ストレート/ルー・バーニー/細美遥子/イースト・プレス/2014年

『世界の危険思想』丸山ゴンザレス

著者は、日本や海外の裏社会やスラムや治安が悪いとされる場所で取材をしてきた。そこで出会った悪い人たちの頭の中がどうなっているのか。危険な考え方の根幹の理解に近づくことが本書の目的であるという。強面の著者は、危険な地区でよく現地の人間に間違われるという。取材には好都合だったろう。

世界の危険思想 悪いやつらの頭の中 (光文社新書)
丸山 ゴンザレス
光文社新書
2019年5月 ✳︎8
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ジャマイカで殺し屋に会う。恥をかかされた女を殺して欲しいという依頼が、クライアントから電話で入る。殺し屋はその日暮らしに困るような貧乏人だった。

次に、フィリピンの邦人殺害事件に触れる。
犯人像は、警察を味方にすることができる、わずがな報酬で殺人を請け負う、刑務所に入ることも厭わないような人物であるという。フィリピンでは、交通事故で重症を負わせて治療費を請求されるより、殺す方を選ぶという。

ケニアの窃盗団の話。窃盗団は一人を除いてすべて警察に射殺された。警察の言い分は、取り調べにはひとりいれば十分。殺してしまえば調書は取らなくて済む。残業するくらいなら殺してしまうという発想である。

著者のスラムの定義は、「貧しい人たちや、問題のある人たちが密集して住んでいるエリア」。スラムには普通の人々の暮らしがある。スラムでは富を再分配しなければ、周りから襲撃されることもある。スラム社会と裏社会を同一視する人が多いが、別である。
裏社会のルールは、縄張り、ボスへの忠誠、アンチ警察である。「その通りを越えたら殺されても文句を言えない」という縄張り意識がある。忠誠心を植え付けるには、通過儀礼として、殺人の手伝いやとどめを刺させたりする。

ドラッグの最大消費地はアメリカと中国。
MDMA(エクスタシー)やコカイン、LSDはパーティドラッグとしてノリやテンションをあげるために使われることが多い。これらは線引きのこちら側にあるドラッグ。
線引きの向こう側にあるドラッグは、ヘロインとメス(覚せい剤)でるという。
向こう側に行った人たちの頭の中はやられているので、聞いても無駄であるとする。

フィリピンのドゥテルテ大統領は、麻薬中毒者、売人を逮捕し、抵抗する者の射殺を許可した。国民は大統領を支持した。ところが、麻薬ビジネスに関係していない、警察にとって都合の悪い人間も射殺されるようになり、警察に殺されるくらいなら監獄の方がマシだと、監獄が人で溢れかえっているという。

ボリビアではコカの葉は嗜好品として合法である。精製すれば麻薬になって違法になる。ボリビアでは平均月収が3万円程度、運び屋は1回30万円、捕まれば8年の刑。
運び屋は運転免許があれば誰でもできる。ところがつかまりやすい。捕まっても簡単に替えがきく。

相手を甘いと思ってナメることが、人類の持つ感情の中で最も恐ろしい危険思想だというのが著者の考え。危険思想の持ち主は、際限なく自分の感情を押し付ける権利を持っていると錯覚してしまう。相手に対する敬意のなさが原因であるとする。

『インディアンとカジノ アメリカの光と影』野口久美子

本書のキーワードは「国家の良心」である。アメリカが、アメリカ全土を所有していたインディアンとの約束(契約)を、どう履行しようとしてきたかである。

インディアンとカジノ (ちくま新書)
野口 久美子(Noguchi Kumiko
ちくま新書
2019年11月 ✳︎10

1990年代以降、カジノを建設するインディアン部族が急増した。現在240の部族が、500以上のインディアン・カジノを経営しており、およそ20年で総収益がアメリカの商業カジノの収益を上回った。インディアン・カジノは、保留地内では州の税制や法制度の適用が制限されるという経済活動上のメリットを生かした、保留地ビジネスである。
インディアン・カジノ時代は、部族がその当然の権利を行使することによって出現した、インデアン史の新しい時代であるという。真に見えてくるのは、それまでに解決されてこなかった、インディアンの圧倒的な貧困であるという。

