機功のイブ 帝都浪漫篇 乾 緑郎
本書は、『機巧のイブ』『機巧のイブ 世界覚醒篇』に続くシリーズ第3弾である。本シリーズは、SFのスティーム・パンクに属する。スティーム・パンクとは、蒸気機関車が発達していく時代を背景としたSFやファンタジー作品のこと。イギリスでいえばビクトリア朝時代、日本でいえば明治から大正期、つまり近代化が推し進められていく頃の世界観の中で描かれる作品をいう。SFのサブカテゴリーである。
前作から25年が経過した1918年の日下國(日本)の天府(東京)と、1927年の如州・新天特別市(満州国新京特別市)が舞台となる。
機巧のイヴ 帝都浪漫篇 乾 緑郎 新潮文庫 2020年 |
17歳のナオミは天府女子高等学校の5年生、良家の娘らしく人力車に乗って上品に登校した。同じく5年生の轟伊武は自転車で颯爽と登校するが、ブレーキが効かなくて、ナオミの車夫に受け止められるというドタバタの場面から物語は始まる。
伊武の養父・轟八十吉は立志伝中の人物である。新大陸から帰国後工務店を立ち上げ、成功を収めた実業家だ。護身術である馬離衝の師範であり、「国際バツリ協会」の総裁を務めている。
一方、ブロンドで碧眼のナオミはフェル電気商会の令嬢である。ナオミの母親のマグリット・フェルは、日下國にフェル電気産業の現地法人を設立して移住してから25年が経っている。男性機巧人形である仁左衛門を買い取り、さらに幕府精錬方手伝の拝領屋敷方も買い取り、そこで暮らしている。結婚してナオミを生んだが、夫は出て行った。
ナオミは画家の姫野清児(モデルは東郷青児)に熱を上げていて、姫野が滞在する猫地蔵坂ホテルに行き、そこで林田に出会う。林田は特高がマークするジャーナリストである。林田の父親は、前作のゴダム(シカゴ)万博に絡む事件で人殺しの罪を着せられて、電気椅子による死刑になった日向丈一郎である。
伊武とナオミが学校から禁止されているカフェに出入りしたり、喧嘩をしたり、伊武が姫野の裸婦モデルになったり、ナオミが汁粉屋でアルバイトをしたりで物語は進む。帝都を襲った大震災(関東大震災)から物語は大きく動き出す。
場面は1927年の如州・新天特別市に変わり、女優・張桜香は鯨の絵が書かれた腰掛けらしき箱だけを大事そうに抱えてアパートに引っ越してきた。
如洲電影協会の理事長として憲兵出身の遊佐泰三が現れてから、事は不穏な方向に進みだす。
『機巧のイブ』3部作の完結編であるが、解き明かされない謎があり、続篇が期待できそうな余韻がある。→人気ブログランキング
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機功のイブ 帝都浪漫篇/新潮文庫/2020年
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