デトロイト美術館の奇跡
本書は、デトロイト美術館(DIA)をめぐる4つの連作短篇と、著者と女優・鈴木京香との対談からなる。
短篇はDIAに数々の所蔵作品を寄贈した富豪の話、美術館を愛したアフリカン・アメリカンの夫婦の話、デトロイト市の財政破綻に伴う美術館存続の危機にまつわる2つの話からなる。
本書には、もう一人の主人公ともいうべき《マダム・セザンヌ》というタイトルの油彩画がある。セザンヌの妻の肖像画である。《マダム・セザンヌ》は4つの短編に通底している。《マダム・セザンヌ》のたたずまいや来歴、さらにDIAの成り立ちを、ストーリーに組み込む著者のテクニックに感心させられる。
デトロイト美術館の奇跡 原田 マハ 新潮文庫 2019年 |
「フレッド・ウィル《妻の思い出》2013年」
明るく前向きだった妻ジェシカが癌で亡くなった。夫婦はDIAで過ごすことを習慣にしていた。夫フレッドが気に入っていたのは不機嫌そうな顔をした《マダム・セザンヌ》。最後に二人でDIAを訪れたとき、ジェシカは、私が亡くなっても「彼女」に会いに来てくれる?と訊ねた。ジェシカが亡くなったあと、フレッドは《マダム・セザンヌ》と会話することを楽しみにしていた。
それが、市の財政破綻でDIA所蔵の作品が売却されると、新聞が伝えた。
「ロバート・タナヒル《マダム・セザンヌ》1969年」
資産家のロバート・タナヒルは76歳で独身、DIAへの財政援助と作品寄付の両方においいて最重要人物であった。4月1日はロバートの誕生日。例年なら10名程度の友人たちとディナーをともにするのだが、今年は医者に止められた。若い頃、社交界の友人たちとヨーロッパを巡った際、ある画廊を紹介された。そこで《マダム・セザンヌ》に出会ったのだ。それ以来、《マダム・セザンヌ》を愛してきた。その秋ロバートが亡くなると、遺言に従い《マダム・セザンヌ》はDIAに寄贈された。
「ジェフリー・マクノイド《予期せぬ訪問者》2013年」
ジェフリーはDIAのチーフ・キュレーターだ。妻を亡くしたフレッドが、DIAのコレクションは高額な美術品なんかじゃない、みんな友達なんだと言って、しわくちゃになった500ドルの小切手を手渡した。
「デトロイト美術館《奇跡》2013〜2015年」
DIAの所蔵作品を売るかどうかの会議が開かれようとしている。ダニエルはその会議の進行役だ。
数週前、ダニエルはキュレーターのジェフリーと、行きつけのカフェで意気投合したのだ。フレッドの小切手が、DIAの救済に寄付という手段があることを気づかせた。
会議ではDIA所蔵の美術品を売却することなく、寄付を募ることで決着した。そして、予想をはるかに上回る寄付が寄せられたのだ。
「著者と鈴木京香の対談」
鈴木京香は、2016年10月から2017年1月まで上野の森美術館で開かれた「デトロイト美術館展 〜大西洋を渡ったヨーロッパの名画たち〜」のナビゲーターを務めた。
印象に残ったのは、鈴木京香が独身であるということと、アートを収集しているということ。→人気ブログランキング
デトロイト美術館の奇跡/新潮文庫/2020年
美しき愚か者たちのタブロー/文藝春秋/2019年
モダン The Modern/文藝春秋/2015年
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