アメリカはインディアン部族という主権国家群の土地の上に建国された国である。アメリカには、個々の部族を一つの主権国家と承認したうえで、部族から土地の譲渡を受け、その見返りに部族自治を保護するという約束がある。この方針を、インディアン史の権威ウィルコム・ウォッシュバーンは、「国家の良心」と呼んだ。

アメリカ憲法では、部族は国内依存国家という固有の政治的地位を持ち、部族に州法は適応されないこと、連邦政府が部族の政治的地位を保護する責任があることの3点が明確になった。しかし、現実は保留地に閉じ込めただけで、十分な補償は望むべくもなかったのが実情である。

国家を頼りにすることを諦めたインディアンが、貧困から抜け出そうとして考え出されたのが、タバコ産業であり、その次がビンゴ、そしてカジノである。
1977年、フロリダ南部のセミノール部族の保留地にビンゴ場の建設が予定された。1979年、ビンゴ場は予定通りにオープンした。大盛況で6ヵ月で融資を返済する大成功のビジネスとなった。
1980年、カリフォルニア州南部の部族カバゾンが、保留地内にカジノを開いた。州はカバゾン・カジノに営業停止を命じた。しかし最終的にアメリカ最高裁判所に持ち込まれ、1987年、「保留地における部族カジノは州に規制されない経済行為である」との判決が下った。
カバゾン判決以後、カジノ産業に乗り出す部族が急増した。部族は経済的自活の手段を獲得したのである。
1988年、レーガン大統領によって、「インディアン・ゲーミング規制法(カジノ法)」制定された。同法は、インディアン・カジノ産業に連邦と州がどこまで介入できるのか、どこからが介入できないかという点を明確化した。これが「アメリカ(国家)の良心」の今日的な姿であるという。

インディアン・カジノは、連邦政府の責任回避の結果である。アメリカは建国期から部族自治を尊重し、保留地を保護する責任を負ってきたはずである。この「良心」は過去200年以上もの間、司法、行政、立法の指針とされながらも、その元来の意味は有名無実化されてきた。そして、強制移住政策行われ、抵抗する部族を虐殺し、そして保留地政策が行われた。アメリカが保護責任を放棄してきた結果が、インディアン部族に圧倒的な貧困をもたらしたのは間違いないとする。

インディアンとカジノ アメリカの光と影/野口久美子/ちくま新書/2019年
インディアンの夢のあと:北米大陸に神話と遺跡を訪ねて/徳田いつこ/平凡社新書/2000年

『虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』ジャン=ガブリエル・ガナシア

著者はソルボンヌ大学コンピュータ・サイエンスの教授、哲学者。
本書の主旨は、シンギュラリティは真面目に検討するに値しない、ウェブ業界のリーダーたちは、新しい社会秩序を作り国家に代わって世界を支配するという政治的な野心を持つという2点である。

虚妄のAI神話:「シンギュラリティ」を葬り去る (ハヤカワ文庫NF)
ジャン=ガブリエル・ガナシア /伊藤直子・他
ハヤカワNF文庫
2019年7月 ✳9

2014年、スティーヴン・ホーキンス博士はイギリスの新聞「インディペンデント」で警鐘を鳴らした。人工知能(AI)の技術は瞬く間に発展し、すぐに制御不能となって、人類を危機的状況にさらすと。その後そうそうたる顔ぶれの科学者たちが、この懸念に同調した。

レイ・カーツワイルが唱えるシンギュラリティ仮説は、2045年に、AIの能力が人間を超え、人間の意識はコンピュータとつながり、トランス・ヒューマンとして死を遅らせる可能性や、テクノロジーにより不死への道が開かれるというもの。
シンギュラリティ仮説は、技術は指数関数的に発展するという経験則に基づいている。
ムーアの法則によれば、どのようなタイプの集積回路でも、トランジスタ数は18ヵ月から24ヵ月ごとに2倍になる。同様のペースでコストは半分になり、コンピュータの性能、処理速度、記憶容量が2倍になる。それだけでなく、カーツワイルは生命の進化や文化的な発展なども含む分野で、指数関数的成長が出現するという。
シンギュラリティ仮説は、当然行われるべき異なる仮説との比較が皆無で、「真面目に検討するに値しない」と結論づけている。

