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2019年12月 8日 (日)

『虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』ジャン=ガブリエル・ガナシア

著者はソルボンヌ大学コンピュータ・サイエンスの教授、哲学者。
本書の主旨は、シンギュラリティは真面目に検討するに値しない、ウェブ業界のリーダーたちは、新しい社会秩序を作り国家に代わって世界を支配するという政治的な野心を持つという2点である。

虚妄のAI神話:「シンギュラリティ」を葬り去る (ハヤカワ文庫NF)
ジャン=ガブリエル・ガナシア /伊藤直子・他
ハヤカワNF文庫
2019年7月 ✳9

2014年、スティーヴン・ホーキンス博士はイギリスの新聞「インディペンデント」で警鐘を鳴らした。人工知能(AI)の技術は瞬く間に発展し、すぐに制御不能となって、人類を危機的状況にさらすと。その後そうそうたる顔ぶれの科学者たちが、この懸念に同調した。

レイ・カーツワイルが唱えるシンギュラリティ仮説は、2045年に、AIの能力が人間を超え、人間の意識はコンピュータとつながり、トランス・ヒューマンとして死を遅らせる可能性や、テクノロジーにより不死への道が開かれるというもの。
シンギュラリティ仮説は、技術は指数関数的に発展するという経験則に基づいている。
ムーアの法則によれば、どのようなタイプの集積回路でも、トランジスタ数は18ヵ月から24ヵ月ごとに2倍になる。同様のペースでコストは半分になり、コンピュータの性能、処理速度、記憶容量が2倍になる。それだけでなく、カーツワイルは生命の進化や文化的な発展なども含む分野で、指数関数的成長が出現するという。
シンギュラリティ仮説は、当然行われるべき異なる仮説との比較が皆無で、「真面目に検討するに値しない」と結論づけている。

後半で、著者はAIを「仮像」としてとらえている。「仮像」とは、鉱物が本来の結晶形を示さず、外形を変えずに、成分が置換がして新しい鉱物になったもの。シンギュラリティ仮説という怪しげな神話によって、未来(AI技術)が本来の姿から変質させられているということだろう。

最終章で、著者はウェブ業界のリーダーたちが行おうとしていることに仮説を立てる。
なぜ、GAFAM(グーグル、アマゾン、フェイスブック、マイクロソフト)など、ウェブ業界を牛耳る大企業はシンギュラリティ仮説を後押しするのか。ウェブの巨人は、GAFAMのほかに、最近はNATU(ネットフリックス、エアビーアンドビー、テスラ、ウーバー)が加わり、さらにツイッター、ヤフー、ペイパルの名が挙げられる。

ウェブ業界のリーダーたちの大半は若くして成功し、ほんの数年で膨大な時価総額を記録し、社会の様相を変えてしまった。向かうところ敵なしで、自信を得たのだ。彼らは、未来の鍵を手に入れた自分たちこそ、人間の新しい時代を切り開いていくと信じて疑わない傲慢さに満ちている。
つまり、リーダーたちの中には、カーツワイルのトランスヒューマンやニック・ボストロムのスパーインテリジェントのような、人間を超越した存在になるにふさわしい人間と信じている者もいるだろう。
著者は指摘する。リーダーたちは、AIが自律し人間を支配するかもしれないが、なにが起きようと歴史の流れであり仕方がないことと責任を回避しようとしているという。
さらに、彼らが新しい社会秩序を作り、国家に代わって世界を支配するという政治的な野心をもつと、断言している。

『AI以後 変貌するテクノロジーの危機と希望』丸山俊一(編著)+NHK取材班 NHK出版新書 2019年10月
銀河帝国は必要か? ロボットと人類の未来』稲葉振一郎 ちくまプリマー新書 2019年9月
AI倫理 人工知能は「責任」を取れるのか』西垣 通 河島茂生 中公新書クラレ 2019年9月
虚妄のAI神話 「シンギュラリティ」を葬り去る』ジャン=ガブリエル・ガナシア/伊藤直子・他 ハヤカワNF文庫 2019年7月

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