悪党町奴夢散際 乾 緑郎
幡随院長兵衛殺害のその後をミステリ仕立てにした圧巻の時代小説。文句なしの星10だ。
町奴の総元締め幡随院長兵衛が殺された。旗本奴の水野十郎の仕業ではないかとの噂が流れている。
江戸の市中では旗本奴と町奴が敵対している。旗本奴は士分である旗本の小倅たちであり、一方、町奴は同じ悪党だがそれぞれが仕事を持っている町人たちである。旗本奴と町奴は犬猿の仲で、なにかというと張り合っていて、道端で因縁をつけたり喧嘩になったりするのは日常茶飯事だ。
悪党町奴夢散際(あくとう まちやっこ ゆめのちりぎわ) 乾 緑郎 幻冬社時代小説文庫 2018年 ✳︎10 |
長兵衛は、水野の屋敷に呼ばれてから消息を絶ち、膾のように切り刻まれて神田川に浮かんだ。その1週間前に金貸しの座頭が殺されて神田川に放り込まれた。
町奴の夢乃市郎兵衛がお菊という女を寝取られたことで旗本奴を殺した。その仕返しに、旗本奴たちが夢乃と間違えて兄の四郎兵衛を殺してしまった。長兵衛が水野邸に出かけたのは、その揉め事の手打ちだろうと言われていた。
町奴は、夢之という何をしでかすかわからない爆弾を抱えていて、旗本奴の三浦小次郎は隙あらば水野を蹴落として主導権を奪おうと画策している。
そうしたむくつけき男どもの向こうを張って、「鶺鴒組」を率いるお吟はまだ16歳の小娘だが、町奴たちに一目置かれている。お吟は、師匠と仰いでいる女剣客・凄腕の佐々木累の道場に真面目に通っていて、剣と柔術ではその辺の男どもは到底歯が立たない。
一方、旗本奴側にも心が和む人物がいる。それは水野十郎の母お萬の方だ。阿波国徳島藩主である蜂須賀家の姫君だったお萬の方は、未だ30歳半ばで薙刀の使い手、十郎は頭が上がらないという設定である。好奇心旺盛なお萬の方は、旗本奴と町奴の抗争に首を突っ込みたがる。
事の真相が徐々に明らかになっていく。旗本の屋敷で開かれる賭場で、負けが込んだ年配の男が座頭から借金し、どうしようもなくなって首を吊った。その娘・お菊は座頭に仇討ちをしようと、佐々木累の道場を訪れるが、修行しても物にならないと断られる。そこで、お菊は夢之に近づき、色仕掛けで座頭殺しを持ちかけたのが事の発端だった。
長兵衛殺しの犯人探しで、旗本奴と町奴の関係はもつれ、そしてついに血で血を洗う全面戦争に突入する。→人気ブログランキング
ねなしぐさ平賀源内の殺人/宝島社/2020年
機功のイブ 帝都浪漫篇/新潮文庫/2020年
機巧のイヴ 新世界覚醒篇/新潮文庫/2018年
悪党町奴夢散際/幻冬社時代/小説文庫/2018年
機巧のイブ/新潮文庫/2017年
塞の巫女 甲州忍び秘伝/朝日文庫/2014年
« 光秀の定理 垣根涼介 | トップページ | 機巧のイヴ 新世界覚醒篇 乾 緑郎 »
「時代小説」カテゴリの記事
- 壬生の女たち 藤本儀一(2023.06.19)
- 一刀斎夢録 浅田次郎(2022.03.07)
- 仇討検校 乾禄郎(2022.01.19)
- 五郎治殿御始末 浅田次郎(2021.06.24)
- 藍染袴お匙帖 藁一本 藤原緋沙子(2021.05.03)
コメント