後半で、著者はAIを「仮像」としてとらえている。「仮像」とは、鉱物が本来の結晶形を示さず、外形を変えずに、成分が置換がして新しい鉱物になったもの。シンギュラリティ仮説という怪しげな神話によって、未来(AI技術)が本来の姿から変質させられているということだろう。

最終章で、著者はウェブ業界のリーダーたちが行おうとしていることに仮説を立てる。
なぜ、GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト)など、ウェブ業界を牛耳る大企業はシンギュラリティ仮説を後押しするのか。ウェブの巨人は、GAFAMのほかに、最近はNATU(ネットフリックス、エアビーアンドビー、テスラ、ウーバー)が加わり、さらにツイッター、ヤフー、ペイパルの名が挙げられる。

ウェブ業界のリーダーたちの大半は若くして成功し、ほんの数年で膨大な時価総額を記録し、社会の様相を変えてしまった。向かうところ敵なしで、自信を得たのだ。彼らは、未来の鍵を手に入れた自分たちこそ、人間の新しい時代を切り開いていくと信じて疑わない傲慢さに満ちている。
つまり、リーダーたちの中には、カーツワイルのトランスヒューマンやニック・ボストロムのスパーインテリジェントのような、人間を超越した存在になるにふさわしい人間と信じている者もいるだろう。
著者は指摘する。リーダーたちは、AIが自律し人間を支配するかもしれないが、なにが起きようと歴史の流れであり仕方がないことと責任を回避しようとしているという。
さらに、彼らが新しい社会秩序を作り、国家に代わって世界を支配するという政治的な野心をもつと、断言している。

『AI以後 変貌するテクノロジーの危機と希望』丸山俊一(編著)+NHK取材班 NHK出版新書 2019年10月
銀河帝国は必要か? ロボットと人類の未来』稲葉振一郎 ちくまプリマー新書 2019年9月
AI倫理 人工知能は「責任」を取れるのか』西垣 通 河島茂生 中公新書クラレ 2019年9月
虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』ジャン=ガブリエル・ガナシア/伊藤直子・他 ハヤカワNF文庫 2019年7月

『ジャズの歴史 100年を100枚で辿る』中山康樹

100枚のアルバムからジャズ史をみるという試み。
アルバムから歴史を語るのは、制約の多いことだが、そこは博学広才の著者(2015年に亡くなったが)ならではの強引ともいえる手法でやってのける。アルバムの特徴を捉えたキャプションと分析は、的確である。

10010
ジャズの歴史 100年を100枚で辿る

中山康樹
講談社+α新書
2014年 ✳︎10

 

 

19世紀の終わりに、ブルーズとラグタイムと楽団のクレオール音楽の融合によりジャズがニューオリンズで生まれたというのが、ジャズの起源の定説である。
著者はラグタイムをジャズの原点と位置づける。ラグタイムに始まる初期のピアノ演奏スタイルは、のちに前衛と呼ばれる人たちや現代ジャズのピアニストのなかにも認められるという。そこで、1枚目は、スコット・ジョプリンのラグタイム『エンターテイナー』(1896年)である。

本書の構成は、1ミュージシャン、アルバム1枚を原則とするが、マイルス・デイヴィス(4枚)、 ウィントン・マルサリス(3枚)は別格だという。それは異論のないところだ。

幾つかをひろってみる。
チャーリー・パーカー&ディジー・ガレスピー『トゥゲザー』(1945年)NO14
〈ビバップの中心となった最強コンビ〉、天才的なチャーリー・パーカーと脅威的な職人技を見せつけるディジー・ガレスピーはそれぞれが天才だった。「悪魔と取引をした音楽」といわれた。

セシル・テーラー『ジャズ・アドヴァンス』(1955年)NO19
60年代に勃興したフリージャズ(前衛ジャズ)は、いかに変わった文体を構成するかという、実験精神に富んだものだった。土台をセシル・テーラーがつくり、極北を示したのもまたセシル・テーラーだったとする。

