妖説忠臣蔵 山田風太郎
妖説は造語であるが、なんとなく意味が伝わる。妖には謎となまめかしさの合わさったニュアンスがあり、妖説は妖しいスピンオフという意味である。山田風太郎は歴史からモチーフを取り出して見事なスピンオフに仕立て上げる天賦の才をもっている。本書は、その才能がいかんなく発揮された短編集である。
妖説忠臣蔵 山田風太郎 集英社文庫 2014年 |
「赤穂飛脚」
海つばめのお銀は、妹が吉良上野介に差し出される前に、京の置屋から妹を身請けする金を手に入れるために、吉良邸に忍び込み小判を盗み出した。吉良の家臣・清水一学に追跡され、赤穂藩の萱野三平がかくまってくれて難を逃れた。お銀は一学に心惹かれた。
その頃、殿中松の廊下で浅野内匠頭が上野介を斬りつけた。
赤穂藩江戸屋敷から刀傷沙汰を伝える書状が早飛脚に託された。一方、赤穂藩の悪徳江戸家老は、藩が取りつぶしになる前に藩の金を持って逃げるようにと家臣への書状を悪党に託した。
萱野三平は一大事を赤穂藩に知らせるため、清水一学はそうはさせじと、悪党どもは萱野より早く悪家老の書状を届けるため、赤穂に向かう。一方、お銀は妹を身請けしに京に向かい、四者は箱根の関所の前で大井川で上野介の地元の岡崎で、出くわす。
「殺人蔵」
銃で弾を放った男に手裏剣で傷を負わせ、その男をつけていくと、とある家で追跡ができなくなった。狙われた駕籠の老人の警護していた3人の男を、別の日に、吉原で見かけ後をつけた。3人の隣の部屋に部屋をとった。灰方、井口、大久保のうち裏切り者がいると、かつて銃で狙われた老人が言う。灰方が殺された。井口は腕をけがしている。つぎに大久保が殺られた。犯人は?そして語り手は?
「蟲臣蔵」
塩谷半平は大望を前に犬を斬って捕吏に追われる身となって切腹した。
半平の妹・お縫は田中貞四郎の許嫁である。討ち入りあとは切腹が待っている。お縫の父親が身体を壊して医者に診せる金がいる。貞四郎は京の色町で遊び呆ける内蔵助から金を借りると京に向かった。貞四郎が帰るとお縫は身を売っていた。
仇討ち急進派でありながら酒と女に溺れ脱落した貞四郎を描く。
「俺も四十七士」
南八丁堀に5人の男が住みこんだ。3人は武士で、他に医者と下男の喜十郎。
大坂から喜十郎の妻が江戸にやって来て、喜十郎の勤め先を見つけてきたという。ふたりが訪れたのは、上杉藩の江戸屋敷。上杉藩の藩主は吉良上野介の息子・綱憲である。喜十郎が気づいたときには、遅かった。妻は斬られ死んだが、喜十郎はほうほうの体で逃げ帰った。
そして、松平隠岐守に預けられた10名はいよいよ切腹の時が迫っていた。そのなかにまったく目立つことのなかった千馬三郎兵衛こと喜十郎がいた。
「生きている上野介」
討ち入りから2年半の夏、上野介が生きているという噂が立った。吉良以上に世間から蔑まれたのは討ち入りを回避した奥野将監である。四十七士は誰も上野介の顔を知らなかった。上野介らしき人物は上杉藩の江戸屋敷にいるという。内蔵介は信頼をおく奥野を、上野介が生き残ったときの二番隊として残したというが。。→人気ブログランキング
妖説忠臣蔵/集英社文庫/2014年
忍法忠臣蔵/角川文庫/2014年
明治断頭台/文春文庫/2012年
伊賀忍法帖/講談社文庫/1999年
くノ一忍法帖/講談社文庫/1999年
甲賀忍法帖/講談社文庫/1998年
ラスプーチンが来た/文藝春秋/1984年
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