機功のイブ 乾 緑郎
大傑作だ。奇想の展開にページをめくる手が止まらない。
天府(江戸を想定した大都市)を舞台に、「機功人形(オートマタ)」、いまで言えばヒト型汎用AI、かつては「アンドロイド」と呼ばれる人間と見紛うロボットが登場する。タイムトラベルものではない斬新な設定である。しかも、物語の背景には公儀と女系によって継承される天帝家(朝廷)の覇権争いがあり、大きいスケールで描かれている。
機巧のイヴ 乾 緑郎(Inui Rokuroh) 新潮文庫 2017年 |
幕府精錬方手伝という得体の知れない役職に就く釘宮久蔵は、60歳がらみの天才機巧師(ロボット制作者)である。久蔵が作った人間と区別がつかないくらい精巧な機巧人形の伊武(イヴ)と、天府の郊外に暮らしている。
5話が連作短編のかたちなしていて、巨大遊郭に君臨する遊女・羽鳥を描いた第1話「機巧のイヴ」には、公儀が催す闘蟋会(蟋蟀同士を戦わせる競技)に、無類の強さを誇る闘蟋が持ち込まれる。それは機巧化された蟋蟀だった。機巧化された蟋蟀は後半につながる伏線である。
第2話「箱の中のヘラクレス」は、有望な若手の相撲取り・天徳鯨右衛門を描いた。第1話と2話は、独立した短編としても優れた出来栄えである。
公儀隠密・田坂甚内が釘宮久蔵への巨額の金の流れを調べていると、天帝家とのつながりが見えてきた。(第3話)。
第4話では、舞台が上方(京都を想定している)の朝廷に移り、女帝に仕える隠密・春日が登場する。
甚内にとって謎は深まるばかりだ。
精錬方手伝・釘宮久蔵とその居宅に住む伊武はいったい何者なのか。幕府転覆を狙った比嘉恵庵事件と「機巧人形」つながりは何か。久蔵の機巧の師匠は恵庵だった。さらに天帝家に伝わる「神代の神器」とは何か。
そして、最終章ではロボットに魂があるかないかが語られる。→人気ブログランキング
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