マンハッタン・ビーチ ジェニファー・イーガン
連作短篇『ならずものがやってくる』で、ピューリッツァー賞(2011年)を受賞したジェニファー・イーガンの作品。舞台は第二次大戦下のニューヨーク。差別に果敢に立ち向かい女性潜水士を目指すアナの物語。
12月末、11歳のアナ・ケリガンが父親のエディに連れられて、高級住宅地マンハッタン・ビーチにあるデクスター・スタイルズの屋敷を訪れるところから、物語は始まる。エディは裏金を受け渡しする運び屋をやっていたが、アナは父の仕事の内容を知らない。
マンハッタン・ビーチ ジェニファー・イーガン/中谷友紀子 早川書房 2019年 |
1942年、太平洋戦時下、母と重い障害の妹とともにアパートで暮らす19歳のアナは、ブルックリンの海軍工廠で働いていた。
5年前に、なんの前触れもなくなんの痕跡も残さず、父が失踪した。
友達と訪れたナイトクラブで、アナはデクスターに出う。アナはかつてデクスターの屋敷を父親とともに訪れたことを思い出した。デクスターが父親の消息を知っていると確信し、それを確かめるためにデクスターに近づこうとする。
アナは子どもころから意志が強く、寒さにも強かった。海が大好きで、海の底を歩いてみたいと思っていた。
潜水夫の仕事に興味があるとアナは大尉に相談したが、相手にされなかった。潜水夫への憧れはアナの中でどんどん膨らんでいく。潜水具は総重量が90キロもある。女子トイレはなく、更衣室は物置だ。男しかいない世界はセクハラとパワハラが待ち受けていた。
潜水夫の道を選んだアナの奮闘、WAPSの銀行家の令嬢と結婚したデクスターのイタリア・マフィアとしての生活、マフィアの下っ端として働くエディの失踪後の生き様、この3人を軸に物語は進んでいく。
戦時中の耐久生活を強いられるなか、アナは女性であるハンディキャップと思わぬアクシデントを、持ち前の意志の強さと人を惹きつける人間的な魅力を武器に、果敢に乗り越えていく。
怒涛の展開にぐいぐい引き込まれてしまう。大傑作だ。→人気ブログランキング
『ならずものがやってくる』 ハヤカワepi文庫 2015年
『マンハッタン・ビーチ』早川書房 2019年
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