アート・ブレイキー&ジャズ・メッセンジャーズ『モーニン』(1958年)NO23
ハードバップとは、言わばビバップのイージー・リスニング化であり、より音楽的な要素を取り入れた室内音楽的ジャズであった。だから、ビバップはライヴが、ハードバップはスタジオが似あうという。『モーニン』はその後ライヴで何度となく演奏されたものの、このスタジオ・ヴァージョンにみられるハードバップ感を再現することはなかった。

セロニアス・モンク『アンダーグラウンド』(1967年)NO51
モンクの演奏は当時怒涛の勢いで流行り出したロックに伍する形になったと著者はみる。モンクはロックを受けて立つくらいのロック的要素を持っていて、ロック・ファンからも支持されてという。

ジョン・コルトレーン『エクスプレッション』(1967年)NO47
本作のキャプションは、〈トリップ・ミュージックとして受容された哲学的ジャズ〉である。コルトレーンを表現するのに、これ以外の言葉はないだろう。

ハービー・マン『メンフィス・アンダーグラウンド』(1968年)NO52
本作の解説に、フリージャズが前衛を追求しようとするあまり、ファンが離れていった理由のひとつが書かれている。
〈創造性や時には難易度の高さが尊ばれるジャズにあって、商業的成功はしばしば無価値に等しい扱いを受ける。 つまり、そのテクニークや斬新性が仲間内で認められれば、人気は二の次だという志向だ。〉ジャズマンの「武士は食わねど・・・」の高潔な心意気が、ジャズを崩壊させ騒音のようになって音楽から遠のいていった理由だろう。

それを本流に引き戻したのが、ウィントン・マルサリス。
『ブラック・コーズ』(1985年)NO79には、〈復権なったプロテスト・ジャズの最高峰〉、『スタンダードタイムVol.1』(1986年)NO80には、〈現代メインストリーム・ジャズの出発点〉というキャプションが付けられている。それは伝統的なアコスティック・ジャズの復権である。

生きているジャズ史』油井正一立東舎文庫 2016年
ジャズの歴史 100年を100枚で辿る』中山康樹 講談社+α新書 2014年
現代ジャズ解体新書 村上春樹とウィントン・マルサリス』中山康樹 廣済堂新書 2014年
新書で入門 ジャズの歴史』相倉久人 新潮新書 2012年
ジャズに生きた女たち』中川ヨウ 平凡社新書 2008年

『悪の脳科学 『笑ゥせぇるすまん』喪黒福造に学ぶ「人のココロの操り方」』中野信子

意志の力は大脳の新皮質である前頭前野の働きであり、一方、情動は旧皮質の働きで、食欲や性欲などの本能や生命を維持するための根本機能に関わる領域である。人間が本能に負けてしまうのは、仕方のないことだという。

Akunonoukagaku


悪の脳科学

中野信子
集英社新書
2019年11月 ✳︎6

 

喪黒福造の名刺には、「❤️ココロのスキマ・・・お埋めします」というキャプションがついている。苦悩するターゲットに喪黒福造が突きつける条件は、約束を守ればハッピーだが、破れば悲劇が待っているというもの。

守るにたやすい条件だから、はじめはバラ色である。ところが、主人公のちょっとした気の緩みで、本能に負けて約束を破ってしまい、地獄をみるというのが、ストーリーのパターン。

著者は、喪黒福造がターゲットに近づき、信頼を得るテクニークに注目する。
「ラポールの形成」「コールド・リーディング」「メタ認知能力」という用語が目新しい。
「ラポール(rapport)」とは、人間間の信頼関係を指す臨床心理学用語。
「コールド・リーディング」は、相手の境遇や心理状況をいい当てる技法。マジック・ショーや詐欺師がターゲットの心理をコントロールするためにmもちいる。
「メタ認知能力」とは俯瞰で自分を見る能力のことである。

巻末には、 漫画『笑ゥせぇるすまん』の作者・藤子不二雄Ⓐとの対談が載っている。
本書はやっつけで、でっち上げた感じがする。1ページの行数が13行と少なく、行間がスカスカ空いる。著者の本は、最近、質が落ちてきた。

悪の脳科学/集英社新書/2019年
キレる!/小学館新書/2019年
シャーデンフロイデ  他人を引きずり下ろす快感/幻冬社新書/2018年
サイコパス/文春新書/2017年
ヒトは「いじめ」をやめられない/小学館新書/2017年

 

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