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『ヒトの発達の謎を解く 胎児期から人類の未来まで』明和政子

著者は京都大学霊長類研究所研究員を経て、現在は同大学院教授。
本書のポイントは、次の3点である。霊長類と比較してヒトの子育てのあるべき姿を探り、成長期の脳と心の発達を科学的に解説し、今を生きる世代として人類の未来に果たすべき責任を考察する。


ヒトの発達の謎を解く (ちくま新書)

明和 政子(Myohwa Masako
ちくま新書
2019年10月 ✳︎10

養育者(普通は母親)が授乳や抱くことで乳児の「内需要感覚」が心地よい状態となり、母親から微笑みかけられる(視覚)、声をかけられる(聴覚)などの「外需要感覚」を与えられる。こうした経験をくり返すことで、乳児の脳には記憶が生じる。母親の顔や声、匂い、肌触り、を感じるだけで母親の存在が概念として浮かび上がる。

外需要感覚(視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚)、自己需要感覚(荕・骨格・関節から生じる運動感覚、前庭器官により生じる平衡感覚)、内需要感覚(自律神経の感覚を含めた内臓状態の感覚)の三つの身体感覚を、環境と相互作用する過程で同期的・連続的に経験していくことで、自分の身体が自分のものであるという認識が生まれてくるという。

他者の身体なくしてヒトは育たない。幼少期に養育者との間でアタッチメント(母子間の結びつき)形成がうまくいかないと、心身の発達に遅れや問題が生じたり病気に対する抵抗力や免疫の働きが低下することがわかっている。幼児期に母親とのアタッチメントが剥奪されたケースでは思春期以降に、うつ病や多動障害、解離性障害などが現れやすくなる。母子のアタッチメント障害が子育てにまつわるさまざまな問題や、若年層の精神疾患を引き起こしている可能性がある。

人間は「予測ー照合ー誤差修正」という神経システムを持っている。人間は対人関係の中で、予測を行ない、予測誤差を検出し、予測を随時修正し、予測を常に更新していく。
自分の身体を自分でくすぐってもくすぐったく感じないのは、くすぐるというという予測と同時にくすぐられるという感覚もあらかじめ予測されているため、実際に生じる誤差が最小になるからであるという。

わずか数十年という短時間に劇的に変化し続けてきた環境に、数百万年という長い時間をかけて獲得してきた身体が直ちに適応できるはずはない。短期間で激変し続ける環境の中で育っていく次世代の脳や心の発達に、何かしらの影響が生じる可能性は無視できないという。

著者は、ホモ・サピエンスの進化のひとつのパターンを提示する。
今の社会に起こっている子育てにまつわる深刻な問題は、社会が喫緊に取り組むべきである。こうした問題を、技術の力(AI)に頼って解消しようとしがちな今の風潮には疑問が残るとする。
今を生きるヒトが、特に子育てにおいてこれまでとは異なる方法を選択していくとしたらどうなるだろう。進化とは合目的ではなく、その時代に生きた個体のうち、環境にたまたま適応的であった個体が生き残っているだけである。その生き残った個体が、ホモ・サピエンスであり続けるかどうかはわからない、とする。

 

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