バンクシー 毛利嘉孝
2018年10月、ロンドンのサザビーズのオークションで、バンクシーの絵が1億5千万円で落札され、その瞬間、絵がシュレッダーで短冊状に切れていくショッキングな映像がTVに流れた。
2019年1月には、東京都港区の新交通ゆりかもめ日の出駅付近の防潮扉に描かれたネズミの絵が、バンクシーの作品であるとニュースになった。本物と鑑定したのは本書の著者である。
バンクシー アート・テロリスト 毛利 嘉孝 光文社新書 2019年 |
1990年代から2000年代にかけて、バンクシーはイギリスの西の港町、人口46万人のブリストルを中心に活動するグラフィック・アーティストだった。90年代のバンクシーは今のようにまったく正体不明のアーティストというわけではなく、グラフィック・アートの世界ではそこそこ名が通っていた。
バンクシーが身を隠す理由は、落書きはイリーガルだからだ。入国を拒否されたり、場合によっては逮捕され収監されたり、多額の罰金の支払いを言い渡されることもある。バンクシーは今はチームで活動している。
バンクシーが多用するステンシルという手法は、あらかじめ段ボールなどを切り抜いて型紙を準備しておいて、その型紙の上からスプレーで絵の具を吹きかけて絵を描く手法である。人に見つからないうちに短時間に描けるので実践的な手法である。
そうした手法は、他のストリート・アーティストからと「チキン」が取る方法だとも言われている。
バンクシーの活動は、アート・テロリストと呼ばれるように、いたずらであり犯罪である。言い方を変えれば既成体制に対する反骨精神の現れである。
パレスチナ自治区の分離壁に壁に「穴を開けた」だまし絵を描いた。この分離壁はイスラエルが建てたもので国連から非難決議が出されている。これをきっかけに、パレスチナの分離壁は世界中のグラフィック・ライターが作品を残す一大スポットとなっている。
2015年夏の2か月間、バンクシーはイギリスのサモセットのリゾート地にデズニーランドのパロディである不機嫌なテーマパーク《ディズマランド》を建設した。
チャーチルの銅像の頭に芝生を乗せモヒカン刈りにしたり、イラク戦争反対のCDを出したり、金を出せばなんでもできるという考えのパレス・ヒルトンのミュージックCDのパロディ版を発売したり、既成の体制を批判するものである。その活動にはイギリス的皮肉が垣間見える。
バンクシーが、2006年にブリストルの性医療クリニックの壁に描いた、窓からぶら下がる間男の絵を、残すべきか消すべきかについて、オンライン世論調査が行なわれた。その結果、97%が残すべきとした。イギリスの歴史において初めてイリーガルな絵が、「しょうがない、いいだろう」と認められる歴史的な作品になった。
ストリート・アートは多くの場合、上書きされたり消されたりして現実の世界から消えてしまう。そうした作品を積極的に残すかどうかという問題がある。→人気ブログランキング
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